第5話~動き出すカナリアの会~②
「なんかすごい女の子って感じの部屋だな……」
1DKの部屋にベッドとテーブル。
何だかファンシーなぬいぐるみの集団。綺麗に整頓されたノートや参考書と謎の雑誌。
流行りのアイドルらしきもののカレンダーやポスター。
「あら、テレビが点けっ放しですわ。電気代がもったいないですの」
赤井がテレビを消そうとする。
「ちょっと待て! ……テレビが点いてるってことは昨日か今朝、観ていたってことだよな?」
「え、えぇ」
「……で、だ。お前流行に疎いんだろ? テレビ見るか? ちなみに私はほぼ見ない」
「私もニュースをたまに見るくらいですわね。昨日は何も見てないですわ」
「私も赤井も22歳。
デモ隊の年齢層に合致するけど、操られることはなかった。
それはもしかしたら、テレビを観てなかったからじゃないか?」
「そう言われると……可能性はなくもないですわね。些かこじつけてる印象もありますが……」
「それだけじゃない。
この部屋を見る限りメグの私生活はかなり几帳面だったみたいだ。
そんな人間がテレビを点けたまま出かけると思えるか?
オマケに部屋の電気やエアコンまでそのままだし」
「まあ、確かに……。メグはアナタと違ってしっかりした子ですわね」
「一言多い! というワケで、テレビを消す前にメグに異変が起きたってことでしょ。
……ほら、昔あっただろ?
アニメを観ていた子供が100人以上病院に搬送されたとか言う事件。
あんな感じでテレビを介して人間に影響を与える超能力者がいるのかもしれない」
「パケモンですわね……。あの事件は確か光を高速で点滅させる表現手法が原因でしたわ」
「光ねぇ……。
1ヶ月前に私を襲ってきた津場井ってヤツがそれ系の超能力者だったな。
もしかしたら似たのが教団内にまだいるのかも」
「光じゃなくて音かも知れませんわね。
人を操る代表例として催眠術がありますわ。
アレなんて音による暗示でしょう」
どうでもいいけど、光、光と言われると自分の名前を呼ばれているようでむずがゆい。
「ああ、それもありそうだな。……ということで、メグがどの番組を観ていたのか、特定しよう」
「ええ」
と言ってもなぁ……。
局くらいしか手がかりがないよなぁ。
今のチャンネルは5か。
つまり旭テレビ。
でも、昨日の夕方から今朝までの放映番組を調べたら10個以上あるし、特定は難しそう。
「ちょっと! これ見てくださらない? この番組!」
赤井が私にスマートホンを差し出す。
『五島魅音のラブリー☆ライブ』……?
なんだこの頭悪そうな番組は。
「これがどうしたって言うのさ?」
「この五島魅音というアイドル、このポスターの人物ですわ!」
あ。本当だ。
下に小さく五島魅音って書いてある。
言われてみればこの人、なんか見たことあるような……ないような……。
「メグはこの番組を見ていたのではないでしょうか?
ポスターを買って部屋に貼り付けるくらいのファンですもの。
19時からのゴールデンタイムの番組を見逃すハズありませんわ」
「あぁ、うん。番組名がバカっぽそうなのもどこかメグのイメージに合うというかなんというか……」
「それ今度本人に言っておきますわね」
「あ、それはやめておいて」
「あの子はバカなんじゃなくて素直なんですの。捻くれたアナタと違って」
「捻くれてるのはお前もだろ……。うーん、まぁ私もあまりメグのことは悪く言いたくない。アイツはいい奴だからな」
「ではそのいい奴を助けるために、今すぐその番組とアイドルについて調べましょう」
「へいへい」
スマホを使って検索検索。
---------
今週の『五島魅音のラブリー☆ライブ』では若者の間で人気急上昇中のアイドル、五島魅音のニューシングル『会いたくなくて』を地上波初放送!
愛と哀しみの狭間で揺れる恋心を歌った、ステキな新曲をお聞きください!
