卵ボーロは幸せの味

ポエムニスト光 (ノアキ光)

卵ボーロを食べると思い出す

 私は今でも、あの日のことを思い出す。


 あれは今から十年ほど前のことだった。

 いつものように公園を散歩していた私は、ベンチに座っている一人の少女に目を奪われた。少女は、泣き顔で膝を抱えていた。

 私は、何かできることはないかと思い、少女のそばに座って声をかけた。

「どうしたの?」

 少女は、しばらく泣き続けた後、ようやく口を開いた。

「お母さんが、お父さんと離婚するって……」

 少女は、お母さんとお父さんが離婚することになり、とても悲しんでいた。

 私は、少女に寄り添いながら、話を聞いてあげた。少女は、お母さんとお父さんが仲が悪くなって、よくケンカをしていたと言った。そして、お母さんがお父さんのことを嫌いになったと言った。お父さんのことが大好きだったので、信じられなかったと言った。

 私は、少女に言った。

「お母さんとお父さんは、お互いのことを愛していたけど、一緒には暮らせなくなったんだ。でも、お母さんとお父さんは、これからもきみのことを大切にしてくれるよ。きみは、お母さんとお父さんの大切な宝物なんだから」

 少女は、私の言葉に少しだけ元気を取り戻したようだった。そして、ポケットから小さな袋を取り出した。その袋の中には、たまごボーロがいくつか入っていた。

 少女は、たまごボーロを一つ取り出して、私に渡した。

「あなたも食べて」

 私は、少女の差し出したたまごボーロを受け取って、口にした。たまごボーロは、ふんわりとした食感で、ほんのりとした甘みがあった。

「これは、どこで買ったの?」

 少女は、答えた。

「これは、お母さんが作ったたまごボーロ。お父さんが食べるのが好きで、よく作ってくれたの。お母さんは、たまごボーロを作るのが上手だった。お父さんは、たまごボーロを食べると笑った。私も、たまごボーロを食べるとうれしくなった。私は、たまごボーロの味が忘れられない……」

 少女は、そう言って、また泣きそうになった。私は、少女の手を握った。

「でも、お母さんのたまごボーロは、これからも食べられるよ。お母さんは、きみにたまごボーロの作り方を教えてくれるはずだ。そして、お父さんにもたまごボーロを作ってあげるといいよ。お父さんは、きっと喜ぶよ。だから泣かないで」

 少女は、私の言葉に少し考え込んだようだった。そして、私に言った。

「ありがとう。あなたは、誰?」

 私は、少女に答えた。

「私は、ただの通りすがりの人だよ。でも、きみのことを応援してるよ」

 私は、そう言って、少女に笑顔を見せた。

 少女は、私の笑顔を見て、少しだけ笑顔になった。そして、私に言った。

「ありがとう。私も、がんばる」

少女は、そう言って、立ち上がった。私は、少女に言った。

「じゃあ、またね。元気でね」

 少女は、公園を去っていった。

 私は、少女が去った後も、しばらくその場に座っていた。少女の笑顔が、私の心に残った。


 味は違っても、卵ボーロを食べると、今でもあの少女のことを思い出す……。

それは、幸せの味だと、今でも思うのだった。

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