第39話 将来への想い

「ごほっ……ごほっごほっ……」


「ちょっ、大丈夫?」


 咳き込む俺に、莉愛が慌ててコップに水を注いでくれた。


「もう……お父さんが……驚くようなこと聞くからだからね」


「そんなに驚くようなことだったかい?

 親としては気になって当然のことだと思うんだけど」


 水を飲み干し落ち着きを取り戻した俺に、莉愛のお父さんは「ね?」と共感を求めるように尋ねてくる。

 表情は優しいが、その目は真剣だった。


「す、すみません。

 唐突だったもので……ですが、お義父さんが気にされるのも当然だと思います」


 娘を大切に思えばこそなのだろう。

 しかも玲さんにとっては一人娘で……奥さんを失ってから今日までずっと、莉愛を一人で育ててきたのだから。


「……お義父さんと、僕を呼ぶということは……そういうことで、いいのかな?」


 言われて気付いた。

 意識したわけではなく、自然とそう呼んでしまっていたから。

 少しの逡巡……だが、上手く考えがまとまらない。

 だから、


「近い将来……自立して、ちゃんと彼女を――莉愛さんを守れるように……幸せにできるようになってからになると思いますが、その時に改めてご挨拶に伺いたいと思います」


 思うまま、素直に想いを伝えた。


「……そうか」


 玲さんはその言葉を受け止めるように、しっかりと頷き返して、そして嬉しそうに目を細めた。


「その日が来るのを、僕は楽しみに待っているよ。

 少しだけ……寂しいけどね」


「お父さん……」


 子供を想う父親の気持ちというのは、どんなものなのだろうか?

 俺はまだそれを知らない。

 だけど、誰よりも子供の幸せを願っているのは間違いないだろう。

 それほど多くの言葉を交わしたわけではないけど……玲さんの顔を見ていたら、不思議とそんな風に思えた。


「キミたちはまだ若いから……これから人生の中で色々なことがあると思うけど、二人で乗り越えていってほしいな」


 その言葉に俺と莉愛は頷いた。

 二人でなら、必ず乗り越えていけると思っているから。

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