物語のスタート地点

多崎リクト

スタート

物語のスタート地点はどこだろう。語られ始めたその時か、それとも主人公がこの世に生を受けた時か。

少なくとも俺にとってのスタートは今、ここからだった。





『エメラルド学園』の世界なんですけどぉおおおおお!!



思わず叫びそうになったのを堪えた自分は凄いと思う。

というのも、あの、『エメラルド学園』通称エメ学の世界だ。あの。

何度もやりこんだBLゲームであり、アニメ化も決定していたあの。


主人公は全寮制男子校に転入し、様々なキャラクターとフラグを立てながら、誰か一人とのトゥルーエンドを目指していく。攻略キャラも多く属性に幅がある。学園で起きるトラブルを解決していく必要もあり、それが攻略するキャラによって見えてくる視点が変わって奥が深いゲームなのだ。

主人公は基本的に受けで、フラグ建築士であるが、隠しキャラを攻略すると主人公攻めルートに進んだりする。


そんな大好きなゲームの世界に…………どうやら、転生したらしい。この世界の住人として育ってきた記憶はたしかにあって、そこに急に「あ、小さい頃ここで遊んだことあるな」みたいなノリで前世の記憶が流れ込んできたのだ。

物語はおそらくとっくに始まっていて、主人公は様々なキャラとフラグを立てている頃だろう。なんてことだ。出会いイベントをことごとく見逃してしまった。


何故今まで思い出さなかったのか。仕方の無いことではあるが悔やまれる。


せめて今後は主人公くんのイベントを余すことなく観察したい。


俺のポジションは攻略キャラでもないし、所謂脇役である。主人公くんとの絡みもあまりないし、安全圏から推しゲームを愛でるとしよう。


そう、思ったのだが……



「和木、移動教室一緒に行こう」

「和木、昼飯一緒に食おう」

「和木、部屋遊びに行っていい?」



……なんか、主人公くんが俺としか絡んでこない。


攻略キャラたちとの絡みは?

そこいらへんに沢山いるんだけど……なんで俺まっしぐらで話しかけてくるの?



「和木、俺、お前のことが……」


その時ようやく気がついた。

このやりとり、主人公攻めルートに似ている。迫られているのは俺ではなく別のキャラだったはずだけど。


「好きなんだ」



大好きなエメ学のストーリーを楽しめると思っていたのに。攻略対象が俺なんてとんでもない。

とんでもない……はずなのに。

主人公くんから真っ直ぐに向けられる気持ちが、どうしてか嬉しくて。

もしかしたらここが俺の物語のスタート地点だったのかもしれないな、なんて考えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

物語のスタート地点 多崎リクト @r_tazaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