第十一話 接待プレイからは逃げられない

 伝説の森ダンジョン最深部にて。ボクはアンティゴネーとヤッタルとダンジョン開店直前の最終打ち合わせをしていた。


「先程の事前配信にて得たダンジョンコイン。クッコロお姉様の取り分は132コインですわ」


「予備費としてお預かりしていた6コインと合算すると138コインが手持ちとなります」


 2人から報告を受けながら、ボクは設置物のコストリストとにらめっこしている。



【生成可能なオブジェクト】☆環境適性により一部値引き☆


 ・宝箱:1コインから任意――使用コイン数に応じて中身良質化

 ・簡易罠付宝箱:2コインから任意――使用コイン数に応じて中身良質化

 ・中位罠付宝箱:3コインから任意――使用コイン数に応じて中身良質化

 ・上位罠付宝箱:5コインから任意――使用コイン数に応じて中身良質化


 ・矢の罠:1コインから任意――使用コイン数に応じて威力強化

 ・毒矢の罠:2コインから任意――使用コイン数に応じて威力強化

 ・落とし穴:1コインから任意――使用コイン数に応じて威力強化

 ・警報罠:2コインから任意――使用コイン数に応じて強いモンスターを召喚する


 ・転倒罠:1コインから任意――使用コイン数に応じて威力強化

 ・空腹罠:2コインから任意――使用コイン数に応じて威力強化

 ・睡眠罠:3コインから任意――使用コイン数に応じて威力強化

 ・呪詛罠:4コインから任意――使用コイン数に応じて威力強化


 ・ボッタクルちゃんのダンジョンショップ:1000コイン

 ・ブンドリちゃんの秘密至上主義のお店:1500コイン

 ・ナグルケールちゃんのダンジョンショップ:2000コイン


「ダンジョンショップが欲しいけれど、一番安いボッタクルちゃんのお店でも1000コインもするんだねえ。まだまだ手を出せないなあ」


 ぼやくボクを見てアンティゴネーはニッコリと微笑んで。


「苦悩するクッコロお姉様の横顔も素敵ですわね。頑張れ♡ 頑張れ♡」


 などと煽ってくるので、ヤッタルがその美しい眉目をひそめる。


「ダンジョンコアと言えど、クッコロお姉様に対して不敬ですぞ!」


「あら? よく吠えますわね。躾が必要でしょうか?」


 アンティゴネーが放つ眼光が赤みを帯び、ヤッタルの長い両耳がピクピクと痙攣する。

 雰囲気が悪くなってきたので、ボクはパンパンと両手を叩く。


「2人ともそこまで。ヤッタル! 予備費として50コインを残して、88コインまでの割り振りを任せる! 献策せよ!」


 時には、部下に任せてみせるのも管理職の度量だよね。

 ヤッタルは頬と耳を赤くほんのりと紅潮させながら機嫌を直す。


「ありがたき幸せ! スパチャなるもので、クッコロお姉様の信奉者から集めた浄財。ある程度は信奉者に還元するのはいかがでしょうか?」


「宜しい。50コインまでは宝箱を設置しようか。宝箱の中身と個数は一任するよ」


「承知仕りました! 残る38コインは罠に使用するべきかと愚考いたします。現在、この森は何も罠を仕掛けておりませぬ。あまりに無防備です」


「アメとムチを使い分けるわけだね。ダンジョンのメリハリをつけるは良い献策だよ。宜しい。罠についても一任するよ」


 ヤッタルは早速、控えていたウッドエルフ達にテキパキと指示を始める。張り切ってるねえ。

 ちなみに、召喚したウッドエルフ達は全員女性で、前世のトラウマを思い出してしまったよ。


「さて、1時間後からウォーチューバー達がやってくる。楽しみだね」


 ボクの流し目を受けて、アンティゴネーは優雅な仕草でティーカップに口をつけてから。


「お茶菓子も用意させましょう。最高の演し物に興ずるために」



 ††††††††



 正午から3時間経過。つまり、今は午後3時なのだけれど。

 今のところ大きなトラブルもなく、来てくれたウォーチューバーの皆さんには満足してもらえてるみたい。


 配信サイトには、採取物とドロップアイテムや宝箱の中身を自慢する動画が上がってきていて、ボクも楽しませてもらっているよ。

 残念ながら、まだ妖精の泉にたどり着いたウォーチューバーはいないようだね。


 上機嫌で皆の動画をチェックしていると、警報罠が発動した時のアラーム音が聞こえてきた。この罠はある程度奥に仕掛けたはず。それなりの実力を備えたウォーチューバーが来てるのかな?


 アンティゴネーが右手を軽く振ると、空中投影ディスプレイが起動する。画面には、色違いのフルフェイスヘルメットとボディースーツ姿の6人組――ペンタゴン野伏のぶしが混乱している様子が映し出されている。


 警報罠で召喚されたのは、1匹のハイピクシーだけなんだけどなあ。小さな翅妖精から不意打ちで呪文攻撃を受けただけで、大騒ぎしすぎじゃないかな?


 ハイピクシーは、彼らの醜態をケラケラと嘲笑ってから姿隠しの呪文で逃げてしまった。激昂して見当違いの方向へ走り出す6人組の姿が滑稽すぎて吹き出してしまったのだけれど。

 たまたま遭遇した別パーティーにネチネチと絡み始めて、見て見ぬふりはできなくなってきた。


「クッコロお姉様、あの狼藉者の始末をして参ります。出撃のお許しを賜りたく」


「いやいや、人間を始末されてしまったら困るから! そう逸らないで欲しいな」


 頭を垂れて跪くヤッタルに顔を上げるように命じながらぽんぽんと右肩を叩いてやる。


「良い機会だから、皆には、手加減のをボク自ら教えてあげるよ。ヤッタルはボクについておいで! 他の皆は、手が空いていたら成り行きを見ておいてね!」


 心得たもので、アンティゴネーが転送魔法陣を既に用意してくれている。では、ウマシカさん達をわからせてあげよう。

 ボクは、ヤッタルと一緒に転送魔法陣の中に飛び込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姫騎士からは逃げられない ~脳筋ダンジョンマスターは彼氏ゲットの夢を見るか?~ 石橋凛 @Tialys

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