第4話 リアルログボってどゆこと?

「ん、えーと。今日のログボは……。はっ!?」


 思わず叫んだ。

 なんとなく、この学校に行きたくて朝ちょっと早く起きるようになっていた。

 スタートダッシュキャンペーンも今日で一週間。

 つまり、今日で終わりだ。

 で、またいつものガチャかと思いきや。


「え? 学校、行こうぜ! リアル版?」


 わけがわからなくて、意味もなく画面の中の言葉を読み上げてしまう。


「いやいや、リアルで学校に行くとSSR友達プレゼントとか意味わかんないでしょ」


 一人で毎日部屋の中にこもっていると独り言も増えるってものだ。

 ああ、誰かと話したい。

 お母さんじゃなくて、別の人とも。

 チャットじゃなくて、リアルで。

 なんだか、唐突に思った。

 このアプリのせいってわけじゃないと思う。

 本当にそんなにすぐに友達が出来ることもないと思う。

 だって、こんなの学校に行かせるための罠だ。

 やっぱり、お母さんが入れたんじゃないのって勘ぐってしまう。

 明日にはやっぱりやめたって、思うかもしれない。

 だけど、だけどさ。

 キッカケって、そういうものだ。


「お母さん!」


 私は勢いよく部屋のドアを開けた。

 お母さんは、私がこの時間に起きていることに驚いたのか勢いに驚いたのか目を丸くして私を見た。




 ◇ ◇ ◇




 なんとか行く決心をしたものの、お母さんにも無理をしなくてもいいと言われ、まずは保健室に行くことになった。

 聞いたことある、そういうの。

 保健室登校とかいうやつだ。

 教室に行かないと学校に行ったことにならないのでは? と思った私だったが、今ではそれでよかったと思っていた。

 なにしろ、足がめちゃくちゃ重い。

 どう考えてもこれ、学校に着かない。

 もう引き返したい。

 久しぶりに着た制服はゴワゴワして着心地が悪い。

 今すぐにでも家に帰って脱ぎ捨てて、だらっとした部屋着に着替えたい。

 でも、今日行かないと二度と行けなくなる気がする。

 なにしろ、ログボがあるかもしれないし!

 いや、これはほとんど信じてないけど……。

 で、学校はお母さんが朝ちゃんと電話しておいてくれたおかげですぐに話が通じた。

 正直拍子抜けするくらいすぐに、私は学校に入ることが出来た。

 あとは、教室に行けるかどうかって話だ。

 それはさすがにハードルが高い。

 もやもやしながら保健室に入った私は、


「SSR!」


 思わず叫んでしまった。

 だって、だって、今日はガチャを回してないのに! 回させてくれなかったのに!

 真穂ちゃんがそこにいた。

 真穂ちゃんも、驚いたような顔で私を見ている。

 これはまさか?


「あ、あの」

「え、ええと」


 私たちはお互いになにを言えばいいのかわからず固まっていた。

 なにしろ、隠キャ同士だ。

 保健の先生は、


「知り合い?」


 なんて言っている。

 だが、だが!

 聞いておかねばならないことがある。


「学校、行こうぜ?」

「スタートダッシュキャンペーン?」

「SSR?」

「友達ガチャ?」

「いつも私を応援してくれてたSSRの真穂ちゃん?」

「そっちこそ、私のこと応援してくれてたSSRの文枝ふみえちゃん?」

「「えーーーーーー!?」」


 私たちの叫びは、学校を揺るがすくらいだったと思う(実際のところは知らない)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る