第45話 ホワイト……いや、レッドクリスマス!

 今更ながら、ダンジョン内は異界だ。

 ダンジョンゲートの外がどんな季節であろうとも、ゲートの内側はそれに影響されない。


 冬真っただ中の今でさえ、うだるような暑さのダンジョンもあるし、年がら年中凍てついているダンジョンもある。


 とはいえ配信に当たって――ましてサンタコスチュームをしている配信なのだから、やはり季節感は欲しかった。


 サンタコスで砂漠を探索していたらそれはそれで面白いのかもしれないが、瑠奈は別に逆路線を求めているわけではない。


 ということで、現在サンタコスをした瑠奈、鈴音、アリサが探索しているBランクダンジョンはというと――――


「う~さ~ぎ~お~いし、か~の~や~まぁ~♪」


 ダンッ! ダァン!


 雪化粧をした森の中。

 恐らくずっと冬であろうこのダンジョン内で、なぜ葉の一枚も茂らせていない木が生えている必要があるのかわからないが、サンタコスに身を包んだルナはこの景色を気に入っていた。


 その証拠に、大鎌を肩に担いで佇み、呑気に歌まで歌っている。


 鳴り響く銃声はそっちのけ。


「ちょ、瑠奈ちゃん! 気が散るので妙な歌歌わないでいただけます!?」

「えぇ~、今にピッタリの歌だよ~?」

「どこがっ!? もっと緊張感漂う状況のはずですけど!?」


 先程から必死にショットガンに火を噴かせているアリサが、まるで音楽の授業中のやる気のない生徒みたく歌う瑠奈にツッコミを入れる。


 流石にのんびりしすぎていてアリサは自分の方が間違っているのかと勘違いしそうになるが、周囲を軽快に跳び回って攪乱してくるウサギ型モンスターの群れを見ればアリサが持つ緊張感が正しいことがわかる。


 そう。今は雪景色の中でウサギ狩りの最中。

 警戒心が強く逃げ回るウサギを追うあのウサギ狩り……とは、少し違う。


 成人男性より一回り大きい体躯を誇る大きなウサギ達が、目立つ格好をしている瑠奈達を獲物と認識し狩るために襲い掛かってくる。


 つまり、『ウサギ狩り』ではなく『ウサギ狩られ』だ。


 そこでアリサは狩られないよう必死に抵抗している。

 アリサ自身Cランク探索者だが、扱うショットガンが一級品のようで、持ち前の高い射撃技術も相まって確実に巨大ウサギの数を減らしていく。


 だが、それでもまだまだ巨大ウサギは沢山おり、瑠奈達三人の周囲をグルグル回るように飛び跳ねている。


 そして――――


「しまっ……抜けられましたわ!」


 アリサの射線を掻い潜って、何匹かの巨大ウサギが一気に距離を詰めてくる。


「任せてください!」


 焦るアリサだったが、鈴音が冷静に長杖を構える。

 こうなることを想定して、あらかじめスキル発動の準備は済ませていたのだ。


「穿て……【アイシクル・エッジ】ッ!」


 カツッ、と鈴音が長杖の柄頭を足元に突くと、前方に壁を作るように地面から先端が鋭利な氷の柱が伸び出した。


 グシャァ……!

 グサッ、グシャァ!!


 もはや氷でできた巨大な槍とも言えるそれらが、向かってきていた巨大ウサギを腹から背に掛けて貫いた。


 巨大ウサギが次々串刺しにされて、力なくだらりと突き刺さったまま絶命していく様はなかなかに刺激的で、アリサは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


 平然としているのは瑠奈と、そんな瑠奈とよく一緒に探索に言っている鈴音だけだ。


 視聴者らもコメント欄で『うわぁ……』『えっぐ……』『グロすぎるw』とドン引きのご様子。


 だが、戦闘はまだ終わっていなかった。

 鈴音の作り上げた鋭い氷の壁を跳躍で躱し、飛び掛かってくる巨大ウサギ。


 それを見た鈴音が、

「瑠奈先輩!」

 既にニヤリと口角を持ち上げ、大鎌を両手に持ち替えていた瑠奈が、

「わかってる」


 そして――――


「あっはは!!」


 大きく足を踏み込み、大上段から大鎌を縦に一閃。

 飛び掛かってきた巨大ウサギを頭蓋から粉砕し、そのまま二枚下ろしに。


 吹き出す鮮血が周囲の雪景色を赤く染め上げていく。

 白と赤のクリスマスカラーの完成だ。



○コメント○

『ぶった切りやがったw』

『もうしばらく肉食べれそうにないわ……w』

『ヴィ―ガンの人の気持ちを初めて理解したw』

『残虐極まりないwww』

『もっとやり方あるやろ』

『↑数ある殺り方の中でこれを選ぶのがルーナ』

 …………



 ふぅ、と良い手応えだったのか嬉しそうに一息つく瑠奈の後ろで、アリサが鈴音にササッと近付いて尋ねる。


「る、瑠奈ちゃんっていっつもこんな感じなのかしら……?」

「あはは……そうですね。もう私は見慣れちゃって何も思わなくなりましたけど……」


 そう言って曖昧に笑う鈴音に、アリサは「これに慣れるってどういうことですの……」と呆れて半目を作っていた。


 そして、そんなアリサのドン引きなど露知らず、もう動かなくなったモンスターに興味はないとばかりに瑠奈が歩き始めた。


「この辺りのは狩り尽くしたから、もっと奥まで行ってみよう~」

「あっ、待ってくださいよ瑠奈先輩」

「あ、赤いですわ……赤い百合の花ですわ……」



◇◆◇



 クリスマスダンジョン探索配信開始からおよそ一時間半後。

 その赤い百合の花は、姿形を変貌させ、立派な彼岸花として咲き誇っていた――――


「良いね良いねっ! ダンジョン探索はこうでなくっちゃぁ!」


 後衛に鈴音、中衛にアリサを置き、雪を舞い上げてグングン前に疾走する瑠奈の視線の先には、巨大な鹿。


 Bランクモンスター【ヴァイントラント・ディアー】。

 地につく四本の脚は筋骨隆々としており、頭には木の幹のような立派な角が生えている。


 そんな見た目から、攻撃手段は巨体ゆえの圧倒的重量と角を活かした突進かと思いきや…………


 ズザザザザァ!!


