第5話~動き出すカナリアの会~①

「エーキュウ能力者ってなんですか?」


こんにちは。

どうも輝木光です。


昨日忙しくて聞きそびれてしまった疑問を、只今国井にぶつけてみた次第です。


「君たち以外にも、政府側の超能力者は数多くいるんだ。

そこで、能力の強力さに応じてA〜Cにまでランク分けすることにした。

君たちはそのA級に該当するというワケだ」


まあ、日本には100くらいの超能力者がいるって聞いてたし、そこまで驚く話ではないのか。


それよりも私が気になるのは……。


「もちろん、それはAの方がCより優れてるってことですよね?」


「ん、まあ……そういう言い方はしたくないが……そうなるな」


それを聞いて一安心。

ふふふ……私はエリート超能力者だったのだ!


「知らなかったんですの? とにかく、そんなことより」


赤井が話を遮る。


「あの2人組は結局どうなりましたの? 今は拘置所にいるんですのよね?」


「虎井と不破か。

今はカナリアの会の情報を聞き出しているところだ。

阿井や津場井の時と違い、意識がはっきりしているから今回こそは収穫を得られるだろう」


あの読心女がいればどんな情報でも抜き出せる。

癪だがその有用性は認めざるを得ない。


「結果が出たらもちろん君たちにも……」


その時だった。

2人の男が、正面のドアから現れた。



「やあ、調子はどうかな? 国井」


この人見たことあるぞ……。


見たと言ってもテレビでだが……。


NHD(日本放送団体)をつければだいたい見られる人だ。


それでもって、もう1人の人は秘書とかだきっと。


「はい。ちょうど昨日、また1人カナリアの会の会員を捕えた次第でございます……総理」


そう。

総理大臣だ。


日本国のトップ、伊武有人。


「おぉ。さすがはA級能力者たちだ。……あ、そうだな。自己紹介しておこう。私は伊武有人。内閣総理大臣だ」


「私は志村と申します。伊武の秘書を務めております」


やはり秘書だったようだ。


それにしても、総理大臣様がわざわざ会いにくるとは……。

やっぱり私たちって、国の宝なのねぇ。


「私は赤井萌と申します。お会いできて大変光栄ですわ」


ぬぉ。

先手を取られた。


「輝木光です。よろしくお願いいたします」


「う、内木遊です……。よろしくお願いします……」


「……ん? そういえば水野がいないな」


なんか今日は静かだなーと思ったら、メグがいないからだ。

国井に指摘されて気がついた。


「遅刻じゃないですか?」


「輝木じゃあるまいし、メグは遅刻なんかしませんわ」


「はぁ? 失礼なこと言うなよ。1ヶ月で10回くらいしかしてないし、それにたった30分くらいじゃないか」


30分以内なんて遅刻に入らないだろ。

イチイチ細かい奴だな。


「ヒカリちゃん……」


内木さんが何か言いかけると同時に、バタンと音を立てて正面のドアが開いた。


メグがやってきたのだ。

ほらね、やっぱり遅刻じゃん。


「どうした水野。君が遅刻なんて珍しいじゃないか」


「……」



メグは返事をしない。


ははぁん、これはきっと遅刻して逆ギレしてるパターンだな。


分かる分かるよその気持ち。

私もよくあるからねぇ。


そう、私だって遅刻をしたくてしてるワケじゃない。

この世界が私を妨害するせいなのだ。


「……悪辣たる現の世に、価値はない」


そうそう、私を遅刻させる世界なんて……。

って、え?


「……邪悪なる為政者供を引き摺り下ろせ。愚かで無能な国家を変革せよ」


「め、メグ? どうしましたの?」


「貴様らに問おう。日の本の行く末を。迫り来る破滅を防ぐには何をすべきか? 答えは……」


「これだっ‼」


「ぐっ、何をする⁉ 放してくれっ! ……うっ、……!」


「諸悪たる元首へ! 正義の鉄槌を!」


「ちょ、ちょっと! 何してるんですのメグ! 伊武総理から離れなさい!」


赤井がメグに掴みかかる。

ついでに私も。


……しばらくすると、メグの動きが止まった。


「……メグちゃん。悪いけど、拘束させて貰うわね」



「ゲホッ ゴホッ ……何だい、彼女は……」


「伊武総理、大丈夫ですか?」


咳き込んだ伊武に、すかさず声をかける国井。

丁寧語を使っているのが少し新鮮。


「内木さん……ナイス判断です。それにしてもこれは一体……」


内木さんがメグを抑えてくれて本当に助かった。

私や赤井の超能力じゃ、メグに大怪我をさせてしまうからな。


「……メグがこんな暴挙に出るハズがありませんわ。あの子は優しい子ですもの」


「それには概ね同意だけどさ……。

ともすれば誰かに操られてるとか?

……昨日、不破と虎井を拘束した時は普通だったけど……。

何かあったとしたらその後か?」


「そればかりは私にも分かりませんわ……。

昨日のメグの行動を辿ってみる必要が……」


その時、イヤな音が聞こえた。


電話の音だ。


私は電話の音……もといスマホの着信音がどうも苦手だ。

なんというか不安になるというかドキッとするというか……。


え?

今そんなことはどうでもいい?

