第38話 三人の夕食

     ※


 なぜ、こうなったのだろうか?

 俺は今、莉愛の自宅にいた。


『あ~……えっと、よければ寄っていかないかい?』


 俺と莉愛を見た『お義父さん』に、そう言われてしまったから。

 そして今、


「お父さん……ご飯、まだだよね?」


 俺は彼女の家で『お義父さん』と向かい合っていた。


「ああ。

 何か作ってくれるかい?」


「うん……私たちも夕食、まだだから。

 大希の分も作るね」


「あ、いや……いいの、か?」


「勿論さ。

 ぜひ、食べて行ってほしいな」


 莉愛のお父さんは、丁寧な口調で言いながら、優しい微笑を浮かべた。


「あ、ありがとう、ございます」


 眼鏡を掛けており、非常に整った柔和な顔立ちをしている。

 目上の人を例えるのに言うのもなんだが、中性的で年齢不詳と思えるほどに見た目が若い。

 かなり整った容姿をしている為、莉愛の父親だと言われれば納得いった。


「ところで……名前を聞いても、いいかな?」


 しまった――と、思った時には俺は慌てて立ち上がっていた。


「――な、名乗るのが遅くなってしまいすみません。

 有馬大希と言います!」


「……有馬くん、か。

 私は莉愛の父でりょうと言います。

 気軽に玲さんと呼んでくれていいよ」


「りょ、玲さん……」


「うん。

 有馬くん、よろしくね」


「は、はい」


 一見、クールな雰囲気の莉愛とは正反対に、玲さんは人懐っこい。


「緊張しているのかい?」


「あ……いえ……」


 していないわけがない。

 前の前にいるのは、近い将来、自分の義理の父親になるかもしれない人だ。


「もっとリラックスしてくれていいよ。

 僕は普段のままのキミと話してみたいから」


 俺を気遣うように、柔和な顔立ちをさらに優しく緩めて玲さんは笑った。

 話していると不思議と安心できてしまうのは、玲さんの人徳かもしれない。


「すみません……まさか、莉愛のお父さんとお会いするとは、思っていなかったので」


「いや……僕もまさか、仕事帰りに娘の彼氏と会うとは思ってなかったよ」


「ぁ……」


 思わず言い淀んでしまったのは、『彼氏』とお義父さんに言われたから。

 勿論、あの状況で友達とは思われないことはわかっていたが、明確にそう意識されていたと思うと、なんだか身構えてしまった。


「うん? 有馬くんは、莉愛の彼氏でいいんだよね?」


「は、はい!

 莉愛さんとお付き合いさせていただいてます!」


「そうか。

 莉愛も彼氏ができるような年齢になったんだね」


 感慨深そうに玲さんは呟いて、キッチンで料理をする莉愛を見つめた。

 その眼差しは、娘を想う愛情深さが感じられた。


     ※


 料理が完成して三人で食事をする。

 まさか莉愛の家で夕食を取ることになるなんて、思ってもいなかった。

 だが穏やかな雰囲気で食事会は進んだ。


「ところで……二人は結婚を考えてるのかい?」


「っ――」


 が、いきなり突っ込まれた驚きで、食事を胸に詰まらせてしまった。

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