第40話 デートの終わり

     ※


 そして、三人での夕食の時間は終わりを迎えた。


「莉愛のこと、よろしく頼むよ」


「はい」


「今度来た時は……もう少しゆっくりと話せたらいいね。

 莉愛お小さい時の話でもしようか」


「お、お父さん……そういうの、いいから」


 玄関で莉愛と共に見送りに来てくれていた玲さんは、莉愛に窘められると「じゃあ、またね」と俺に言って、先にリビングへと戻って行った。

 多分、気遣ってくれたのだろう。


 穏やかな物腰と優しい微笑が印象に残る人だったけど、この短い時間の中でも莉愛を想う深い愛情はしっかりと伝わっていた。

 そんなお義父さんに、ひとまずとはいえ二人の関係を認めて貰えた。


 だからこそ、その想いを裏切ることのないように、これからはもっと……莉愛との未来を考えて頑張っていきたいと思えた。


「また、学校で。

 あと、帰ったら連絡してね……心配だから」


「わかってる。

 ちゃんと着いたら連絡するから」


 本当はまだ一緒にいたい。

 また会えるはずなのに、今という時間がとても名残惜しい。


「それじゃあ――」


 そんな名残惜しさを振り切って、俺が踵を返そうとすると……莉愛が俺の服の袖を手に取った。


「……行っちゃうの?」


 寂しそうな声が聞こえて、視線が自然と彼女に向く。


「え……それは、まぁ……流石にもう帰らないと、な」


「どうしても?」


 子供が親におねだりするみたいな。

 思わずなんでもしてあげたくなってしまうくらい可愛さに、俺は莉愛を抱き締めたくなってしまう。

 俺だって莉愛と一緒にいたい。

 でも、その想いだけで突っ走らないようにしないといけない。


「俺も莉愛と一緒にいたいけど……今日は、帰るよ」


「そっか……。

 ごめん、困らせること言って」


「こんなの……ただの可愛い我儘だよ」


「可愛いって思ってくれたんだ?」


「……いつも思ってる」


「っ……そ、そう、なんだ……」


 照れ隠しから、思わず目を逸らしてしまった。

 でも、莉愛が考えているよりも、そう思ってる自信はある。


「私だって、大希が思ってるよりもずっと……カッコいいって思ってるよ?」


「それは……目がおかしい」


 自分で言ってなんだが、苦笑してしまう。


「ひどっ! それに……自虐的すぎない?」


「自虐じゃなくて、冷静な意見だよ」


「だとしたら、私はラッキーだね。

 私が世界一、カッコいいって思ってる人を独り占めできるんだから。


 心から幸福を感じているような、幸せそうな笑みを莉愛は俺に向けた。

 こんな風に俺に笑い掛けてくれる人なんていないって、思えるほどの。

 きっと、俺にこんな幸せそうに微笑みかけてくれる人は、家族を除けば莉愛以外にはいない。


「でも……私が好きな人を、悪く言っちゃやだよ」


「ぇ……」


「私が悲しい気持ちになるから、ね?」


「……わかった。もう言わない」


 莉愛に言われてしまったら、もう何も言い返せなかった。


「また、デート誘うから」


「うん。

 それと……また家に遊びに来てよ。

 お父さんも、大希ともっと話したいだろうから」


「それも、約束する。

 莉愛の子供の頃の話も聞きたいからな」


「それは聞かなくてもいいから」


 互いに声を上げて笑ってしまう。

 名残惜しいけれど、でも寂しくはない。


「じゃあ、また今度」


「うん、バイバイ……大希」


 莉愛に見送られて俺は彼女の家を出た。

 帰路に着くまでの間、俺は温かな気持ちに包まれていた。

 幸せに浸りながら考えるのは、未来のこと。

 ずっと、莉愛に笑っていてほしいから……こんな幸せな時間が続くように、これから毎日、俺自身も頑張っていこう。

 今日という時間を過ごしたからこそ、俺は改めて強い想いを抱いたのだった。

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隣の席の七海さんは、今日も距離感バグってます つきのわ @tukinowa_kumasanchi

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