第2話 本当にSSR?

 夕飯をお母さんと二人で食べ終わって、私は自分の部屋であのアプリのアイコンを見ていた。

 いつの間にダウンロードしたんだろう。記憶が無い。

 まさか、実は学校に行きたいなんていう無意識の現れ、とでも言うのだろうか。


「うーん」


 正直、自分でもわからない。

 行きたいのか、行きたくないのか。

 だって、あの中学校に私はほとんど通っていない。引っ越してほとんど行かないうちに通わなくなってしまったから。

 お母さんがなにも言わないなら、行く理由も無い。


「あ」


 ぼんやりと考え込んでいたら、指がうっかりアイコンをタップしていた。

 聞いたことのない明るいメロディーとともに、アプリが立ち上がる。


『学校、行こうぜ!』


 のタイトルの後に、更に続けて案内が出た。


『スタートダッシュログインボーナス! 一週間ガチャ無料キャンペーン中!』

「お」


 思わず私は声を上げる。

 こういうの、好きだ。

 ログボ。

 何もしなくても、ログインするだけでいいものが手に入るって最高だ。

 現実でも生きてるだけで何かログボが手に入ればいいのに。そうしたら、少しはワクワクするのに。

 なんて、くだらないことを考える。

 どうやら、このアプリは学校を疑似体験出来るものらしい。


「ふむふむ。やっぱり、スタートダッシュと言えばガチャでしょ」


 アプリの醍醐味、それはガチャ。

 前は勝手に課金して怒られたけど、始めたばかりのアプリならリセマラでガチャし放題。

 最高。

 しかも、スタートダッシュキャンペーンでSSRのキャラが確定で当たる!

 脳汁出る。


「へー、友達ガチャw」


 さすがは学校体験アプリだ。

 もっとすごいガチャを期待していたんだけど、それもなかなかにショボくて新鮮だ。

 確かに学校生活で友達は重要だ。

 なにしろ、友達が出来なくてなんだか学校がつまらなくなって行かなくなったんだから。

 なんて、後ろ向きになるのはやめよう。

 学期の途中で転校して友達を作るなんて、隠キャの私には無理ゲーだ。

 新学期はスタートダッシュキャンペーンみたいなもの。それに乗り遅れた私は、こうなっても仕方がない。


「うし」


 いっちょガチャってみよう。

 チュートリアルは適当に飛ばす。

 ようやく来た、ガチャの画面。

 これだよ、これこれ。

 わくわくする。

 まだ始めたばかりで、しかもよく知らないゲームだからどんなキャラが出るか全然知らないけど。それでも、楽しい。

 ポチッと。

 リセマラならまだやり直しがいくらでもきく。

 現実なんかと違って、ね。

 10連ガチャが始まる。

 しばらくアイテムなんかが出る。

 うん、よくわかんない。

 そして、画面が虹色に光って、カードが現れる。


「よし、SSRきた」


 興奮は絶好調。

 けれど、


「マジか」


 カードに書かれているキャラは地味なメガネっ娘。

 どう見たってSSRになんか見えない。


『よ、よろしくね』


 しかも、声も弱々しい。


「これは、リセマラ、か?」


 私の手はさっさと『学校、行こうぜ!』を閉じて、削除に移ろうとしていた。

 だけど、


「うーん」


 もう一度開いて、私はそのカードの子を見た。

 私と気が合いそうな隠キャな女の子だ。


「強い、のかな?」


 そもそも友達に強いも弱いもあるとは思えないのだが。

 ネットで検索してみても、『学校、行こうぜ!』の攻略サイト自体がみつからなかった。今どき攻略サイトの一つも無いなんて、よっぽどマイナーなゲームらしい。

 一体どうやってダウンロードしたんだか、昨日の私。

 だけど、誰もやっていないからこそ開拓の余地があるってものだ。

 せっかくだから、このキャラのままやってみることにする。


「名前は、真穂まほちゃんかー」


 普通、あまりにも普通。

 SSR感、本当に無い。

 でも、親しみが持てるってのはある。

 そもそも、派手な子って私には近寄りがたい。友達になりたい子という意味では確かに私にとってSSRかもしれない。


「って、私の性格、知ってるわけじゃないよね? このゲーム」


 たまたまに決まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る