スタート?脱走はやめられない、とまらない
神稲 沙都琉
第1話
スタート 新しい生活
施設、世間一般で言うところの老人ホームではいろんな利用者様が生活されている。自分で身体を動かすことができない寝たきりと言われる状態の方から自立という動き回ることのできる方まで、本当に様々な方がいる。
入れ替わりも結構頻繁にある。
誰か亡くなったり、退所したりすると数日しないうちに次がくる。
松下庄司さんもまた、新しく入所された方。書類上では温厚で、物静かで、自立されていて…と書かれてはいた。
確かに温厚だし自立されている。
その自立という状態がこんなに厄介な人いるのかなっ(怒り)。
入所して今日で3日。通算32回目の脱走を行い、今無事に捕獲、帰園となった。全て怪我はなし。
各居室の窓、お風呂場や脱衣所の窓、洗面所の窓。窓という窓から脱走している。私たち職員が事務作業をしたり着替えをしたりする詰め所の窓も松下さんの餌食となった。
ただしである。この詰め所の窓は私たちでさえ手がやっと届く距離である。
特に詰め所台所…。ここは窓の前に流し台がある。完全に手が届くハズもなく、まして出られるなんて考えられない。
身長が高いわけではない。
小太りのごく普通のおっちゃん体型。
…元アスリートか?
もう一人二人、脱走兵がいるがコチラは普通に出入口から出ようとするタイプなので警戒レベルはそこまで高くない。
『って、あれ?』
松下さんがいない。
『ボクはココです。ハイ、洗濯物』
暇つぶしに畳みました。種類別に分けてます。と洗濯物カートを押して松下さん登場。見るとキレイに分けて積み上げてありなおかつ、利用者様分はひと括りにまとめた上にガムテープに名前が記入されてる。凄い。
『今までのお詫びです。もう多分脱走はしないと思います』
おやすみ〜と一言だけいって部屋に向かう。多分かいっ!とツッコミを入れると絶対にしないとはいえねぇとだけ返して笑いながら中に消えた。
入所日がスタートじゃない。
慣れてからがスタートだと私は思う。
松下さん。大好きな利用者様たちの一人になりますように。いつまでも元気でね。
スタート?脱走はやめられない、とまらない 神稲 沙都琉 @satoru-y
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