 巨大鹿が蹄を鳴らすのと同時に、地面から無数の植物の蔓が突き出してきた。一本一本が太くて硬く、しかし柔らかく自在に動く。


 駆ける瑠奈を絡め取ろうと――いや、もう華奢な身体を貫こうという勢いで蔓が襲い掛かる。


 いつもなら一旦ここで足を止めて、蔓を大鎌で斬り刻んでから巨大鹿に向かっていくところ。しかし、今日の瑠奈は足を止めない。


 なぜなら――――


「【アイシクル・レイン】ッ!」

「鬱陶しい蔓ですわね!」


 ダァン! ダァンッ!


 ――今はパーティーメンバーがいる。


 瑠奈の後ろから鈴音とアリサが的確に援護。

 鈴音の放つ幾本もの氷の槍が蔓を斬り裂き、アリサの放つ弾丸が狙い違わず蔓を撃ち砕いていく。


 蔓で塞がっていた進路が開け、瑠奈の口角が吊り上がる。


「あはっ、サンタさんの言うこと聞かないトナカイさんはお仕置きしなきゃねぇ~」


 ブワァ! と瑠奈の身体から赤いオーラが噴き出した。

 スキル【狂花爛漫】によって身体能力が大幅に昇華され、雪の上で走る瑠奈の身体の輪郭が赤く霞む。


 巨大鹿も殺されまいと再び大量の蔓を地面から突き出して迎撃を試みる。


 しかし――――


「もうそれはワタシには届かないよっ!」


 羽虫でも払うかのように、瑠奈は疾走する速度を下げることなく大鎌を巧みに回転し振るい、行く手を阻む蔓を斬り飛ばす。


「トドメ……」


 シュバッ! と大鎌の刃に深紅の焔。

 その熱気に周囲の雪化粧が呆気なく剥がされる。


「【バーニング・オブ・リコリス】ッ!」


 最後に地面を強く蹴り出し、生み出した加速力で一気に間合いを詰める瑠奈。


 巨大鹿がその両の目を見開く頃には既に眼前に迫っていた瑠奈が、燃える大鎌を振るう。


 刃が捉え得たのは巨大鹿の太い首。

 硬い筋繊維をものともせず、一度瞬きしたあとにはその頭部が宙を飛んでいた。


 瑠奈がそのまま駆け抜けて大鎌を振り抜いた状態でピタリと止まる。


 その背中で、頭を失った巨大鹿は二、三度身体を左右に揺らしたあと、力なく地面に倒れ込む。


 その亡骸は断面から迸った炎によって包まれ、次の瞬間に爆散。

 あとには黒い塵が宙に舞い、地面に魔石が一つ落ちているだけだった。


「いっちょあがり……ってね!」


 ファンサのつもりだろう。

 撮影用ドローンに向かって可愛らしくウィンクをする瑠奈だったが、視聴者らがまったく萌えていないことは流れるコメントを見れば一目瞭然だった。



○コメント○

『Bランクを一撃かぁ……』

『今回パーティー組んでるとはいえ、ヤバすぎる』

『流石ルーナたん!!』

『良い子にしてるので、もうサンタさんは家に来ないでください』

『ワイもクリスマスプレゼントより、自分の命を優先する』

『美少女サンタ怖いから、普通のオジサンタで頼む』

『↑オジサンタ草』

 …………



 今回のLIVE配信の最大同接数、二万五千人。






【あとがき】


 どうも、作者の水瓶シロンです!

 いかがでしょう、本作品お楽しみいただけていますでしょうか?


 まぁ、毎度コメント欄を見れば楽しそう(?)なコメントが多く寄せられていて作者は嬉しいです!


 さて、急ではありますが一旦ここで一時完結ということにします。


 えぇえええ!? 何で急に!?

 という、皆様のお声が聞こえるぅ(レッツゴートゥー耳鼻科)。


 理由は密かに新人賞用に作品も並行して書いていたんですが、締め切りがちょぉっとヤバくなってきたので、一旦そっちに専念させてください!


 ですがご安心を!

 六月入ってから、連載再開するつもりです!

 六月入ってから、連載再開するつもりです!

(重要なことなので二回言いました)


 なので、それまで少々お待ちください!


 では、最後に。

 瑠奈ちゃん何かコメントありますか?


瑠奈――

「はぁ~い!

 視聴者のみんなにはごめんなさいだけど、少しの間待っててね。ポンコツ作者には、ワタシがきちんと大鎌で制裁しとくから安心してね! あはっ!

 また再開するときに通知が行くように、作品のフォローや作者のフォローを忘れずに!

 あと、まだの人は作品の☆☆☆評価をしてくれても良いんだよ?

 じゃっ、またね~!!」

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【悲報】美少女にTS転生して愛され系ダンジョン探索配信者デビューしたつもりが、何故か危ないヤツ認定された件~可愛い顔して重量武器を振り回す女の子に『萌え』or『ドン引き』!?~ 水瓶シロン @Ryokusen

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