第6話 帰還
ゲートをくぐり、異世界に戻った
その祠をでると潮の匂いを感じた。
どうやらどこかの岬のようだ。
日が沈むほうに断崖絶壁が見えた。
勇人はこの景色に見覚えがあった。
妖精の国フェアリアルの西にあるヴィヴィアン岬であった。
「ここは大陸の西端か……」
感慨深げに勇人は感想をもらす。
勇人は脳内でファーリア王国までの距離を計算する。ざっとした計算であったが馬車で二週間は少なく見積もってもかかるだろう。
サーリアは転移の魔法を使えるので、それほどはかかるまい。
「勇人、乳幼児への転移魔法の乱用は健康状態に悪影響を与えるという研究結果もあります。これ以上はひかえたいと思います」
サーリアは腕のなかですやすやと眠る有人の頬をなでながら、そう言った。
その意見に勇人も賛成であった。
「なら今日の宿はどうする?」
この場所はフェアリアル王国でも辺境に位置する。集落まではまだかなりの距離があると勇人は記憶している。
「おーい、おーい!!」
誰かが大きな声でこちらに騎馬でかけてくる。
その人物はもう一頭、だれも乗せていない馬を引いていた。
器用にその人物は馬をあやつり、勇人たちのもとにやってくる。かなりの騎馬技術がある。勇人はこの人物に見覚えがあった。
「シーザーか?」
勇人は騎乗の人にそう声をかける。
「ひさしいな、勇人の旦那」
にこやかに馬上からその人物は声をかける。
灰色の長髪をなびかせ、シーザーとよばれた人物は笑顔でこたえる。
その灰色の髪の上には狼の耳があった。
そしてその人物は女性であった。サーリアに負けないぐらいの豊かな胸をもち、それを包むような皮鎧を装備していた。背中に大剣を背負っている。
美人とはいいがたいが、どこか愛嬌のある笑顔をもつ女性であった。
馬からおり、シーザーは勇人に抱きつく。
鼻先と鼻先をこすりあう、彼女の種族特有の挨拶をする。
それを見て、ううんっとサーリアが咳払いをする。
それが挨拶だとはわかっていてもサーリアはいい気はしない。
「天狼族のシーザー、勇者ハヤトを迎えに来たよ」
にこりと微笑み、シーザーは言った。
「ここから少しいったとこでマーズが夜営の準備をしている。今日はそこで一夜をすごすことになるよ」
シーザーはそう説明した。
これらはすべて出立前にサーリアが手はずしたものだとも付け加えた。
勇人はシーザーがつれてきた馬にまたがる。その後ろにサーリアが乗る。
有人を抱えたままだというのに、サーリアは片手だけ勇人の手をにぎり、ふわりと馬の背にまたがった。サーリアの身体能力の高さがうかがえる。
勇人たちはかつての仲間の一人であるマーズが夜営の準備をしているという場所に向かった。ヴィヴィアン岬から馬を一時間ほどはしらせたところにその森はあった。森の一族であるラー族が管理する森の一つであった。
「今宵、この森にて一晩の宿とさせていただきます。わたくしはファーリアのサーリアと申します。勇者ハヤト、その子アルト、天狼族のシーザーは決して森を傷つけません。どうかわれわれを受け入れてください」
森の木々にむかってサーリアはそう言った。
森の木々がわずかにざわめき、そして静かになった。
これが妖精の森にはいりためのルールであった。
まず自分たちがなにものかを名乗り、敵意はないことを伝える。
そうすることで森は旅人を受け入れる。
もし、敵意をもって森に入れば、そのときから迷いの森となり、一生森のなかをさ迷い続けることになるだろう。
さらに木々の間をぬけるように馬であるくと焚き火が見えた。
テントを二つが見える。
その焚き火に枯れ枝をいれて火を管理している小柄な女性がいた。
赤い髪をしたその女性は小柄ではあるが、その腕は筋肉質でなかなかたくましかった。
「マーズ、勇人たちをつれてきたよ」
シーザーは森中に響く、大きな声でそう言った。
「まったくシーザーは声がでかいな。そんなに大声でなくてもちゃんと聞こえるよ」
あきれた様子でマーズは答えた。
マーズは勇人をみると満面の笑みを浮かべる。
「ああっ勇人か。ふたたびあんたに出会えたことを火の神に感謝するよ」
マーズは言う。
勇人は馬を降りる。
サーリアも勇人の手をかりて、馬を降りた。
「
勇人はマーズと握手する。二人はがっちりと力強く握手をした。
「さあさあ、腹が減っただろう。ドワーフの火鍋をつくったから皆でたべよう」
マーズはそう良い、焚き火にかけられた鍋の中身を一度かきまぜる。
スパイシーな香りが勇人の食欲を刺激した。
マーズは有人のために山羊の乳粥も用意してくれていた。
その小鍋も火にかけ、温め直す。
「もどってきて早々、ドワーフ料理を味わえるのは運がいいな」
鍋の中身を見ながら、勇人はそう言った。
「勇人様、ささやかですがあなた様のご帰還をいわって今宵は皆で食事をとりましょう」
目をさました有人をあやしあながら、サーリアは言った。
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