第3話 無いのはキッカケ
正直、ゲームとしてはむちゃくちゃ平凡だった。
本当に学校に行って、授業を受けて給食食べて掃除して部活やって帰る。
ただ、一つ一つをゲームっぽくクリアしていこうっていう感じのやつだ。
そんでもって、SSRの友達がいると時々助けてくれる。真穂ちゃんは優秀だ。私のことをいつも応援してくれる。
応援があるとゲームの中の主人公である私のテンションが上がって、なんでも上手くいくという仕組みだ。
「あー、うん」
わかるわかる、と思わず私はゲームの画面に向かって頷く。
本当にそれだ。
仲のいい友達がいるだけで、なんとなく学校って上手くいくから。
嫌なことがあっても、成績が悪くても、先生と相性が悪くても、全部笑い飛ばせたりする。
引っ越す前には私にだってそういう友達はいた。でも、そのことでお母さんを恨んでもしょうがない。離婚したお母さんの方についていくことに決めたのは私だから。
◇ ◇ ◇
スタートダッシュキャンペーン二日目。
「え」
今日ももらえたログボのアイテムでガチャを回してみたところ、再び真穂ちゃんが出た。
それで、思わず声が出た。
どうやらこのゲームではダブったキャラを重ねると更に強くなるらしい(友達が強くなるってなんだ?)。
◇ ◇ ◇
スタートダッシュキャンペーン三日目。
今日もガチャを回す。
毎日引かせてくれるなんて、なんて太っ腹なゲームだろう。
好き。
「おおう?」
また、真穂ちゃんが出た。
三度目の正直。
ここまで来ると、すでに運命だと思う。
◇ ◇ ◇
「最近、楽しそうじゃない? 何かあったの?」
夕飯のときに、お母さんが言った。
私は喉にご飯を詰まらせそうになった。
「そ、そうかな」
ゲームが楽しいとか言ったら、もっと別のことでもしなさいとか言われちゃうかもしれない。
とりあえず、笑ってみせる。
「なんでもいいけどね。楽しいことがあるなら。私の都合で引っ越しなんかすることになっちゃったし、ごめんね」
お母さんの顔が曇る。
引っ越しは確かに嫌だった。
だけど、別に私が学校に行っていないのはお母さんのせいじゃない。
そう言いたいのに、言えない。
お母さんは一生懸命働いている。
私だっていつまでもこのままじゃない、と思う。
なんだかご飯の味がしない。
◇ ◇ ◇
「あー、ハイハイ。真穂ちゃんですね~」
もはや慣れたものだった。
運命を超えて腐れ縁。
スタートダッシュキャンペーンは一週間しかないのに、他のSSRは出てきてくれそうにない。
真穂ちゃんを重ねまくって激強友達だ。
いつも私を応援してくれる。
私はこのゲームの中の学校でなら、なんだって出来る。
「あーあ、本当にこんな友達がいたらな」
私は思わず呟いた。
そうしたら、学校なんてぽいぽいっと行けるのに。
私だって行きたくなくて行っていないんじゃない。
別に、スポーツ万能じゃなくていい。
勉強もめちゃくちゃ出来なくてもいい。
なんだろう。
学校に行くキッカケが、無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます