いつも通りの私
スマホのアラーム音が聞こえて私は目を覚ます。
夢か。よく出来た夢だった。夢で良かったのかもしれない。
私は制服に着替えてリビングに向かう。
「おはよう。朝ごはんもうすぐ出来るから」
「おはよう」
リビングに行くとキッチンでお母さんが朝ごはんを作っていた。
私は洗面所に向かい顔を洗う。鏡で自分の姿を確認する。何も異常は無い。
鮮明に覚えているけど本当に夢だったんだ。正夢にならなければいいな。
あの石川君も夢だった?あの子が見せた寂しそうな表情も夢?
「夢よ。ただの夢」
夢と言い聞かせて顔をタオルで拭く。
再びリビングに向かい、ソファーに座ってテレビを見ていた。
「出来たわよ」
「はーい」
ソファーから立ち上がり食卓に座る。
スクランブルエッグとサラダとトースト。いつもの朝食だ。
テレビを見ながら朝食を取る。
「そろそろテストでしょ。勉強してるの?」
「大丈夫だって。いつも悪くないじゃん」
「そうだけど。期末テストでしょ。この前の期末テスト悪かったじゃない」
「それはちょっと慢心しただけだから」
「じゃあ今回は慢心しないようにしないとね」
「わかってまーす」
テストまであと1週間に迫った。そろそろ勉強しないと親に怒られる。
この前の期末テストは最低の出来だったから結構言われた。
今回はそんなことが無いようにしないと。
「髪それでいいの?」
「うん。気に入ってるし」
「何か問題?」
「いや。そういうわけじゃないんだけど。無理に髪色染めたんじゃないかって思ってたから」
「気に入ってるなら大丈夫そうね」
「うん。大丈夫だよ」
私は過去に強い精神ショックを受けたせいで小さい頃の記憶が無い。
お母さんからどんな子だったのか話を聞いても何1つ思い出せない。
どんな風に過ごしてきたのか知らないというのは怖くもある。自分がどんな人間なのか分からなくなってしまうから。
精神ショックのせいで10年近く引きこもりだった。外に、出られるようになったのは数年前。
引きこもってばかりの自分を変えるためにイメチェンした。
最初は髪色のせいで浮いていたこともあったけど今ではみんな受け入れてくれて仲の良い友達も出来た。
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「はーい」
私は家を出て学校に向かった。
学校は徒歩で行ける圏内のところを選んだ。家から歩いて10分程度。
近いだけで高校を選ぶなと中学校の先生は言ってたけど近いってのも十分魅力だと思う。
近いところを選んだのは気楽に行けると思ったから。電車で何十分もかかる高校は疲れるだろうなって思ったから。
実際のところ私は気楽に高校に行けてるし休んだこともほぼ無い。近いところを選んで正解だった。
「アオー!」「アオリ!」
「こがっち!みきぽん!」
交差点でこがっちこと古賀明菜とみきぽんこと三条美紀が私を待っていた。
二人とは高校一年生の時から同じクラスで、金髪で浮いていた私と仲良くしてくれた。
その後二人とも私と同じ一緒の髪色にしてくれて「お揃いだね」って言ってくれた。人生で一番嬉しい出来事だった。
「おはよう」
「おはよう!」
私たちは一緒に、学校向かう。その道中で他愛もない話をしながら。
これが私のいつも。数年前にはこんな楽しいいつもが待ってるなんて考えられなかった。
「テストそろそろだけど勉強してるの?特に明菜」
「そうじゃん!やばいよー今回悪い点数取ったらスマホ没収されちゃうよ」
「両親相当怒ってるみたいだね。私も前の期末悪かったから今回は巻き返さないと」
話がテストの話になるとこがっちは頭を抱えた。
私もこがっちほどじゃないけど頭を悩ませる。
みきぽんは頭が良すぎるから余裕って表情をしてる。
「みきぽん!お願い!勉強教えて!」
「私も!お願い!」
「仕方ないなぁ。弱音吐かないならいいよ」
「私、古賀明菜は絶対に弱音を吐かないと誓うであります!」
「私、五十嵐アオリも以下同文であります!」
私とこがっちは手を挙げて選手宣誓のように高々と誓った。
学年順位を2位か1位しか取ったことないみきぽんから毎回勉強を教わっているのだが鬼ペースで進むのでついていけず弱音を毎回吐いている。
テストの成績が良いのはみきぽんのおかげだから鬼でもついていかないとね。
「2人とも嘘は無しだよ」
「わかってます!」
「もちろんです!」
「よし!じゃあ放課後食堂ね」
「了解!」
私たちは元気良く校門を通った。
――――――――――――――
~放課後~
「じゃあ次はー」
「ちょっとタイム……」
「明菜。弱音は吐かないって言ったよね?」
放課後になり私たちは食堂でテスト勉強をしていた。
勉強を始めて30分ほど経った時、こがっちが早速音を上げた。
やっぱり弱音吐いた。
「おかしいな。いつものみきぽんだ」
「何がおかしいのよ」
「この前夢で勉強した時はみきぽん滅茶苦茶優しかったのに」
「十分優しいでしょ」
「現実は甘くなかったみたい」
変な夢を見てるなぁ。夢でも勉強するなんて相当追い込まれてるみたい。
こがっちでも変な夢は見るんだ。ちょっと意外。
「夢か……」
「アオも何か見た?」
「いや別に。大した事じゃないよ」
「えぇー聞かせてよ」
「明菜。無駄話しない」
「ちょっとくらいいいじゃん。少し休憩ってことでさ」
「30分しか経ってないけど」
「ほんの少しだけ。ね?」
「……少しだけよ」
「じゃ、アオ聞かせて」
珍しくみきぽんが折れ小休憩を取ることになった。
私は今日見た夢のことを話した。夢だと分かっていても気になってしまうこと。
石川温人という青年の寂しそうな顔が忘れられないこと。
「運命の人的な?」
「違うよ。ただあの顔が忘れられなくて」
「へぇーそんなに印象に残る顔だったんだ」
「うん」
「イケメン?」
「カッコよかったと思う」
「会ったら話してみなよ」
「会ったらって夢だよ」
「正夢になったらだって」
「やだよ。怪物に襲われるんだよ?」
「それは嫌だね。その子と会うだけ正夢になればいいのにね」
「そんな都合の良いことは起きないよ」
興味深そうに聞くこがっちに釣られてつい話してしまった。
夢なんて非現実的な話、真に受けないよね。集中しないと。
小休憩が終わりみきぽんの鬼演習が再開した。
「今日はこんなところかな」
「ふぅー疲れた」
「家でも復習しなよ」
「えー寝たいよ」
「それじゃ本当にスマホ没収されちゃうよ」
「うーん。仕方ない。頑張るか」
「アオリも復習しときなよ」
「うん。ちゃんとやっておくよ」
みきぽんの鬼演習が終わり私とこがっちは疲れ果てた。
家に帰っても勉強しないと。今回は慢心したらいけない。
「明日。ちゃんとやったか、チェックしようか」
「えーそりゃ無いよみきぽん」
「そうしたら家でやるでしょ」
「そんなことしなくてもやるって。ね?アオ」
「明菜はそこまでしないとやらないと思うけど」
「うん。私も明菜は信じられないから」
「なんだよー二人して」
「みきぽん。それって私も?」
「もちろん。教えるからには徹底的にやるよ」
さすが鬼。塾や学校でもこんな鬼先生はいない。
これだけ厳しいから結果を出せている。こがっちという例外を除いて。
「鬼。閻魔様より厳しいよ」
「明菜がちゃんとしないからでしょ」
「じゃ、ちゃんとやるんだよ」
「わかってるよーバイバイ」
「みきぽんじゃあね」
学校を出て一緒に帰っていた。
交差点の近くでみきぽんと別れた。
「じゃあアオ。バイバイ」
「うん。じゃあね」
「…………」
「?」
こがっちと別れる時少し歩いてからこがっちが止まった。
数秒経ってこちらを向いた。
「夢で会った男の子会えるといいね」
「え、うん」
「バイバイー」
「じゃあねー」
夢であったあの子。また会える時は来るのだろうか。
そんなことを考えながら家に帰った。
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