第44話 サンタ三人娘のクリスマス配信!
十二月二十五日。クリスマス。
キリスト教徒の人もそうでない人も、世界中のほとんどの人が今日を特別な日と認識して祝う。
クリスマスを家族とのんびり過ごす者もいれば、一人でひっそりと楽しむ者もいる。あるいは、クリスマスイブの夜を思い人と共に熱いひと時にした者もいるだろう。
そんな中で、最近話題沸騰中のダンジョン探索者ルーナのチャンネルでは、真昼間からBランクダンジョンでLIVE配信を行っていた――――
LIVE――――
「メリークリスマスっ! みんなぁ~、クリスマスをエンジョイしてるかなぁ~!?」
撮影用ドローンによって元気よく映し出されるのは、今日という特別な日に合わせていつもとは違った服装をした瑠奈だ。
一言で言えばサンタコスチューム。
赤を基調としたワンピース型の服。ウエストをベルトでキュッと絞られていて、フリルのあしらわれたスカートの裾は太腿辺りで揺れている。その下からは黒タイツに包まれたおみ足がしなやかに伸びていた。
また、頭には皆が想像する通りのとんがり帽子があり、肩からケープが羽織られている。
「既にエンジョイしてる人はリア充だから爆散しろ~? でも、一人寂しくノットエンジョイのみんなは、この可愛いワタシを見て元気出せ~!」
○コメント○
『おぉおおお!』
『サンタさんだ!』
『ルーナサンタ!』
『これは可愛い』
『不覚にも可愛いと思ってしまった……』
『久し振りにルーナちゃんが美少女であることを思い出した』
『このまま何もしなくて良い』
『美少女のままでいてくれ……!』
『幻想が壊れないことを祈るばかりw』
…………
「ちょっとちょっと? 一部聞き捨てならないこと言ってる人がいるようだけど……気のせいだよねぇ?」
スッとEADの特殊空間から大鎌を取り出した瑠奈。
別に他意はない。
他意はないが、コメント欄では『き、気のせいだよ!』『ルーナはいつでも可愛い!』などと焦った様子のコメントが次々流れ始めた。
まったくもぅ、と瑠奈はため息を吐くが、すぐに笑顔を取り戻して話を続ける。
「まぁ? 可愛さとしてはワタシ一人で充分なんだけど、今日は折角のクリスマスだからね。事前に告知してた通り、今日の配信にはスペシャルゲストがいま~す!」
瑠奈の合図で、画面に一人の少女が現れる。
「ごきげんようですわ、皆様。一色アリサですの」
金髪を輝かせて登場したアリサ。
こちらもサンタコスチュームだが、デザインは瑠奈と大きく異なる。
赤い服は上下別で、上は胸元と腕を覆うだけ。細く引き締まったお腹が遠慮なく晒されていた。
加えて捲れ上がる心配はないキュロットスカートを履いているものの、代わりとばかりにその下からは生のおみ足が伸びている。
露出を控えて持ち前の可愛さで勝負している瑠奈に対して、アリサは超有名モデルの名に相応しいその身体で決して下品ではないセクシーさで魅せていた。
コメント欄には歓喜の声が津波のように押し寄せている。
普段瑠奈の配信は見ていないが、今日はアリサが出ると聞いてやって来た視聴者も少なくないだろう。
「はいはい、みんな落ち着いて落ち着いて~。ゲストはもう一人いるんだからぁ。ささ、鈴音ちゃん!」
瑠奈に手を引かれて最後に配信画面に姿を見せたのは、これまたサンタコスチュームの鈴音。恥ずかしいのか、衣装に負けず劣らず顔が真っ赤になっている。
「ど、どうも皆さん。何だか有名人二人に挟まれて場違いな感じがしてなりませんが……よろしくお願いします……」
「そんなに畏まらないで良いんだよ鈴音ちゃ~ん。可愛さはワタシやアリサちゃんにも勝るとも劣らないんだから!」
「せ、先輩! 恥ずかしいのでそんな堂々と言わないでください……!」
○コメント○
『クリスタルゴーレム討伐配信のときに出てきた人だ!』
『久し振り~!!』
『あの【剣翼】の妹だろ!? すげぇ……』
『ってか、めっちゃ可愛いんだが』
『↑それな! 正統派美少女』
『恥ずかしがってんのも可愛すぎるw』
…………
恐縮する鈴音本人とは裏腹に、視聴者達には非常に好評なようで、可愛らしさを称賛するコメントが後を絶たない。
そんな鈴音の衣装はワンピースタイプで瑠奈と似ているが、スカートが膝下まであったり【魔法師】らしくマントを羽織っていたりと差別化が図られている。
そして、頭にはしっかり二人とお揃いのとんがり帽子。
これで三人の美少女サンタが揃った。
「どうどう? ワタシ達の衣装すっごく可愛いでしょ? これ、アリサちゃんがスタイリストさんから取り寄せてくれたんだよ~。ありがとね~!」
「ふふん。このくらい、私に掛かればお安い御用ですわ!」
鼻高に腕を組んでみせるアリサ。
だが、徐々にその表情を不安なものにさせていき、瑠奈に恐る恐る尋ねた。
「ところで、こうしてBランクダンジョンに来たのは良いんですけれど……一体今から何をするつもりですの……?」
「えっ、そんなの決まってるよ~」
瑠奈は当然とばかりの笑顔で大鎌を肩に担いで答える。
「ダンジョンですることなんてたった一つ。モンスターを狩るんだよぉ」
「ちょっ、私Cランク何ですけれど!?」
「大丈夫大丈夫! ワタシ、DランクのときにはBランクモンスターとやってたしさ」
○コメント○
『何も大丈夫じゃなくて草』
『大丈夫とは何ぞやw』
『いや、配信前に打ち合わせしてないんかいw』
『ルーナが異常なだけwww』
『ルーナの普通は皆の異常だから……』
…………
決して曲がらないだろう瑠奈の笑顔を前にして、アリサは諦めたように乾き笑いをする。
「ははは……どうやら私の墓場が決まったようですわ……」
「んもぅ、アリサちゃんは心配性だなぁ。ワタシも鈴音ちゃんもBランクだから安心してよ~」
ねっ? と瑠奈は鈴音に同意を求めるが、鈴音は困ったように眉尻を下げて曖昧に笑う。
「えぇっと……瑠奈先輩との探索は、常にスリルと共に……ですけど、まぁ……だ、大丈夫? なんじゃないですか? 多分……」
「ほらっ、鈴音ちゃんもこう言ってるしさ!」
一体全体何がどう「ほらっ」なのかわからないが、アリサは渋々「わかりましたわ……」と観念する。
「よぉし、そうと決まれば早速行こう!」
瑠奈が先陣を切って歩き始める。
「美少女サンタ三人で、視聴者のみんなに楽しいひと時をプレゼントしなくちゃ!」
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