第7話仲間たちとの夜
マーズの作る火鍋の香りをかぎ、勇人は空腹であることを再認識した。
サーリアは
「この子はきっと大物になるな。私はこの子につかえようかな」
その様子を見て、微笑みながらシーザーは言った。
「本当にいい子だわ」
サーリアは匙で乳粥を与えながら、そう言った。乳粥を食べ、満腹になった有人にサーリアは慣れた手つきでげっぷをさせる。
その後、有人はサーリアの腕の中ですやすやと眠りだした。
「さすがはファーリアの聖女様だな」
とマーズは感心する。
かつての魔王との戦いで戦災孤児となった子供たちの面倒をサーリアはみている。生来の子供好きも幸いし、サーリアは政務のかたわら、孤児たちの世話をすることにやりがいも感じていた。
子供たちと遊ぶ姿はその美貌もあいまってまさに聖女そのものであった。
「マーズ、おだてても銅貨一枚もでませんよ」
ふふっとサーリアは微笑む。
有人を毛布のうえに寝かせ、サーリアも食事をとることにした。
ドワーフの火鍋はマーズの得意料理の一つであった。多種多様な
これは勇人の考案したもので、カレー鍋に近い。その勇人は固い黒パンをスープに浸して、食べていた。
「久しぶりに食べたが、マーズの火鍋は最高だな」
勇人は褒める。
「あら、わたくしの料理もまけてませんわよ」
何故か、サーリアがむくれている。
「帰ってきて、さっそくいちゃつかないでくれないか。背中がむず痒い」
シーザーがわざとらしく背中をかく。
ある程度食べるとサーリアは有人を連れ、テントの中に消えた。
テントとは言え、ドワーフであるマーズが建てたものは一味違う。
簡易的ではあるがベッドもその中にあるかなり巨大なものだ。
「私も寝るわ。明日はフェアリアルの女王スノウとの謁見があるからな。寝不足では失礼にあたる」
はーあとあくびをし、シーザーもテントの中に消える。
マーズはすっかり空になった鍋の後片付けをしている。
勇人はそれを手伝った。
「すまんな、勇者様に手伝わせて」
すまなそうにマーズは言う。
「なに、気にするな。昔はよくこうしていたでじゃないか」
食器を拭きながら、勇人は言った。
勇人が十四歳のとき、はじめてこの異世界にきて最初に仲間になったのがこの
当時マーズは所属していた冒険者
異世界にきて、右も左もわからない勇人と出会い、二人は意気投合し、仲間になったのである。
その時、考案したのがこの火鍋であった。
屋台でこのドワーフの火鍋を売りにだし、けっこうな儲けを得たものだ。
その儲けを活動資金にして、勇人とマーズは冒険の旅にでたのである。
「懐かしいな。もうあれから十九年か……」
マーズは言った。
食後にマーズは紅茶をいれ、それを勇人に手渡す。同じものをマーズも飲む。
フェアリアルは今、春のようだが、さすがに夜は冷え込む。
テントの中はマーズが火の加護を付け加えているので温かいとのことだ。有人が風邪をひく心配はないだろう。
「もうそんなになるのか。僕はついこの前のように感じるよ」
勇人は言った。
異世界にきて、はじめに出会えたのが彼女マーズであって本当によかったと勇人は思った。手先が器用でよく気のつくマーズがいたからこそ、異世界で死なずにすんだと思う。
マーズを追放した冒険者
昔話に花をさかせたあと、火の始末をし、勇人とマーズも眠ることにした。
森の一族ラーの許可を得ているので、魔物に襲われる確率はかなり低いが、念のため勇人は索敵の
朝になり、最初に目を冷ましたのはシーザーだ。彼女は日課の散歩を終え、帰って来るときにはマーズが朝食の準備をしていた。
ベーコンの焼ける匂いがシーザーの人並み外れた嗅覚を刺激する。
「うまそだな」
舌なめずりしながら、シーザーはベーコンエッグを眺める。
「ああっ、いい匂いだ」
テントから勇人がでてくる。
勇人は旅装に着替えていた。腰には
懐かしいその姿をサーリアはうっとりと見つめる。
朝食はベーコンエッグに薄く切った黒パン。カカリの実の粉を湯でとい物であった。カカリの実は勇人の世界でいうところのコーヒー豆に近い。これも勇人が見つけて、この異世界で流行らせたものだ。
シーザーはこのカカリの実の飲み物が苦手なので、温めた牛乳を飲んでいる。
サーリアはパンを細かくちぎり、温めた牛乳にいれ、それを有人に食べさせた。
ファーリア王国にもどったら、もっといろいろな離乳食を作らなくてはねとサーリアは言った。
朝食を食べ終わった勇人たちはフェアリアルの首都グリムへと向かった。
買い物もろくにできない無能な夫は異世界を救った勇者でした。エルフのお姫様が迎えに来て、いらないのならくださるかしらと言われました。帰ってきてといってももう遅い。 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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