第10話 独り

 左手を包帯でぐるぐる巻きにされたあと、太陽軍の主要なメンバーを集めて会議をすることになった。俺が提案したのではなくジュアが提案したことだ。


 俺としては内蔵がいくつかやられていそうなことと、左手の不便さから早くリセットして万全な状態にしておきたい。しかし、お人好しのジュアがあまりいい顔をしなかったので一旦やめにした。もちろん一旦だ。皆が眠る頃、見張りの目をかいくぐって死ぬつもりではある。


 どうもジュアは体が万全の状態になることより、俺が死ぬ回数が少ない方がいいと思っている節がある。他の者にその考えを向けるのは合っているが、俺の場合は別だと何度伝えても渋い顔をされるだけだった。


 さて、主要メンバーを集めての会議とは言ったもののそんなに大層なものではない。そもそも太陽軍のメンバーの大多数は戦闘能力の低い収容所から救出した者達だ。戦いに出ることはまずない。


 戦闘メンバーはあくまで自主的に手を挙げ、尚且つ実力が伴っている者のみだ。そこから会議に参加出来る者となると部隊長を勤めれる者となるので尚のこと少なくなる。


 現状俺を入れて五人のメンバーがどの順番で何をするかなどの会議に参加している。


 その全員が狭く薄暗い部屋にぎゅうぎゅうに集まって声を潜めて話していた。


「ジャックは……結論から言えば成功した。我々の伝えたいことは雷呀さんが全て伝えてくれた」


「結論からって?なにかトラブルでもあったの?」


 顎の下をポリと掻きながら話すジュアに前のめりでフリルの着いた服を着ている透明人間のイルが食ってかかる。


 彼女は主要メンバーの中で唯一の女性メンバーだ。両性を除けばの話だが。常に可愛らしい服を着ているが姿は完全に透けており主に隠密行動を担当している。


「途中で妨害を受けた上に反撃された」


 俺がそう言うと全員の視線がこちらに向く。太陽軍の中で一番実力のある俺が押し負けたのだと知って不安になっている目だ。


 多分、次に言う一言で太陽軍の今後の行動のレールが決まる。もしそのまま感じたことを伝えればどうやっても敵わない相手に無謀に突っ込むより、安全か確認しながらコソコソと仲間を救う方がいいという者が現れるだろう。


「攻撃を受けた俺からすると……あれは太陽軍というより俺単体を狙ったものだ。ジャックしている状態と言えど素早く的確な部位攻撃を出来るのは最初から俺を分析して仕掛けてきたとしか思えない」


「つまりあの攻撃はジャックを止めることが目的じゃなかったと?」


「そうだ。そこで提案だが、敵のヘイトが俺に向いているのなら今までより陽動がしやすくなる。俺がなるべく軍事施設を派手に攻撃する。その間に他のメンバーで今まで通り収容所の解放をした方がいいと思う……というのが俺の一意見だ。反対意見があれば話し合おう」


 俺がそこまで言って席に着くと皆それぞれ顔を合わせ、唸り声だったり上を向いて歯を鳴らしたりしだす。最初に彼らのこういう行動を見た時は驚いたがただ悩んでいる時にしてしまうくせだと知ってからは、まぁ人間も唸り声みたいなのを出すしなと思った。


 結論が出るのはそう長くかからなかった。


 太陽軍の本来の目的をなるべく早く成し遂げるにはその選択が一番だからだ。別に俺が提案したことでもあるし、彼らの選択を悪く言うつもりは無い。


 それでも心配になるくらいにはお人好しな彼らは苦しそうな顔で俺に無線機を渡してきた。


「しばらく連絡はそれで……。懐いてる子供たちが寂しがるだろうから送別会はしないが……いいか?」


 盛大に送ってしまったら帰ってこないような気でもするのだろう。実際に何人か故郷に帰ると言ったものを送別会で華やかに送ったが、皆故郷の地を踏む前に政府に殺された。皆、送別会にはいい記憶がない。


 それでも何もせずに送るのは心苦しいものがあるのだろう。俺なんかにそんな感情を持たなくていいのに。本当にお人好しの集まりだ。その気遣いの目や優しさが何か古い記憶を呼び起こしそうになったが、霞のように消えていった。


 ……いつもの事だ。気にするまでもない。彼等は仲間を救うという崇高な考えで反乱を起こしているが、俺には……俺にはそんなものは無い。ただ腹から湧いてくる怒りのままに目的もなく暴れているに過ぎない。優しさを向けられる資格など、無い。


「怪我するなよ」


 唯一、絞り出せた言葉を部屋に置き去りにして俺は独り外へ出た。

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落日 月桂樹 @Bay_laurel

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