いつも通りの私②
スマホのアラーム音で目が覚める。いつもよりも目覚めが良い。ベッドから立ち上がり顔を洗いに洗面所へ向かう。
また不思議な体験をした。石川君とも会えた。石川君曰くあそこは狭間という死者しか入れない場所みたいだ。
なぜそんな場所に私は行っているのだろう。考えて分かることでは無いが、とても気になる。
また石川君に会えたら聞いてみようかな。でも、死者の世界にまた行くのは怖い。
せっかく生きたいって思えてるんだ。石川君の言う通り、会わない方がいいのかな。
そんなことを考えながら、顔を洗う。モヤモヤするものが全て洗い流されるみたいだった。
「なんであの子のことが気になるんだろう」
「忘れた方がいいのかな」
ぺちっと頬を軽く叩き、シャキとしろと自己暗示をかける。
朝食を食べに食卓へ向かう。そうだ、お母さんなら何か知ってるかな。
「あのさ……」
「どうしたの?アオリ」
「いや……なんでもない」
彼の名前が喉元まで出かかった、だが口には出せなかった。言ってはいけないという強い脅迫観念が私を襲った。
足元が震えだし、両手で足の震えを必死に止めていた。なんで?なんでこうなるの?
自分でもよく分からず混乱している。
「アオリ大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
「……本当?」
「大丈夫だって」
私は作り笑顔を浮かべてお母さんを安心させようとする。作り笑顔を浮かべている間も足の震えを両手で収めていた。
「そう?無茶しなくていいのよ」
「うん。ありがとう」
足の震えが収まってきて自然に笑顔が出る。急にどうしちゃったんだろう。私の体。
「いただきます」
お母さんが作ってくれた朝ご飯を食べ始める。朝ご飯を食べている間もなぜ急に体が震えだしたのかと考えていた。
私が考えても原因など分かるはずがない。ただ、石川君のことを言い出そうとしたら急に始まった。
私と彼にはどんな関係があったのだろう?増々、気になってしまった。
「ごちそうさまでした」
そんなことを考えている内に食べ終わってしまい、皿をまとめてシンクに運ぶ。洗面所に向かい、鏡に写る自分を見ながら歯を磨いていた。こんな顔で彼に会っていたんだろうか。気の抜けたような顔をしている自分を見て咄嗟にそう思った。
なんだか今になって恥ずかしくなってきた。石川君はどう思ってたのかな?
それを知ることは多分出来ないだろう。出来なくていいことのはずなのに何かモヤモヤする。
自分がどんな感情を抱いているのかが分からなくなってくる。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
支度を整え、家を出る。すっきりしない気分で家を出たのは久しぶりだ。
切り替えなきゃと頬を軽く叩く。目覚めるような痛みに思わず瞬きする。
「アオー!」「アオリ!」
いつもの交差点に向かうとこがっちとみきぽんが待っていた。彼女たちの笑顔を見て私も自然と笑顔になる。
モヤモヤしていたのがスゥーと抜けていくような感じだった。
「おはよ」
「おはよう」
二人も元気そうに笑っている。自然と勇気をもらえる存在だ。
「アオリは復習してきた?」
「あっ……」
そうだった。みきぽんから教えてもらったところ復習してないや。テストも近いのに。
石川君のことで悩んでる場合じゃないよー
現実に戻されるってこういうことを言うんだな。
「うそ。アオリもやってないの?」
「忘れてた……」
「よかったぁー」
こがっちが隣で安心したような声を出す。こがっちもやってないな。
「アオリ”は”」って聞かれたから違和感があった。
こがっちがやってないのは想像通りと言えばそうなんだが、本人に言ったら「やる時はやるんだから」と否定するだろう。
ここでやらなかったらいつやるんだという話にはなるが……
「良くない!」
「ひっ……」
「まさかアオリまで忘れるとはね……」
「本当にうっかり忘れてた」
「テストまでもう1週間も無いんだよ。危機感持たないと」
みきぽんの言う通りだ。返す言葉も無い。
