3月14日のモノ語り 基編

永盛愛美

第1話

 むかしむかしとある町に、同じ学年のいとこどうしの男の子がすぐ近くに住んでいました。登下校も一緒、風邪を引くのもほぼ一緒、おたふく風邪になったのもほぼ一緒で、両者の母親たちにあきれられていました。

 そんな彼らが小学校高学年のバレンタインデーとホワイトデーを迎えた時のことでした。

 小学四年生の背のとっても高い男の子は、自分の誕生日でもあるバレンタインデーに、同じ学年の女の子三人からチョコレートのプレゼントを自宅の郵便ポストへ入れてもらいました。

 お父さんとお母さんはとても喜びましたが、当の本人はとても迷惑そうでした。

 差出人の名前は書いてありましたから、不明ではなかったのです。が、過去に同じクラスになった三人だとは記憶していたのですが、一学年四クラスありましたから、彼は全くその三人の顔などを覚えておりませんでした。興味がなかったのです。

 これは困った。ひと月先のホワイトデーとやらに、プレゼントを返さねばなりません。学校には持って行ってはいけません。

 背の高い男の子は、その三人の名前を手がかりに、今のクラスと住む地域を調べ始めました。まだ、個人情報にうるさくなかった時代です。生徒名簿ですぐ見つけられました。今では到底無理でしょう。

 次は、お返しするプレゼントを選ばなくてはなりません。幸いなことに、お母さんはそのプレゼントの代金を支払うと約束してくれました。お小遣いから出さなくてもよくなったので、彼はとても喜びました。少ないお小遣いが、更に少なくなってしまいます。どこかのサラリーマンのお小遣いと同レベルです。

 彼は、二歳年上の兄といとこ、同級生たちにアドバイスを求めました。ですが、ここでもつまづいてしまいます。まるであみだくじのような迷路のようです。


 好きな女の子にはマシュマロやクッキーをお返しして、

 そうではない子にはキャンディをあげる


 とか、またその逆パターンを言われて、彼は迷ってしまいます。ただひとつはっきりしていたのは、「好きではないが嫌いでもない」ことでした。

 迷った挙げ句に、三人の女の子にはクッキーをお返ししました。家へ帰ってから、調べた住所と表札を頼りに三人に配りました。女の子たちと同じようにポストへ入れました。

 そして、次の日の放課後のことでした。三人の女の子たちが、彼の所へお礼にやって来たのです。


 いきなりやって来た女の子たちは、誰が一番好きなのかと尋ねてきました。

 彼はとても困りました。なぜならば、彼は女の子があまり好きではなかったからです。なんとかみんな同じくらい好きだから選べない、とわかってもらって帰ってもらいましたが、彼は心の中で固く誓うのでした。

 もう、絶対に、女の子からは、チョコレートを受け取るのは、よそう! と。


 翌年の自宅のポストに厳重にガムテープを貼って、お母さんに大目玉を喰らったのは、黒歴史の始まりだったのでした。

 いとこにそう言われ、自分もそう感じました。

 

 どうやらいとこにも同じようなモノ語りが存在するようですが……。


 とりあえず、めでたし、めでたし。

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3月14日のモノ語り 基編 永盛愛美 @manami27100594

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