エンドレス始まりの村

越山明佳

エンドレス始まりの村

「ここはどこだ?」

 俺は公園にいて、登った木から降りられなくなってる猫を助けようとしたところまでは覚えてる。


 辺りを見回すと森の中にいるようだ。

 元いた場所とは明らかに違う。

 夢でも見てるのか?


 ふにゅ。

 立ち上がろうと地面に着いた手から柔らかい感触を得る。

 雨でも降って柔らかくなってるのかと手元を見てみると……女の子がいた。


「んっ」

 うめき声をあげる女の子。目を覚ましてしまったようだ。


 なんの因果か、俺が触れているのは女の子の胸で、ふくよかだ。

 手のひらに収まりきらない。


 服を着ておらず直に感触が伝わってくる。

 悲鳴でもあげられるかとヒヤヒヤするも、予想外なことに抱きついてきた。


「助けてくれてありがとう」

「……は?」

 事情を聞くにどうやら、この女の子は俺が助けようとした猫らしい。

 なぜ女の子の姿になってるのかはわからない。


 ※


「とりあえず冒険しよう。おー」

「いや、とりあえず服を着てくれ!」

「猫が服を着るのはおかしいでしょ」

「今は猫ではないと自覚をしてほしいのだが……」

「なんかいる」

「聞いてないし」


 元猫らしく、興味をそそられるものに飛びついていく。

 その飛びつく先を見で追うと、そこにはスライムがいた。


「スライム……モンスター!?」

 元猫(今は女の子)がスライムをワンパンすると、小さな悲鳴をあげて消えてしまった。

 ワンパンというよりちょっと興味があってつついただけに見えたけど……それで倒せちゃうんだな。


 他にもスライムがいたため、俺も試しに攻撃してみる。

 恐る恐る猫がした程度の勢いで。

 難なく倒せた。

 次はもっと弱く。

 それでも倒せた。


 倒すたびに『+1』と表示が見えるもなにを意味してるのかわからない。

「なんか消える。おもしろい」


 次々とスライムを倒していく。

 ここまで簡単だとなにが楽しいのかわからないな。

 だがこれでわかった。

 僕は異世界に来たんだ。しかも助けようとした猫(今は女の子)と共に。


 ※


 森を抜けると村に着いた。

『始まりの村』というらしい。入口にある看板にそう書いてある。


 質素で田舎な空気が漂っている。

 まさに『始まりの村』という雰囲気だ。


「とりあえず、お前が着れる服がないか見てくるからおとなしく……」

 いない。どこにいったかと村の方に目を向けるとスライムを倒すときのように動き回っていた。


 村の人の注目を集めているというのに、まったく気にせずに。

 放って置くわけにもいかず、手を掴み、村を歩くことにした。

 さっさとこいつに服を着せなければ。


 ※


「15エアーです」

「15エアー?」

 求めていたのを見つけ、購入しようとするとなぞの単位のお金を要求された。

 店員はキレイな女性で、いつまでも裸の女の子を連れてると思われたくないのに。


「エアーってこれのことかな?」

「なんか空気中に浮いてる!?」

 確かにそれっぽい。

 でも、どうやって払えば……『支払う』とでも念じればいいのか?

