友達はSSR!

青樹空良

第1話 学校、行こうぜ!

 朝、まだ完全に目覚めていないぼんやりとした頭でスマホを手に取る。

 それでも気付いた。


「え、なにこれ」


 こんなアプリ、入れた覚えがない。


『学校、行こうぜ!』


 頭が痛くなるくらいポップな文字のアイコンが勝手に出来ている。


「まさか、お母さん?」


 私のスマホを勝手に触って入れたのだろうか。そんなの、プライバシーの侵害だ。

 私はのそのそと起き上がる。本当は勢いよく起き上がりたかったのだけど、朝はなんだか力が出ない。


「って、朝でもないか……」


 時計はすでに11時過ぎ。

 分厚いカーテンの隙間からは、お昼っぽい太陽の光が差し込んでいる。眩しくて、不快。


「はぁ」


 ため息を吐いて、もう一度スマホの画面を見る。

 見間違いじゃない。やっぱり、ある。

 私への当てつけか?

 すぐにでも消去してしまおうとして、手を止める。

 お母さんに問いただしてやろう。

 人が寝ている間に勝手に部屋に入って、勝手にスマホを触るなんて親子でも犯罪だ。

 だけど、もうお母さんは家の中にはいないはずだ。この時間は仕事に行っているから。

 だって、今日は平日だ。

 私はと言えば、アプリのタイトルとは真逆。

 学校、行かないぜ。




 ◇ ◇ ◇




「お母さん! 私の部屋、勝手に入ったでしょ」

「え?」


 仕事から帰ってきたお母さんに詰め寄ると、お母さんはなにも知らないといったようにぽかんとしていた。


「え、じゃないよ。私のスマホ勝手に触らなかった?」

「そんなことしてないよ。何かあったの? 早く夕食の準備したいんだけど」

「えー、だって、新しいアプリが勝手に……」

「なにそれ、もしかしてウイルスか何か? 勝手に入ってるなんて危ないんじゃない? それか寝ぼけて変なアプリ入れちゃったとか? 前にもぼんやりしてて、勝手に課金とかしてたでしょ。ほら、スマホ見せて」


 おかしい。お母さんは本当に知らないみたいだ。本気で心配しているように見える。しかも、このままだと話が別の方向に行きそうだ。


「変だな。やっぱり寝ぼけて自分で入れちゃったのかな? 大丈夫、大丈夫。うん!」


 前にカッとなって、勝手に課金してガチャをぶん回した話になりそうだ。あのときにはさすがに怒られた。思い出し怒りなんかされたら面倒だ。

 それに、このタイトル。

 お母さんが私に学校に行って欲しくなって入れたんだと思ってしまった。

 こんなアプリなんかでそんな気になるはずないのに。

 これ以上、藪蛇になるのはごめんだ。そこまではしないと思うけど、スマホ取り上げなんかになったら困る。


「うんうん、なんでもないなんでもない。やっぱり、勘違いだったみたい」

「そう?」


 お母さんはまだ納得していないみたいだけど、早く夕飯の支度をしたいみたいだったのが幸いした。

 お母さんがこっちに背を向けて、私はほっと息を吐いた。

 こんなタイトル見られたら、お母さんがさすがに固まってしまう。

 だって、私、不登校なんだから。

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