その告白は……ダウト!

403μぐらむ

ダウト!

短めを。




鳥谷とやくん、好きです……。私と付き合ってください……」


瀬長せながさん、本当に⁉ 是非ともお願いします。俺も瀬長さんのことずっと好きだったんだっ!」


 身振り手振りをつけながら少しオーバー気味に瀬長さんからの告白に了承の返答を行う。


「瀬長さん! 早速このあと一緒に帰ろうよ。いきなりだけど放課後デートに行こうよっ」


 瀬長さんが何かを言い出す前に堀を埋めていく。俺は有無を言わさず、彼女の手を取って校門の方へと歩みを向けた。




 実はこの瀬長さんの俺への告白はいわゆる嘘告ってやつなんだ。まさか俺がその相手にされるとは今の今まで知らなかったけどね。


 放課後の教室で彼女とその友人たちで罰ゲームの話をしているのをたまたま聞いてしまったので嘘告罰ゲームがあるってことを俺も知り得たってわけ。


 わかっていたならその場で『ダウト!』と告げればいいじゃないかと思うけど、それじゃ俺の溜飲が下がらない。

 俺が嘘告のターゲットにされるってことは、それだけ俺が彼女らに侮られてるってことの証左でしかないからね。


 確かに俺は彼女らのような陽キャ連中に比べれば多少は劣るかもしれないけれど、こっちとしてもそこまで見下されるレベルではないと思っている。

 発言力はないし、人に流されやすいところは認める。更にコミュニケーション能力も高くなくて、友達もそう多くない。教室でも居るか居ないかの微妙な位置にあることは否定できない。


 あれ? なんだか悲しくなってきたぞ。


 いや。今はそっちはどうでもいい。

 バカにしてきている瀬長さんを逆に騙して仕返しさえできればそれでいいんだ。陰キャだってやるときはやるんだって分からせれば気は済むというもの。





 瀬長さんの手を握ったまま校門を出てしまったけど、このあとどうするかについてはノープラン。

 放課後デートなんてしたことないし、知り合いにそういうのに長けている識者もいないので事前調査もしたことさえなかった。


 とりあえずはこの勢いで取ってしまった手をいつ離すかが最初の重要案件だったりする。俺が握ったのに対して嫌がることもなく瀬長さんも握り返してくれているので逆に困る。


 冷静になると、瀬長さんの手は小さくてすべすべしているし、柔らかくてほんのちょっと冷たいのに気づく。

 で、一旦気づくと自分のやった、やってしまっている行動の重大さに手汗も蒸発するほどに身体が熱くなるのがわかった。


 しかし、ただこのままぷらぷらと歩いているわけにもいかない。早く次の手を考え行動しないと俺の無策が露呈してしまいまたバカにされる事態が確実化してしまう。


 仕方ない。情けないのは認めた上で彼女に聞いてみることにする。


「瀬長さんはこのあと行きたいところとかある?」

「鳥谷君といっしょならどこでもいいよ」


 そうきたか。まさかと思うけど、試されている?


「じゃあ、俺の行きつけの喫茶店でいいかな?」

「いいよ。行きつけがあるんだね、大人っぽいね」


 俺が学校帰りに寄るところなんてたかが知れている。小腹を満たすハンバーガーショップかラノベの新刊が出たときに寄る駅前の本屋。そして好きな飲物であるコーヒーを堪能できる通学路から外れた小さな喫茶店。


