参話 一名死亡
わざとらしい咳払いが聞こえた。
「さぁて、ルールの説明といきましょう。簡単です。皆様方の手元に四種類の凶器が置かれているでしょう」
視線を下に向ければ先ほどのショーケースのようなガラス張りの箱が私と、相手の前に置かれている。その上に、右から斧、包丁、バール、針が並べられていた。
「殺傷能力の高い順です。弱い順とも言えますでしょうか」
なるほど、悪趣味だ。
「皆様はその中から一つだけを選び、死闘を繰り広げていただきます。一試合につき一つだけ。第一に凶器の選択が重要になっているわけですね」
確かにそうだ。斧と針が正面からやり合えば、自ずと勝敗は決まる。
「第二の選択。それは能力です。四苦八苦に対応したそれぞれの人形が固有の能力を持っています。ただし、能力は自分も相手もわかりません。戦いの中で自ずとわかることになるかと」
能力。これは厄介だ。相性が悪い能力だと、すぐに殺されてしまう。
「そして、人形が致命傷を受けたら終わりです。呪い人形のように同じ痛みと傷が皆様に与えられ──死亡します。説明は以上です。それでは第一死合初めてくださいませ!」
目の前の相手から咳払いが聞こえる。目が合うと彼女は場を和ませようとばかりに微笑んだ。
「あなた、制服ということは高校生?」
「……はい、そうです」
冷静そうな人だ。ひとまず、話をしようか。戦いらしき音は聞こえない。人形は動かないし、この状況で嬉々として即座に殺し合いに応じる人もいないだろう。
だけど、結愛は助けないといけない。どうしても戦わないとならないんだったら、迷ってなんていられない。
「お姉さんは、看護師ですか?」
その人は眉を上げた。
「そうだけど、私、どこかで会ったかな?」
「いいえ。でも、異常事態でも落ち着いていて、度胸もあるし一番死に敏感だって言われていたから。それに、看護師は長い髪が邪魔なのでよく団子にまとめてる人が多いって聞きます」
「……驚いた。あなたこそ落ち着いてるじゃない」
「彼女を──友達を助けないといけないんで」
私と結愛の間柄を説明するのは面倒くさい。ここは友達で、まあいいだろう。
「ねぇ、じゃあ協力しない? 二人で協力してあの悪趣味な変態を──」
つんざくような悲鳴が壁の外から聞こえた。
「はーい、一名死亡。死合はもう始まっていますよ~ちなみに協力しようとしても無駄です。この壁は誰かが死なないと開かない仕組みになっています。延々と睨み合っこできるかな?」
眼鏡を上げる。この異常な状況が鮮明に見えた。
今のは低い、男性の声だった。結愛じゃない。だけど、結愛がいつこうなるとは限らない。そして、その逆もまただ。
「──協力することはできなそうですね。会ったばかりですみませんが、勝たせてもらいます」
「勝つって! あなた意味わかってる!? それはつまり──」
「殺すってことですよね。そんなことわかっています」
人形に目を向ける。その顔がなぜか笑っているように見えた。
象牙多層球 フクロウ @hukurou0223
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