黒○げ危機一発でNAISEIのつもりが、乗っ取られかけました。

るるあ

前世の知識で危機一髪?


 お題から話が膨らまない時は子供に聞いてみよう!第二弾。

 「危機一髪といえば?」

 「黒ひ○危機一発!」


★★★★★★★★★★★★★★



 何やら酷く寒い。

 身体が随分重く、怠い……。


 気がついたら、ベッドに横になって腕から血を抜かれていたのだった。


 「それでは、また。……神の御加護がありますように。」


 教会から派遣された神官様が、私の処置を終えて部屋を立ち去るのを、頭を下げて見送る。


 アレだ、悪い血を抜けば病気が治る的な治療法、瀉血しゃけつでも採用されたという話ですね。

 いつもの事なんだけれども、クラクラする意識の中でふと、これってそういう時代の医療関係者が伝えたのかなーなんて思って、


 えっ?って何?


 あれっ?私は……すぐ寝こんで、貧乏なこの家のお荷物長男で。…いつも貧血気味な私はこの治療法じゃ、悪化の一途なんじゃないのかな?

 教会を紹介してくれた、自称婚約者の美人縦ロール嬢の家……隣領って、うちの領への移住者が随分増えていたような…?


 などとぐるぐる考えて、意識が飛んだ。



 ぺちっ。


 血を作る鉄分には牛乳とかレバーとか、確か日光を浴びたりしないといけない…ってそれはカルシウムか?

 なんて朦朧とする意識の中で、


 ぺちぺち


 頬を叩く柔らかな手


 ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち

 「にいちゃー、あさよー、おっき、ちてねーー!」


 「うわっバカリルケ!アイン兄貴を殺す気か?!」


 バタバタと来た誰かが、ぺちぺち攻撃を防いでくれたようだ。

 ヒソヒソと叱る、謝る、話し声。


 重い瞼を持ち上げてみる。

 と、そこには、栗色の髪に碧の目をした青年と、それの腕にコアラのごとくしがみつく、同じ色味のふわふわカールヘア幼女。

 二人は、私を覗き込んでいた。


 「…ごめん兄貴、起こしちゃった?」

 「にいちゃ、ねむいの?いたい?げんきない?じゃあ、リルがとんでけーってしてあげゆのよ?」


 三男のドライトと、末っ子リルケ。―今日の担当はこの二人らしい。

 上記二人の他、次男のツヴァイト、四男のフィアールト、五男フュンフが交代で私を看てくれている。


 ああ、そうだ。

 私は、寒村が点在するこの辺境を治める男爵家の嫡男、アインツ。

 両親は王城の役人として詰めている為、私を含む六人兄妹でこの地を任されているのだった。


 「……っ!」

 声が出ず、喉が引きつる。

 

 「兄貴、水!」

 「どーじょなのよー!」


 ドライトに支えられ上半身を起こす。

 リルケが器用にベッド横から、私に水を飲ませてくれた。病人用の吸いのみ、あるんだ……って、私が村の職人に作らせたんだったか。今思えば、幼少の頃これが見つかったから、いけなかったんだな…。

 起き抜けで張り付く喉に、水が通る。


 「……二人共、ありがとう。」

 笑顔でそう返すと、二人は輝く笑顔で応えてくれた。


 「なぁ、アイン兄貴。前から言ってるけどさ、教会の治療法って断れないのか?どう見てもあの処置が始まってからの方が、寝込む回数増えてると思うぜ。」

 あいつら、寄り親の縦ロール女の手先なんだろ!?と怒りをあらわにするドライト。


 「あいんにーちゃ、クルクルのおねえちゃんのこと、まだスキ?……あのねぇ、あたちね、にーちゃをわるくいうからキライなのよー。」

 にーちゃのこと、ちょろい??なんとかってイヤなかおしていってたのよー!いやよー!

 

 あー…、縦ロール嬢。

 幼馴染の、私の初めての友人にして仄かな初恋を芽生えさせていた相手。今にして思えば、彼女が私の交友関係を全てコントロールしていたな……。


 ため息混じりに言う。

 「うん、そうだな。二人の言う通りだ。……領主代理として、しっかりしなくちゃいけないね。」


 ツヴァイト達にも話があるから、手が空いたら後で来てもらえるよう言っておいてくれないか?と伝えると、二人は使命感に燃える瞳で部屋を飛び出して行った。

 扉がちょっと開いてるよ…。

 まあ、それだけ私のゴーサインを待っていたという事だろうな。ああ、不甲斐ない…。


 ベッドに横になって考える。

 

 この世界では、異界の知識が降りてくる人が少なくない。それを“妖精の囁き”と言って、発展して来た。

 異世界転生ではなく、知識だけ降りてくる…アカシックレコードに不正アクセスしている?神同士の交流がある?まぁ、なにやらそういうシステムな訳だ。

 そうすると、はっきりと異界で生きていた個人の記憶がある私は、いわゆるバグなのか?


