三日坊主のスタート

銀色小鳩

三日坊主のスタート

 気が合わない。生活感覚が合わない。価値観が合わない。

 書いている小説の喧嘩カップル以上に、合わない。


「お義母さん、鍋が吹きこぼれてもすぐ拭かないの!」

「お義母さん、節水できるよう水量を設定してる洗濯機に、洗剤入れすぎるの……」

「お義母さんのシャンプーの薄め方が……」

「お義母さん、バウムクーヘンを私にお土産に買ってきたの。太るから要らないのに、困る」


 彼女が嫁姑の諍いを愚痴れば、口では「大変だね……」と同情の意を示しながら、頭では「姑(の側が)大変だな」と思うぐらい、合わない。


 そんな私は、高校の頃、彼女に惚れ、価値観の一部を完全に持っていかれていた。少しでも認めてもらえる、いやせめて、否定されない人間になりたい。合わないのはわかっているのに、ついつい合わせる努力をしてしまう。

 そして、ストレスで、その努力は三日坊主で終わる。


 髪の毛がパラっと落ちたらその場で拾ってゴミ箱に捨てにいくような人間に、私が合わせられるわけないじゃんよ。


 無理に合わせようとし続けた結果、自己肯定感はかなり低くなり、自分をダメ人間だと感じるようになり、色々他にも積み重なって、高校時代はかなりの希死念慮に見舞われたが、その希死念慮満開のときに、感じたことがある。


 三日坊主は、何度でも始められる。

 毎回同じ人の前で失敗していれば、自信をなくすこともあるけれど、そんな見栄は捨てて、別の人の前で同じ再度スタートを切ったっていい。

(そもそもそんなに合わないこと、しなくてもいいんだが)


 毎回スタート。


 三日間だけ、せめてあと半日、あと一回だけ、やってみよう。死ぬのは今度にして、あと一回だけ、スタートを……。

 この三日坊主のスタートの連続が、私を四十代まで生かしたままにした。


 今だからこそ、全く思わない。この三日坊主を無駄だとは。

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三日坊主のスタート 銀色小鳩 @ginnirokobato

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