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………はぁー、興味ねぇー。
こんなのが視聴率15%もいったのか。
しかし、ファン層が若者って事でさらにこの番組の疑惑が濃くなったな。
何とかしてこの疑惑を確証にする方法はないだろうか……。あ、そうだ。
……これでよし。
私はたった今、ネット掲示板に1つのスレッドを立てた。
『【速報】五島魅音結婚! お相手は一般の30歳男性』というタイトルで。
もちろん結婚なんてものは大嘘であるが、これだけ人気のあるアイドルなら、タイトルに釣られて閲覧数はそれなりに稼げるはずだ。
どうせアイドルオタクなんて、普段からロクに働かず、学校にもいかず、ネット掲示板ばかり見てるような連中なのだから。
(偏見がすごい)
……しかし、昨晩の番組を見ていた人間が現在全てデモで出払ってるとしたら、どうかな?
……10分経った。
---------
1 :ピカピカ☆ひかりん :
2018/02/27(木) 16:16:41.67 ID:kPRk1Hpt.net
なかったので
2 :ファンクラブ会員番号774:
2018/02/27(木) 16:20:09.66 ID:uh9nkqix.net
は? ソース貼れよクソボケ
殺すぞゴミ
3 :ファンクラブ会員番号774:
2018/02/27(木) 16:24:24.99 ID:P+zYOUNQ.net
なんか過疎ってね?
---------
……全く伸びない。
決まりだな。
「これを見てくれ、赤井」
「アナタ、コテハンなんて使ってますの? イタいからやめた方がいいですわよ」
「うるせえ。何はともあれ、この番組が原因でほぼ間違いないだろ。……旭テレビに行くぞ」
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「お嬢さんたち、お友達同士で旭テレビに観光かい?」
タクシーの運転手が気さくに話しかけてくる。
こっちとしてはそっとしておいて欲しいところなのだが……。
「私たち友達では」
「ええ! そうなんですの! 旭ランドって言うテーマパークがあるとお伺いしてますわ」
何だよ赤井。
人の言葉を遮って。
「……ここで正直に話しても、下手に隠しても、話がこじれるだけですわ。
だから私たちは友達同士、春休みを利用してテレビ局に観光に来た大学生。
いいですわね?」
「分かったよ……」
形だけとはいえ赤井と友達同士になるなんて。
身の毛がよだつね。
「そっかぁ。でも気をつけなよ?
今旭テレビの近くにも例の変な集団が屯してるらしいからねぇ。
国家転覆だーとか言ってるあの連中だよ。
あいつら地方からも合流して、どんどん増えてるらしいよ。
いやぁ、最近本当に物騒だよねぇ。
一月前のゲームテロ事件といい、昨日の無差別通り魔事件といい……」
運転手がラジオを流す。
デモ隊の様子が中継されているようだ。
『デモ隊は人数を増やしながら現在西新宿に向けて行進中。
目的は依然として不明とのことです。
……いやぁどう思われますか?
政治評論家の野井先生。
……うーむ……現段階では目的が全くもって不明なのでなんとも言い難いですがね。
20世紀に起こっていた学生運動の波が、ここ数件立て続けに起こった事件がキッカケでまたやってきているのかもしれませんね。
伊武政権には黒い噂がチラホラありますし、『邪悪な』というのはそう言った部分を批判しているのではないでしょうか。
現代社会では……』
かもしれない。
でしょうか。
……ずいぶん気楽な商売だな評論家ってのは。
……って、西新宿?
それって……。
「西新宿ってヤバくないですの……?」
「ヤバイな……。内木さんに電話しよう」
…………出ない。
「何かあったのかもな……。気にはなるけど、今私たちがどうこうしても仕方ない」
私たちが今できるのは、内木さんや伊武総理へ危険が及ぶ前に事態を収めることだけだ。
「……旭テレビついたよ。でもお嬢さんたち、本当気をつけなよ?