 まさか、そんな単純なわけが。


「確かにいただきました」

 そんな単純だったみたいだ。

 空気中に漂っているお金が店員さんの方へと移動した。

 それと同時に求めていた女の子の服をもらう。


 元猫(女の子)は嫌がっていたが無理やり着せてやった。

 服を着せるだけなのに、なんでこんな苦労しなくちゃいけないんだ。

 真っ当なことをしてるはずなのに嫌がるもんだから悪いことをしてる気になるし。


「責任、取ってよね」

 責任てなんだ。服を着せただけだぞ。しかも全裸で闊歩してる女の子に。まぁ、元は猫だから女の子ってのも語弊があるんだけど。


 なにわともあれ、これで先に進める。

 そう思ってお店の外に出ると、外は真っ暗で冒険を進めるにはふさわしくなかった。


 ※


「12エアーです」

 仕方なく宿を取ることにする。

 もちろん2部屋。部屋自体は取ることはできたのだが……。


「絶対にヤダ!」

「なんでだよ。別に寝るだけなら一人でもいいだろ」

「なら一緒でもいいじゃん」

 元猫(今は女の子)と同じ部屋で一緒に寝るか、それとも別々の部屋で寝るかで揉めていた。


 俺的には元が猫であろうと、今は人の、それも巨乳女子。一緒に寝るのは気が引けた。

 別に間違いが起きることを懸念してるわけではないけど、元が猫であることを考えると尚更気が進まない。


 しかし結局、一緒に寝ることになった。

 というか疲れて寝落ちして、起きたら隣にいた。


 ※


 朝になり、先に進むことにする。

『次の村はこちらです』という看板に従い、道に沿って進んでいく。

 それにしても次の村って……名前は書いてないんだな。


 おっとスライム登場。まだ『始まりの村』周辺だもんな。


 ※


 次の村に到着。結局、スライムにしか会ってない。

 さて、気になる次の村の名前は?


『始まりの村』

 戻って来ちゃったかな?

 でもさっきの村と雰囲気が違う気がする。


「ここ見て」

 元猫(女の子)が指さしたところを見ると『β《ベータ》』と書かれていた。

 キリシア文字!? ちっさ!


 βということはα《アルファ》があるわけで、前の村がαだったのかな?

 おそらくそうなのだろう。

 わざわざ戻ってまで確認しようとは思わないけど。


 村を見て回ると雰囲気は確かに違うはずなのに売られている物は変わらなかった。

 なんだか嫌予感がするけど進まないわけにもいかないよね。


 次の村へと向かう。


 ※


『始まりの村』(小さくΓ《ガンマ》)

 ……いつまで続くんだろう。

 お金も宿代ぐらいしか使い道ないし。単位がエアーなはずだ。まさに空気。

 やることもないし先に進むけど。


 ※


『始まりの村』(小さくΨ《プサイ》)

 ギリシア文字の勉強をしに異世界に来たのかな、俺。

 Ψなんて初めて聞いたな。


 いつまで続くのだろうか。さすがに変わらなさすぎて飽きてきた。

 相変わらずモンスターはスライムだし、売ってる物は変わらないし。


 なにかヒント的なのないかな?

 そう思いつつ村中を歩き回っていると、教会を見つけた。

 ゲーム内だとセーブだったり、仲間を生き返らせたりで、今の俺には必要性が感じられないから中に入ってはなかったけど……入ってみるか。


 神父さんがいるから試しに話しかけてみる。

「この世界に村はいくつあるんですかね」


 神父は黙ってギリシア文字の表を見せてきた。

 全部で24文字か。今いるΨは……23文字目。


 ん? ということは次で最後!?

「ありがとうございます」

 反射的に神父にお礼を述べ次の村へと向かう。


 村は次で最後だとわかったのだから気が急くというものだ。

「よかったね。次が最後だってわかって」

「本当にな」


 もう終わりだと思えば気が楽だ。

 相変わらずモンスターはスライムしか出てこなくて終わる気配ないけど。


 ※


 難なく最後の村『始まりの村』(小さくΩ)に到着。

 当然のようにスライムしか出てこなかった。

 これで終わりかと思うと嬉しさと寂しさを同時に感じる。


 だが、終わりってなんだ?

 元の世界に戻れるのか?

 俺はなにを求めて冒険してるんだ?


 なんにしてもここが最後の村だとすれば次のポイントにはボスが待ってるはず。まだスライムしか倒してないから全然実感わかないけど。


 終わりが見えたんだ進むことにしよう。


 ※


 次のポイントに到着した。

『始まりの村』(小さくα2)

「なんでだよ!」

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エンドレス始まりの村 越山明佳 @koshiyama

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