 まあいい。


 とりあえず、目立ってはいけないという強い気持ちによって、寄り親の侯爵家の姫で自称婚約者である縦ロール嬢に“妖精の囁き”を譲渡していた、まではよかった。

 だが……うーん。

 両親を王都にやって、辺境に私達兄妹のみ置き、領主代理の私は飼い殺し…ゆくゆくは寄り親で隣領主である縦ロール嬢侯爵家が助けるという筋書き、と。

 野心家でうちの領を妬んでたあのたぬき爺がやりそうな手口だな。もしかしてまだ母上の事諦めてないのかな…?


 こんな事態になった決定打は、の大当たりだと思う。


 そう、「黒ひ○危機一発」。販売名は…海賊にしたのだったか?

 あまりの売れ行きに、欲が出たんだな。


 名誉は縦ロール嬢の家、こちらは特産品(仕事)を!という訳で、我が領地の優秀な細工職人たちが制作を請け負う事に。

 生産体制は領民にお願いしているのだが、丸ごと手に入れようと、うちの優秀な職人たちを包囲し始めたのかな。

 その初手が領民流入か?


 しかし、縦ロール嬢はたぬき爺とはあまり通じてないようだな?私をもっと取り込む動きをするべきなんだろうけど…?

 異界の知識からの産業について、業務提携を文書として結んだのは記憶にある。でもそれだけ。婚約式…のような物もなかった。

 なのに何故彼女は、

 「貴方には学園で素敵な出会いがあるから仲良くできない」

 「いつでも破棄します」

 等と念押ししていたのだろう?地味に傷ついていたな、私。

 まぁそのおかげで、私には望みはないのだと深入りしなかったのは僥倖だったな。


 ちなみに今や彼女は教会預かりで、“妖精の囁き”を自在に操る聖女さま。

 お優しい聖女さまは、幼馴染みの私に特別な治療法を授けて下さっている…という訳だ。恐らく神殿の古い記録あたりから瀉血療法を発見、私を実験台モルモットにしたのだろうな…。

 つまり、教会ともズブズブの関係?


 とりあえず、妖精の囁き関連の事を仄めかし、血を抜くのは止めてもらって、うちの領地に教会を斡旋する話は辞退しよう。

 後は…隣領地からの人の流入って、どの程度だろうか?次男の腹黒ツヴァイトあたりが既に掴んでいそうだな…。


 コンコン!

 「兄さん、本当の意味で目が覚めたって

聞いたけど、どんな感じ?」

 一見優しげな細目笑顔のツヴァイトが、開いてる扉を叩きながらこちらを見ていた。


 「噂をすれば…だね。」

 こちらも胡散臭い笑顔で応える。


 「ふっ…。いい顔するようになったじゃん。さすが我らが兄貴。」

 

 「迷惑かけた。すまない。」

 頭を下げる私に、慌てて駆け寄るツヴァイ。

 「悪いのはアイン兄じゃないんだから、謝らないでよ。……今後は女を見る目を養ってね。」

 困った顔でそう言われてしまった。


 「面目ない。……ところで、今後の出方なんだけど。」


 「うん、いつでも動けるように、情報は揃えていたよ!」

 待ってましたとばかりに、扉付近にあったワゴンを押してきた。

 そこには資料の山、山、山!!!


 「さすが…。」

 「ちなみにこっちの山が、僕宛に縦ロール聖女さまがくれた恋文ね。」

 マジキモイありえねー…と呟くツヴァイ。


 「ハハハ…。」

 私、消される予定だったんだろうか?


 「こういう時に使うんでしょう?」

 

 やりかえす時は?


 「「倍返しだ!」」


 さあ、囁き元から切られた聖女さま?

 たぬきの爺さん?

 首を洗って待っていて下さいな。


★★★


 ……なんて作戦を練っていたら、天然人たらしな父親(陛下と幼馴染みとか知りたくなかった)と隣国である北の隣接領地からお嫁に来た母親(隣国の王位継承権12番目って何?)が、王都で大暴れしていたりだとかまぁ色々あるのだけど、


 とりあえず、婚約者は自分では選ばない事にします。


 ……病弱なままで、次男の補佐として生きてこうかな〜、もう。











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