パーティ結成②

「なあ、ククリ。話の腰を折るようで悪いんだが、パーティってなんだ?」

「やだなぁ、ゲンさん。パーティはパーティですよ。ほら、この間ギルドでテラスさんも説明してくれてたじゃないですか」

(……やべぇ。緊張で聞いてなかったかもしれん)


 だが、話の流れからなんとなく『パーティ』とやらの意味はわかった。おそらく複数人からなる、冒険者のチームみたいなニュアンスだろう。そういえば、若い頃やりこんだRPGゲームでもそんな単語がでてきたような気がする。


「あ~、ハイハイ。パーティねパーティ。大丈夫だ。完全に理解してる」

「本当ですか?」

「本当だって。なぁ?ナギもそう思うだろ?」

「はい!おれもししょーとパーティします!」

「多分パーティは動詞じゃねぇんだよなぁ……」


 少々かかり気味な様子の弟子を微笑ましく思う。こうして俺達は、小さな定食屋の片隅でひっそりとパーティを結成したのだった。

 そして次の日。


「ええと……、ナギ様は登録の必要はございませんよ?」


 冒険者ギルドでナギの登録を行おうとした俺達に、受付のテラスさんがそう言った。


「え?それは、登録出来ないってことですか?」

「いえ、そうではなくて……」

「こいつが未成年だからですか!?そこをなんとか!」

「ですから……」

「おれからもお願いします!ししょーの役にたちたいんです!」

「ほら!こいつもこう言ってますし!ね?……あ!肩とか揉みましょうか?何なら靴だって舐め……あ痛!」


 俺とナギは身を乗り出して、テラスさんに迫る。だがそんな俺達の頭を、後ろで見ていたククリが軽く叩いた。


「ちょっとは落ち着いてください。ナギくんも。……では、テラスさん。お話の続きを」


 ククリに促され、テラスさんはコホンと咳払いをする。そして、いつもの落ち着いた調子で説明を始めた。


「まず、勘違いされているようですがナギ様は冒険者登録が出来ないのではなく、する必要が無いのです。彼は奴隷として購入された身……つまり、こちらとしてはクラマ様の所有物として扱うことになります」

「所有物……ねぇ」


 色々思うことはあるが、その気持ちをぐっと抑える。郷に入っては郷に従う。それがこの世界の常識なのだろう。


「ですので、ナギ様には申し訳ありませんが、書類の上ではあなた様を冒険者とする訳にはいかないのです」

「チッ……だが、クエストに連れていくぶんには問題無いんですよね?」

「はい。そこは大丈夫です」

「それがわかりゃあ充分だ。いやぁ、世話になりました」


 俺はテラスさんに礼を言うと、受付を後にする。そして、ギルド内にある大きな掲示板の前に移動した。

 そこには十数枚の紙が所狭しと張り出されている。それはどれもクエストの受注書だった。初めてのクエスト終了後、この掲示板からもクエストは受注できるとテラスさんから聞いていたのだ。


「……さて。ククリ、ナギ。どれにする?」

「う~ん。ボクは採集クエストがいいと思います。討伐よりは安全ですし、クエストが初めてのナギくんがいるなら安全第一でいくべきかと」

「おれはよくわからないので、ししょーとお姉さんに従います」


 採集クエスト。特定の道具や資材を町の外から集めてくる類いのクエストのことだ。必ず戦闘を介する討伐クエストと違い、逃げることも許される為、安全性はかなり高いクエストといえる。


「……確かに、ククリの言うことは一理あるな。よし!じゃあ次のクエストはこれにするか!」


 そう言って俺は掲示板から一枚の紙を破りとった。それは、薬草採集クエストの依頼書。依頼料こそ少ないが、比較的安全に稼ぐことの出来るいわば初心者向けのクエストだった。

 だが、俺達三人パーティの初陣があんな危険なものになるなど、この時の俺は考えもしなかったのだ……。

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