オークの脅威①
「お姉さん!お姉さん!」
頭から血を流し、ぐったりと横たわるククリ。そんな彼女をナギが揺さぶる。
「やめろ!ナギ!……怪我人は下手に動かさない方がいい」
俺は焦る気持ちを抑え、冷静に指示を出す。
「すみません、ししょー。おれのせいで……」
「いや、俺が油断した。それよりククリの治療が先決だ」
ナギの持つ荷物から薬草を取り出し、それを塗る為の準備を始める。だが、その心中は自責の念でいっぱいだった。
(クソ!オークの野郎……)
それは、ほんの少し前に起こったことだった。
「あっ!ありましたよ!ゲンさん!」
時は遡り、俺達は薬草採集のクエストをこなすためギルド指定の森を訪れていた。そこで、遠くを見通せるスキル・
「おお!本当だな」
「ねえ、お姉さん。この辺りの草が全部薬草なんですか?」
「そうだよ、ナギくん。あっ!でも花が咲いてるやつは採らなくてもいいよ。効能が低いからね」
ククリはナギの質問に、笑顔で答えると足元に生える草を摘んで見せる。
「うっし!じゃあ早速薬草採集といくか!」
「はい!余剰分も買い取ってくれるそうなので、荷物を薬草でパンパンにしてやりましょうとも!」
そう意気込むと、彼女は足元の薬草を摘むために地面に四つん這いになる。それに俺達も続いた。
それから暫くして、周囲を囲む草木の一部が大きく揺れたことに俺は気が付いた。そして、ふと顔を上げる。するとそこには、草木をかき分けこちらに向かって来る二匹の化け物の姿があったのだ。
(なんだ?コイツら?)
身の丈は二メートル程。二足歩行ではあるが、肌の色は土気色で顔は豚と猪を足したような奇妙な風貌をしている。体格も良く、筋肉の上に脂肪を搭載したような体躯は、力士に近いものだった。
「おい!ククリ!なんだ、ありゃあ」
「なんですかぁ?……えっ!?」
薬草採集に夢中だったククリは、驚きの声を上げる。
「あれは、『オーク』です。知能は高くないですが、力が強く好戦的なモンスター……。ハッキリ言って、私達C級の冒険者には手に余る存在です」
「そうか。なら……退くぞ」
今回のクエストはあくまで薬草の採集。無理に危険を冒すことはない。
俺はナギとククリを先に下がらせ、自身もゆっくりと後退した。更に、オーク達を刺激しないよう目線を合わせず、奴らの足元を見て動きを予測する。……だが。
「ブルルルル!」
何かが奴らの気に障ったのか、示し会わせたかのように二匹が同時に鼻を鳴らした。
(……マズイ!)
明らかな臨戦態勢。それを事前に察知した俺は、オーク達が行動を起こす前に機先を制した。
「ゲンさん!?」
腰の帯から刀を鞘ごと引き抜くと、二匹いる内の左側に立つオークに向かって駆け出す。
『鞍馬心眼流抜刀ノ型・
そう呼ばれるこの技は、納刀された刀の柄頭で相手の鳩尾を突くことから始まる。
「ブヒィ!!」
それと同時に相手の片足を掬い、朽木倒しの要領で対象を後方へ押し倒す。
「グエェェ!」
結果、俺の全体重が柄頭にかかり相手の鳩尾を押し潰す。人間相手ならば、内臓破壊は免れないハズだ。
「……普通なら、これで終わるんだがな」
俺の下で横たわるオークが、苦しそうに息を吐く。だが、その目にはまだ戦意が残っていた。
「ブヒィ!!」
そして、次の瞬間。オークの丸太のような腕が、俺に向かって伸びてきた。
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