第6話

 次に目の前が明るくなったのはどこだか知らない場所だった。食事していたリビングではないことは確かだった。

 どこだろうと探っていると横に彼女が寝ていた。誰が運んでくれたか知らないけど、いつの間にか、俺は彼女のベッドで寝ていたようだ。それも彼女と一緒になって。

 普段なら、かなり嬉しいことだが、昨晩の出来事を思うと憂鬱になった。

 頭が鮮明になっていくほどに後悔した。なんであんなことになったんだろうと。

 酒を勧められたとしても断ればよかった。気まずい空気にはなっただろうけど、あそこまで険悪な雰囲気にはならなかっただろうに。

 飲んだとしても、耐えていればよかった。彼女の両親の名前を聞いていないから、他に呼びようがなかったにしろ、キレなくてはよかった。なんて呼べばよろしいでしょうか、と返せば済む話だっただろうに。

 俺が思い詰めていると彼女は目を覚ました。

 そして体を起こすと、昨晩の父親の無礼を謝った。

 彼女が悪いことをしたわけじゃないにもかかわらず、頭を下げてきた。怒るどころか同情しているようだった。俺に寄り添ってくれていた。

 それを見て、俺は慌てて彼女に謝った。一番悪いのは俺だから。

 彼女の父親に多少問題があったとしても、分かりにくい例え話を持ち出してまで、力説する必要はなかった。関係を悪化させたくないなら、立ち向かわなければよかった。彼女と別れる原因を作ることを嫌うのであれば、あそこは我慢すべきだった。まだ切り替えやすい状況でもあったから。

 その後はドキドキしながら、彼女の両親の下へと向かった。昨晩の非礼を詫びるべく、土下座して、謝った。

 あちらも俺の姿を見るや否や頭を下げてきた。俺と同じよう、土下座をしてきた。

 頭を床に思いっきり押し付けてきたのは、俺とは違ったけど。そうなっていたのは彼女の母親が彼女の父親の頭を押し込んでいたわけだが。

 あっちは法律違反をしているから、余計にバツが悪いんだろう。未成年に酒を強要したものだから。普通に犯罪だから、被害届を出させないよう、必死になったんだろう。

 俺はそこに託けることはしなかった。その態度を見て、調子に乗らなかった。

 逆に彼女の父親に負けまいと頭を深く下げた。

 印象を悪くすれば、彼女と別れる話に発展する危険もあったから、頭に乗らなかった。俺に対する、彼女の気持ちが冷めるのを防ぐため、極めて冷静に務めた。頭はズキズキしていたが、考える力は残っていた。

 こうしてお互いに謝罪することで何とか収まった。

 もう酒を飲むのは止めよう。危ないことを引き起こしそうで怖いから。酒を飲んだときの自分のキレやすさを考えると、自重した方がいいと判断した。今回は彼女の両親だったからよかったけど、誰もかも許してくれるわけではないから、ホント、気をつけないと。

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元旦から始まる不幸② M-HeroLuck @APOCRYPHA-MH

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