【SFショートストーリー】コズミック・ダイナー:幸福のレシピ
藍埜佑(あいのたすく)
【SFショートストーリー】コズミック・ダイナー:幸福のレシピ
数多の星が瞬く深宇宙の片隅に、人類が運営する宇宙ステーションがありました。
ここでは、研究者たちが宇宙の謎に挑み、また宇宙飛行士たちが休憩を取るための中継基地として利用されていました。
そのステーションの中でも特に評判の良かったのが、『コズミック・ダイナー』というレストランです。
ここに来れば、どんな味でも再現する伝説の自動調理マシン「シェフ・ミラクル」で作られた料理が食べられるというからです。
しかし、このマシンには一つだけみんなが知らない秘密がありました。
それは、マシンが料理を作る前に食べる人の記憶を読み取り、その人が最も幸福だった瞬間の味を再現していたのです。
あるとき、ステーションに一人の老飛行士、工藤が訪れました。
彼は長年の任務を終え、地球に帰還する途中の休暇で『コズミック・ダイナー』に立ち寄ったのです。
工藤はレストランの人気メニュー「幸福の味」を注文しました。
しかし、彼は口にした瞬間、顔色を変えて立ち去ってしまいます。
レストランのオーナーであり、シェフ・ミラクルのプログラマーでもある田中は、工藤の反応が気になり後を追いかけました。
田中が辿り着いた先には、工藤が宇宙を眺める一角で涙を流していたのです。
「工藤さん、一体どうされたんですか?」
田中が尋ねると、工藤は静かに語り始めました。
「私がさっき食べた味は、40年前、地球で愛する人と食べた最後のディナーの味だった。あの日私は、宇宙飛行士になるという夢を叶えるため、彼女の元を去った。それが最後のディナーで、その後彼女は……」
彼の話を聞いた田中は驚きました。
なんとシェフ・ミラクルのプログラムには、愛する人の記憶を再現する機能も隠されていたのです。
田中は工藤に提案します。
「もしよければ、その時の彼女も再現してみませんか?」
工藤は迷いながらも承諾し、田中はシェフ・ミラクルの特別な機能を起動させました。
すると、なんとそこに現れたのは、工藤と笑顔でディナーを楽しむ彼女の姿。
彼女は工藤の宇宙への夢を応援しつつ、静かに電子の海で彼を待ち続けていたのです。
驚きと喜びで涙を流す工藤。
そして二人は、過ぎ去った時間を取り戻すかのように宇宙ステーションを背に、いつまでも語り合いました。
星々は静かにその光を彼らに注ぎ、永遠の愛の証となったのでした。
(了)
【SFショートストーリー】コズミック・ダイナー:幸福のレシピ 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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