それもそうだな。


「はい、志村です。……はい? そ、それは本当ですか⁉ はい。

……はい、承知いたしました。また連絡いたします。では」


「どうした、志村」



「あの、大変です……。

首相官邸にて大規模デモが発生とのことで……。

詳しいことはただいま調査中らしいですが……その規模はざっと1万人以上だそうです!」



で、デモ⁈


デモってあれか、あの、人がいっぱい集まってプラカード持ってワーキャーやってるあれか!


「なんだって⁉ ……い、今すぐ議事堂に戻って対策会議を……」


マジでそんなことが……? ええい、こういう時はスマホで検索検索!



---------

2月27日 (木)

首相官邸にて大規模デモが発生。

現在、デモ隊は官邸を離れ、北に向かって行進中。

参加人数は調査によると約6万人で、参加者は口々に「邪悪な国家への制裁」などと話しており要求は全くもって不明とのことです。

---------



「なんか、今はもう官邸にはいないみたいですよ……? 北に向かって行進中だそうですが……」


しかもなんか増えてる。


「何? すまないが少しそのニュース記事を見せてくれないか?」


国井にスマホを手渡す。


「『邪悪な国家』……。

先程の水野も同じようなことを言っていたな。

もしやこの者たち、水野と同じ症状なのでは……?

伊武総理を狙うように操られているのかも知れん」


「それで官邸に……。

まあ、普通の人なら総理大臣はそこにいるって考えますもんね。

……でも、それって……伊武総理が見つかれば襲いかかってくるってことですよね……?

伊武総理、危険ですよ!

向こうに戻ってはいけません!」


「そ、そうか……。分かったよ。しかし、どうしたものか……」


かくなる上は、1つしかない。



「この状況を解決するには、この人たちを操ってるだろう何者かをぶちのめすことです!

それがこの暴動を抑える、唯一の方法です」



「物騒ですわね」


「何だよ。

じゃあ他に何か思い当たる節があるのか?

それに何かしないと永遠にメグはこのままかもしれない。

メグを助けないつもりかよ、この薄情者が。

ここでいつまでもふん縛っておくわけにはいかないだろ?」


「そうは言ってませんわ。……まあ、仕方ありませんわね」


赤井がため息を吐く。


「では、輝木は私と一緒に来てくださいまし。

内木さんはこちらに残って伊武総理の警護をお願いしますわ」


「う、うん……。分かったわ」


「おいコラ。何勝手に仕切ってるんだよ。それに私がやるなんて一言も……」


「何かを調査するのには輝木、アナタの能力がもってこいですわ。

ですが、アナタ1人では心配でたまりません。

だから、私もついていきますの」


こ、こいつ……。


「そ・れ・に! この部隊のリーダーは私でしてよ? 指示には従ってもらいますわ」


くぅ……、やっぱりこいつムカつく!



---------


「それで?」


「何ですの?」


「調査って言ったって具体的にどうするんだ?

操られてるって言うのも、私たちの憶測でしかないかもしれないんだぞ?」


「それは……もう信じるしかありませんわ。とにかく今は手がかりを集めないと……。ほら、着きましたわ」


私たちが向かっていたのは、虎井と不破を捕らえた鐵工所だった。


「ここで昨日私たちと別れてから、今日の朝までのメグの足跡を辿りますわ。

少しでも怪しいところを発見したら情報を共有しましょう」


「はいはい」


「はいは一回ですわ」


「うるせえ」



うーん……。


あれから30分くらい調べたけど……。


この工場内、特におかしなところはなさそうに見えるな。


「何もなさそうだな。メグの家に行こう。帰り道か家の中で何かあったのかも知れない」


「そうですわね。一旦ここは切り上げましょうか」


工場を出発し、メグの家路を辿る。


「……おっ。なあ赤井。デモについて新情報が発覚したらしいよ。

何でもデモに参加してる人のほとんどが10代から20代なんだってさ」


「若者中心ってことですわね。

と言うことは、今時の若者の生活に何かヒントがあるかもしれませんわ」


「今時の若者って……その言い方なんか老けてるな」


「なっ……何を言いますの! 私はただ客観的な考察を……」


「分かった分かった。……今の若者の生活って言ったゲーム、インターネットとかかなぁ。流行の移り変わりが早いよね」


「ゲーム、ネットって……それはアナタの生活じゃないんですの……」


「失礼な! 私は流行には疎いほうだよ」


「そっちですの。でも奇遇ですわね。私もですわ。特にアイドルとかお笑いとか全然分からなくて……」


そうなのか。

私と同じだ。


……初めて、こいつに親近感を覚えた気がした。


「あ、メグの家に着きましたわ」


「ここまでも特に何か変わったことはなかったな……。まあいいや。よし、じゃあ鍵を開けるか」


「え? いやいやいや。そんなことをしたらメグのプライバシーが……」


「しょうがないだろ緊急事態なんだからさ。ほら、開けたぞ」


「し、仕方ありませんわね……では、管理会社さんに鍵を借りて……ってあら? 鍵開いてましたの?」


「いや、私が開けた。超能力で」


「……アナタ、いつか捕まりますわよ」


生憎だが、もう捕まってる。捕まったからこんな部隊に入る羽目になったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る