ふたりぐみ

南雲 皋

○-○

 中学三年生の夏頃。

 テストの成績は上の下で先生ウケよし。

 クラスの中心人部であると自覚していた俺は、あの頃完全に調子に乗っていた。


「ペアになれなかったやつ、終わりじゃね?」


 クラス替えのせいで一番仲が良かったグループをバラされ、学年一陰気臭いと裏でバカにしていたやつと同じクラスになってしまったこともあってイライラしていた俺は、ある休み時間にそんなことを言った。


「確かにー! 1回とかならアレだけど、毎回あぶれるのってヤバイよな」

「分かる分かる」


 俺だけじゃなく、話を聞いていた全員の頭に、教室の隅で本を開いてうつむく片瀬かたせの姿が浮かんでいたはずだ。

 そもそも奇数であるクラスにおいて、ペアになれない人間がでるのは当たり前のことで。

 ただ片瀬をからかえればよかったのだ。

 それだけのことだったのに。


 俺のその発言のせいで、授業などでペアを作る度に片瀬が笑われるようになった。

 俺自身はもう満足していたし、なんなら飽きてさえいたし、周囲のやつらが笑うのに乗っかって笑っているに過ぎなかったが。


 そうして訪れた高校受験の真っ最中。

 片瀬が死んだ。


『ふたりぐみになれないぼくは、しんだほうがいい』


 そんな遺書を残して。


 クラス中のやつらが動揺し、最終的に俺を見た。

 最初の発言こそ俺だったかもしれないが、あいつを追い詰めたのは全員だろう。

 どうして俺を見る。


 どうして、


 誰も何も言ってくれない。ただ、時々視線が俺の隣の、何もない空間に向くことがあるだけ。

 何を見たのか尋ねてみても、自分がそっちを見た自覚すらないようだった。


 片瀬が死んだ翌日から、ひとりでいるのが異様に恐ろしくなった。

 ペアになれない状態でいると、冷や汗が噴き出るのだ。

 何が見えるわけでもない。何かが起きているわけでもない。それなのに、怖い。


 早く、ペアにならなくては。

 ペアにならなくては、殺される。


 殺される?

 どうしてそう思う?

 分からない。

 分からないけれど、解ってしまったらおしまいだとも思う。

 解った時には俺は、きっと死んでいる。


 ペアになんて、なれなくてもいいのに。

 高校、大学、社会人と、成長すればするほど、ペアになる機会などどんどん減っていく。

 俺は必死に友人を、恋人を伴ってペアを作る。

 あまりの必死さに気味悪がられて距離を取られることもザラで。

 それでも死にたくなくて俺は。


 毎年欠かさず片瀬の命日に線香をあげにいき、謝罪をし、それでも消えない恐怖を抱えて、生きている。

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