私たちは学校に着くまでの間、みきぽんの説教を延々と聞いていたのだった。
「じゃあ、また放課後食堂ね」
「はい……」
「げっ……」
げっ、はダメでしょ。こがっち……
思ったことを素直に言い過ぎだよ……
「文句言わない!」
「はい!」
二人の様子を見ながら(こがっちのことに関しては他人事では無いのだが)何か微笑ましく感じた。
彼のことは考えなくなり、すっきりした気分で授業に望めそうだ。二人のおかげだ。心の中でお礼を言っておこう。
――――――――――
~放課後~
「分からないよぉ」
みきぽん塾が始まってわずか15分、こがっちが音を上げた。この速さは史上初だ。WRも狙えるのでは無いだろうか。
さすがのみきぽんもため息をついてお手上げといった感じだった。
教えるのも楽じゃないだろう。こがっちみたいなのがいたら。
みきぽんはテストまでの残り期間と私たちの勉強時間を考えて(ほぼこがっちのこと)、通常よりも早いペースで教えていた。そのため、通常でも追いついていなかったこがっちは早々に根を上げた。
「スマホどっか行っちゃうよ」
「それはダメ!」
こがっちがいきなりやる気を出し始めた。扱いやすいなぁ。いいところでもあるけどね。みきぽんの魔法?の一言でこがっちはやる気を取り戻し、みきぽん塾は再開した。
「はぁーもうしんどい」
こがっちが机に頬をつけぐったりとしている。再開してからノンストップで2時間が経った。あのこがっちがスマホのためだけにこんなに頑張れるとは、人の潜在能力はすごいな。
「家に帰ってもこれくらいやりなよ」
「それは……」
「スマホが消えるよ?」
「それはダメ!」
テンプレかのような会話。みきぽんがこがっちの扱い方を覚えてしまったようだ。
私もこがっちに負けず、家でも頑張らなきゃ。
「そういえば、アオ。この前言ってた男の子には会えたの?」
「ん?あぁ、まぁ一応」
「それでそれで!どんなことを話したの!」
急にこがっちが夢の話をしてきた。しかも結構食いついてる。どうしよう、正直に答えた方がいいのかな。
正直に話して心配かけるのも迷惑だろうし……でも、正直に話してみよう。
悩み事の相談が出来る関係なのが親友だと思うから。
私は夢でのことを二人に正直に話した。
「え、それじゃあ寝ながら生死を彷徨ってるってこと?」
「まぁ、そうなるね」
「もう行っちゃだめだよ!」
「私もそうしたいけど寝て起きたら狭間にいるし」
「そっか。行かないことを願うしかないんだね」
「私たちに出来ることは少ないかもしんないけどアオリの相談にはいつでも乗るし、心配になったらいつでも通話してきていいから」
「私たち親友だからね」
「ありがとう」
二人の優しさが身に染みる。私は一人じゃない。私の周りには心強い親友がいる。
そう思うだけで心の不安が晴れていくような気がした。
「その男の子とアオリってどんな関係なの?」
「分かんない。私も気になってる」
「昔からの関係だったらロマンチックだね」
「そんな展開ないよ」
「そう?意外とあると思うけどなぁ」
「はい。そこまで続きやるよ」
「えー」
みきぽんが私たちを制止して勉強するように促してくる。みきぽんはメリハリがちゃんとついているな。
私はみきぽんを見習って勉強を始めた。こがっちもごねていたけど私が素直に勉強を始めたため大人しく勉強し始めたのだった。
勉強漬けの日々は懲り懲りだけど二人と一緒にいれる日が一日でも多いといいな。
――――――――
「じゃあね」
「うん。ばいばい」
私たちは学校を出て帰路についた。みきぽんと別れ、こがっちと一緒に帰っていた。
少し歩いて別れるところまでやってくる。
「じゃあね。1人で悩む必要無いからね」
「うん。ありがとう。ばいばい」
こがっちは優しくそういうと手を振って背中を向けて帰っていった。手を振ったのに合わせて私も手を振り、こがっちが歩き始めてもなお手を振り続けていた。
私は西日が若干照り付ける前を向き、家に向かって歩き始めた。
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