デモだけじゃない。今日は大雪が降るって予報らしいからね。
しかも、雷を伴う大雪で、東京では珍しいんだってさ」
雪か……。
東京では雪そのものがまず珍しいのに、さらに雷とはね。
確かそれって日本海側でしか起こらないんじゃなかったっけ。
異常気象だな。
「ありがとうございました。支払いはカードでお願いします」
「あ、ごめんね。カード使えないんだ」
「えっ」
「絶対後で半分払ってくださいまし」
「うっ。悪かったよ……」
現金を持ち合わせてなかった私は、目の前が真っ暗になった。
しかし、赤井が立て替えてくれたおかげでことなきを得た。
さて、ここから先にもまた問題がある。
『五島魅音のラブリー☆ライブ』が原因の可能性が高いと分かったものの、この番組に携わる人間はあまりにも多い。
「ディレクターやプロデューサー、カメラマンに照明係や音響係、衣装係、そして出演者。
一つの番組にいくつもの役職の人間が携わっている。
この中から悪者が一体誰なのか見つけ出さなきゃいけない」
「そもそも犯人は今日有休とかかも知れませんしねぇ……」
「何とか特定するいい方法はないかな……。
ま、いいや。なんか雪も降ってきたし、とにかく中に入ろう。
……あ、これを渡しておくよ。サングラスとイヤホンだ。
超能力者と対峙した時、これで操られるのを防ごう。
敵が扱うのが光か音か分からないけど、どちらにせよこれで対処できる」
「用意周到ですわね。でも、実は私も同じものをすでに用意していますわ」
「えっ、マジか。ちゃんとノイズキャンセリングのヤツか?」
「もちろん。良いものでないと耳が痛くなっちゃいますもの」
そんな謎のこだわりを披露した後、私たちはイヤホンとサングラスをポケットにしまい、局へ足を踏み入れた。
このテレビ局、かなり多くの人が出入りしているようだ。
さすが地上波で全国放送しているだけはある。
人混みに紛れながら入るとすぐに受付っぽいところを見つけたが、正直に話したところで入れてもらえるワケないので、無視してさらに奥へ進む。
「ゲート、ですわね……。ICカードがないと中に入れないようですわ」
「こういうのはまかせてくれよ」
右手をかざして……はい、解錠。
こんなのは朝飯前だ。
「……まあ、緊急事態ですからね。アナタは気にしないんでしょうけど私は……」
赤井がブツクサ言ってるけど無視して適当に歩く。
「ここは関係者用のラウンジみたいなところだな。
……ヘぇ〜。まさにニュースを撮影している場所なのに、局内でもこんな風にニュース流してるんだな」
ラウンジの電光掲示板に速報が流れている。
ほとんどが天気とデモに関する情報だ。
デモ隊は現在西新宿からまた別の場所に向けて行進中らしい。
内木さん、無事だといいのだけれど。
…………。
掲示板……!
閃いた。
「……いいことを考えた。ちょっと見張ってて」
「え、何をするつもりですの?」
「この掲示板やにニュースを流す。超能力者を炙り出せるようなね」
流石に電光掲示板に直接触れて細工するわけにはいかない。
そんなことしたら、『アイツ、何かやってるな』とすぐに疑われる。
……時間はかかるが、少し離れたところから電気を流すしかない。
そして、掲示板の文字をコントロールする。
『政府からの緊急速報をお知らせします。
研究機関の報告書によると、超能力者は雷雪を体に受けるとバラバラになって死亡してしまう危険性があることが分かりました。
これは雪に含まれる微弱な電流が、超能力を発生させている臓器に作用していることが原因と思われ、体に食塩をかけることで体外への電気をカットし、防止可能とのことです。
超能力者の皆様におかれましては、十分にご注意を――』
「え、ええ⁉ これ本当ですの? 私たち、バラバラになって死ぬ……」
「嘘に決まってるだろ」
真っ赤な嘘だ。
そもそも私たちは既に雪を受けても何ともなかった。
このニュースをここ以外にも局内のあらゆる場所で流す予定だった。
「……でも」
辺りがざわつき始めた。
それもそうだ。
突然こんなニュースが流れたら誰だって混乱する。
超能力者なんて実在するわけない。
エープリールフールか何かなんじゃないか。
大多数の人間がそう考えるのだから、このニュースはまるで頓珍漢なのだ。
……ただ1人を除いては。
「おい、アンタ。なぜカウンターの塩を手に取ってるんだ? 葬式にでもいくのかその格好で。なあ」
『五島魅音さん』
クズでも世界を変えられる! @puuuuma
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