 高校入学当初、道に迷って偶然発見した隠れ家のような鄙びた喫茶店。うるさい中高校生なんか絶対に寄り付かないようなゆっくり出来る俺のお気に入りの店だ。


 これだけ選択肢が限られている以上最良の選択としては喫茶店が一番ではないだろうか。




 いつも座る窓際の一番奥の席が今日も空いていたのでそちらに座ることにする。


「あ……」


 テーブルを挟み向かい合って座ることになるのでここでやっと手を離すことができたが、瀬長さんは離した自分の手を名残惜しそうに見ている。


「どうかしたの?」

「ううん。なんでもない……」


 俺はブレンドコーヒーを瀬長さんは紅茶のケーキセットを注文する。

 矍鑠かくしゃくとした年配の店主はゆっくりと丁寧にコーヒーを淹れる。この雰囲気が俺は好きなんだよな。


「ごめんね、なんか地味なところで」

「ううん。ぜんぜん大丈夫だよ。すごく素敵なお店だよね」


 店内は薄暗く、飴色に磨かれた木材をふんだんに使っていて落ち着く内装になっている。流れてくる音楽も穏やかなクラシックがちょうどいい音量で聞こえてくる。


「よかった。でも瀬長さんみたいなイケテルJKはカラオケだったり、流行りのカフェとかのほうがいいんじゃないのかと思うけど」


「ほんと平気だから。私って周りの他の子よりもずっと地味系だしそこまでキラキラしていないんだよ」


 当人が平気っていうのだからこれ以上余計なことは言わないほうがいいだろうな。


 まぁ、瀬長さんの言う通り、彼女は彼女の周りにいる友人たちに比べれば落ち着いた感じではある。彼女の周りにいる陽キャJKは髪が金色だったり化粧がバッチリだったりするいわゆるギャル系だもんな。

 それに比べると瀬長さんは弄っていない真っ直ぐな栗色のロングヘア。クリクリとした鳶色の大きな瞳に長いまつげはカラコンもマスカラもしていない。薄化粧の肌だってつやつやできめ細かくてきれいだ。

 唯一ギャルっぽいと思わせるのはピアスをしているってことぐらい。それだって大分控えめだ。


 こうまじまじと見てみると瀬長さんってかなりの美少女だよな。こんな娘が嘘告するなんてちょっとショックだよ。


 これが本当の告白だったら天にも昇る心地だったはずなのにな。



 コーヒーと紅茶、ケーキが運ばれてきた。


「いただきます。ん、美味しい」

「でしょ? ここのケーキはそこらへんのケーキ屋のケーキよりも俺は美味いと思うんだよな」


「うん、これは美味しいね。紅茶も香りが凄くいいね」

「是非とも売上に貢献してくれたら店主さんとはアカの他人の俺も嬉しいよ」


 ケーキはショートケーキとベイクドチーズケーキしかないけど両方とも絶品だから試してほしい。


「そういえば、今日そのまま瀬長さんのこと連れてきちゃったけど、友達とか放ってきちゃって平気だったの?」


 無理やり引っ張ってきた俺がいうのもおかしなもんだけどね。


「うん、平気だよ。今日はね……えっと」

「どうした?」


「ん~あまり大きな声では言えないんだけど、たえちゃん、えっと金髪ボブの娘だけど分かる?」

「あ、ああ。あいつね、分かる。柴崎だろ」


 背があまり高くない、声が少々でかい陽気なお嬢さんね。一度も話したことはないが存在は確認している。


「そのたえちゃんがこの前の放課後、みんなでやっていたゲームで負けちゃって、今日はその罰ゲームの日なんだ。私はね、止めたほうがいいよって言ったんだけど、ただの罰ゲームだからって聞いてくれなかったんだよね」


「罰ゲームありのゲームって妙な緊張感があって心臓に悪そうだな」


 俺だったら焦ってしまいゲームがボロボロになりそうだぞ。メンタルが雑魚なもんでね!


「私はそういうの強いんで負けたことは一度もないんだよね。ちょっと自慢」


「へ~すごいね。俺なんてほんと駄目で……ん? 一度も負けたことないの?」


「うん! すごいでしょ?」


 一度も負けていないのに瀬長さんが嘘告罰ゲームをするってあるのか? それにゲームに負けたのは柴崎で、罰ゲームを今日しているんだろ。


「あのさ、柴崎の罰ゲームって何やるの?」


「えっとね、嘘告ってやつみたい。でもたえちゃんがするのは本当に好きな男子に告白するみたいだよ。うまくいくといいけど、みんなの目の前で告白するのは嫌だよね」


 …………あれれ?


「えっと、瀬長さんはそれ見に行かなくてよかったの?」


「だって今日は鳥谷くんに告白する日って前々から決めていたから。でもよかったぁ。鳥谷くんも私のこと好きでいてくれたなんて嬉しすぎる」


「だな。あはははははは……」






 嘘告では……ない、と。



 これ。一生本当のこと言えないやつじゃね?



今年もよろしくお願いします

他の作品も頑張るよ……

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