呼ばれた通り行くと、なぜかメガホンを渡された
糸花てと
第1話
中間テストが近く、勉強の為に学校は午前中まで。スマホに入った連絡通り、指定されている教室を目指して静まり返った校内を歩いた。
指定してある教室だけが電気で明るく、遠くからでも分かった。
引き戸を開けて、覗き込む。
「 そんな遠慮しないで入ってくださいよ~! 井之上くん、こちらに座っていただけますかっ?」
同じ委員の浅倉さんに、夏休み前に少し接点の出来た女子がいた。
「座ってもらったら、これ、持ってください」
そう渡されたのは、プラスチック製のメガホン。
演劇部の友達がいるなら、またあれか? 物語のネタ集め。
「悠ちゃん、どう? 井之上くん、監督っぽい?」
「うん……いい感じに緊張してきた」
五秒前、浅倉さんはカウントをして、静かにスタートの合図をする。
女子は少しずつ距離を埋めてきて、重なる視線は迷いを見せながらも俺だけをみつめる。
「好きです。わたしと付き合ってください!」
「井之上くん、どうですか?」
「葉子ちゃん……確認するの早い」
ごめーん、と言い笑い合う二人。何なんだこれ。
「帰る」
「待ってください。井之上くんの協力が必要なんです〜」
「だったら茶番を見せずに説明しろよ」
「その前に確認なんですけど……告白されてドキドキしました?」
頭の中を整理しようとして、ふいに視線は女子へと動く。重ねにいった視線は、そらされた。
「緊張はしたけど、それが恋愛に繋がるかは微妙。言わないよりは良いんじゃねーの?」
「なるほど〜。こう言ってますけど、悠ちゃん、参考になりそう?」
だから説明しろよ。
「参考というか……その通りだと思う。絶対に付き合える方法なんて無いわけだし、言うしかないんだよね」
茶番を見せられてはいたけど、そう言う辺り……誰かに告白したいのか?
女子から何度もお礼を言われ、あっという間に解散の空気が漂う。
「友達の名前くらいは教えてもらおうか」
「貝塚悠利で、悠ちゃんです。隣のクラスの男子に告白したいそうですよ」
「で、俺に連絡してきたのは、練習相手ってことか」
「 そうなる予定にしてたんですけど、ごもっともなことを言っちゃったから、あっという間に終わりました」
俺が悪いの? でもそうだろ? 言葉を噛んでも言わなきゃ始まらない。
段々と秋の気配。制服も長袖が増えてきた。中間テスト、一日目が終了した。
一斉に帰ることで、混雑する下駄箱。静かになった廊下を歩き、電気のついた教室前で、足が止まる。
好きです。付き合ってください――…
練習の時の堂々さは無く、声は震え小さい。顔も下を向いてしまっていて、泣きそうになっている。
待っていれば結果は見られるだろうけど。どちらか片方が教室から出てくるならそれは……。
引き戸が動き、二人は出てきた。互いに色々気にしながら繋がれた手は、スタートしたって意味かな。
呼ばれた通り行くと、なぜかメガホンを渡された 糸花てと @te4-3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます