第4話再出発

 ロロさんは僕を家族の食事に招待してくれた。

 ただの夕ご飯というよりは、晩餐と言った方が良いほどに豪華だった。


 お肉がトロトロに煮込まれたシチューや、温野菜のサラダ。甘い果物の盛り合わせなど、夢中で食べた。


 あの事故の現場で紳士が驚いていたように、妖精族の存在は知られていても、普通はあまり人間の前には姿を現さないそうだ。


 ロロさんは妖精族の中でも上位の貴族で、一部の信用できる人間と妖精の郷で採れる作物の取引を担当する商人だということだった。


 コメンスの世界は僕が元いた日本と違って、危険が多いという。魔物が出ることがあるし、盗賊や人さらいもいる。街の外へ出るなら大人でも護衛を雇って警戒するものらしい。


「コワイもの知らずにゃ。よく生きていたにゃ」


 ロロさんは呆れたように言った。


 ビギンの町を出てからまだ数日だったが、あの馬車事故が起こるまではほとんど誰にも会わなかった。

ソロキャンプでも楽しむ気分で気楽に歩いていた。安全な日本で生活してきたせいか警戒心が薄いみたいだ。


「人間族も、妖精族にも悪いのはいるから用心にゃ」


 妖精というと、小さくて羽の生えた可愛い子のイメージが強いけど、それをロロさんに言ったら笑われた。

 イタズラをしかけてきたり、呪いをかけたりする悪い妖精もいるらしい。


「不本意にゃけど、ゴブリンも妖精にゃ」

 ロロさんは顔をしかめた。


「そうなんですか、てっきり魔物だと思った」


 僕はまだゴブリンに遭遇したことはないけれど、ラノベではお馴染みの魔物だ。街道沿いに出て旅人を襲うこともあるらしい。


 ロロさんの話を聞いて、ひとりで旅立ったのは無謀だったかと思い直した。過保護だと思ってたけど、テリィさんが心配するわけだ。


 それでもこの世界を見てまわりたいという気持ちは変わらない。だって面白そうじゃないか。妖精だぞ。獣人もいるらしいし。会ってみたい。


ただ、今すぐにというのは無理かもしれない。


「これから強くなればいいのにゃ」

 ロロさんは笑った。


 ひとりで旅立てるまで、冒険者として暮らしながら準備すればいい。

 そう言われて、僕はあせっていたのかもしれないと思った。


 奥様のララさんに、しばらく屋敷で暮らしたらと言ってもらった。

 キキとも仲良くなったから、一緒に遊べると喜んでくれた。


「子どもは大人に頼るものにゃ」

 ロロさんは僕の頭をガシガシ撫でた。


 とても心引かれる提案で、すごく迷った。

 良い人たちに出会えて幸運だった。けど、僕は自立して生きていくべきだ。いつまでも甘えるのは良くないと思い直した。


 困った時は頼れる。助けてもらえる。そういう存在がいるだけで心強かった。

 見知らぬ世界の中で、ひとりぼっちじゃない。それがどれほど嬉しいことか。心からそう思った。


 結局、僕は三日ほどお世話になってから、ロロさんが取引のある町へ送ってもらった。


 僕はこのセコン町で、もう一度旅立てるよう準備する。強くなって、自分を守ったり、人の護衛もできるようになる。


 そう心に決めて、僕は仕事を求めて冒険者ギルドのドアをくぐった。


(終)

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アラタ危機一髪! 仲津麻子 @kukiha

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