第2話

「いやぁ、やりましたね魔王様!」

「うむ、お主のおかげだ勇者よ」

 僕と魔王様は、ガッツリ握手をしてお互いを称え合う。

 今日は、魔王様の世界征服記念日だ!!

「待てーーーい!!」

 その時、空間に穴が開いてそこから女神が顔を出した。

「あんた何してんのよ!?ちょっと2年位目を離してたらなんでこんなことになってんの?」

「二年も目を離すからだろ!!」

「こっちはアンタが死んだらまた戻す以外の作業したくないのよ!!」

「知るかそんなもん!!っていうか、あれから何度か死んだけど一回も会わなかったな!」

「オートメイションにしといたからね!」

「人の生き死にをオートでやるなよ!」

 口論している僕と女神を交互に見て、魔王様が問いかけて来る。

「おい、あいつがそうなのか?」

「あっ、そうです魔王様!あいつが全ての元凶です!」

「よし、では殺そう」

 間髪入れずに魔王様の闇の魔法が女神に迫る!

「あぶねっ!」

 しかし、謎の穴ごと移動して避ける女神。

「避けるなよ!!」

「避けるに決まってるでしょうよ!!」

 そう言われたらそうか。いやこっちは避けられない死を何度もくらったんだけども。

「っていうか、何がどうなったら魔王が世界征服してあんたと握手してんのよ!?」

「何って、ただ僕が魔王様の参謀になっただけですよ。そうすれば殺されずに済むし」

「アンタ仮にも勇者でしょう!?アタシ言ったわよね!?世界に平和を取り戻すのよ!って!」

「だーかーらー、なるべく無駄な人死にが出ないような作戦を提案したんですよ。魔王様はわりとパワータイプの人でとにかく人間滅ぼすぞって感じだったから、滅ぼすよりも支配して税金とか貢物を収めさせた方が効率的ですよ、とか交易でお互い戦争せずとも欲しいものが手に入りますよ、とか……」

「平和的解決!!」

「うむ、それだ。その平和的なんとかは、今まで我が魔族には無かった考えであった。感銘を受けたぞ。他には血の気の多いモンスターたちを満足させるためにコロシアムを作って武道会を開くことで健全に暴力欲求を解消できるようにしたりなど、様々なアドバイスが実に役に立った」

「いやぁ、魔王様が話の分かる人で本当に助かりました。しかも仕事も早いしリーダーシップでみんなを引っ張ってくれる!なによりマメ!!マメに連絡を取り確認をしてちゃんと仕事をしてくれる!!良い上司ですよ!!」

「おいおい、褒めても何も出ないぞ!!」

 そして僕と魔王様は二人で朗らかに笑い合う。

 最初はマメ過ぎる魔王様を疎ましく思ったものだけど、今となってはそれが頼もしい。

「いや仲良いなアンタら!!いいの?それでいいの?」

「……むしろ何がダメなんですか……?世界は平和になったのに」

「うぐっ……それは、そうなんだけど……本当に大丈夫なの?今本当に平和なの? 戦争とか大量殺戮とかしてないのよね?」

「えーーーと……村はひとつ焼きました」

「焼いてるじゃないの!?平和はどうした!?」

 謎の黒い枠をどんっと叩く女神。それ叩けるんだ。

「いやだって、しょうがないじゃないですか。あの村の人たちは酷い反魔族思想で、どんなに和平を提案しても絶対に魔族は全て殺すって聞かないんですもん」

「だからって殺すことはないでしょう?」

「そうは言いますけど、和平の話し合いに向かわせた使者を捕まえて拷問して見せしめみたいに殺すし、あいつらイデオロギーだけで動いてるから金も物もいらないっていうし、生かしておいたら戦争の種にしかならなかったから仕方ないじゃないですか。それとも女神様は、平和を望んでいる魔族よりも殺戮を望んでる人間を優先して助けるべきだと仰るのですか?」

「そう言われると……そうではないけど……でも、他の手段は無かったの?」

「無いですよ、あいつら仕舞には半魔族協会を立ち上げて、それに共感して魔族差別主義者たちが全世界から集まってきて村全体で魔族殺すべし!とか言ってんですよ?そりゃもう村焼く意外にどうしろっていうんですか……?」

 僕は人間側の勇者としてこの世界に来たけど、だからってどんな時でも人間側の味方をすればいいとは思わないんだよなぁ。

「けど、そんなやり方じゃあ人間サイドの反発を招くでしょ?」

「いや、人間サイドも大半の人たちは、あいつらを迷惑に感じていたのでそれは大した問題にはならなかったですね。皆戦争に疲れてたから和平したかったんですよ。まあ結果的には焼いたので、逆らうと殺されるかも、という恐怖は与えてしまった事で純粋な平和的解決ではなく恐怖政治の一面も出てしまったかもしれませんけど……でもそれって、人間の政治でも同じでしょう?」

「それは――――まあ、そうね……」

「だいたい、ここ二年僕はこの世界を色々見て回りましたけど、人間側もろくなもんじゃなかったですよ。魔王軍との戦いが続いているにもかかわらず、国同士で協力しようともせず勢力争いや資源の独占による金稼ぎ、人種差別に酷い格差の階級社会……そんなんだったら、魔王様が世界を支配して1トップで世界をまとめた方がよっぽどマシだと、そう思いましたよ」

 人間の複雑な社会に対して魔王軍はとても単純だった。

 魔王という圧倒的なトップの元で統率が取れていたからだ。

「そんなのただの独裁国家じゃないのよ!」

「そうですよ?それの何が悪いんですか?独裁だろうとなんだろうと、それによって国民が幸せならそれで良いじゃないですか。そもそも、世襲制の王たちによって統治されてたこの世界が独裁じゃなかったとでも?」

 独裁というと悪いイメージがあるが、実際には独裁国家でも幸せに暮らしている人たちは元の世界でもたくさん居た。

 王が暴走さえしなければ、独裁はひとつの在り方として間違いでは無いのだ。

「それに、少なくとも魔王様の隣には参謀の僕が居ます。魔王様が暴走しそうになったら止めてみせます。2年の間に僕も強くなりましたからね。今ならまあ―――互角くらいじゃないですか?」

「ふはははは、ぬかしよるわ」

 魔王様は楽しげに笑った。

 僕の力は認めてくれているけれど、それでも決して牙を剥いてこないという信頼があるからだろう。

 それにきっと自信があるのだ。本当に戦ったら負けないという絶対的な自信。

 それこそが王にふさわしい。

「互角なら戦いなさいよ!あなたが勝って王様になれば解決する話でしょ?」

 まだ食い下がってくるのかこの女神。面倒臭いな。

「やですよ、そもそも僕は王様の器じゃない。元々無職だった人間ですよ?暇だった時間に見たニュースや本やネット記事で知識を付けた程度の平凡な人間ですよ。それでもこの世界においては有効な知識がいくつかあったというだけです。チートで手に入ったのは戦う力だけなので、王様なんて出来るわけない。それこそその戦う力で世界を支配しろとでも言うんですか?」

「それでもいいわよ!魔族なんかに支配されるよりマシでしょ!?」

「あー……それ言っちゃいます……?ただ魔族だというだけで、個人の資質や本質を見ず否定するなら、女神様……それって、なんていうか知ってます?」

「……な、なによ…」

「それ、差別って言うんですよ」

 女神様の顔が真っ赤になった。図星をさされると人はそうなるのです。女神でもそうなるとは知らなかったけど。

「ち、違うわよ!これは差別じゃない、区別よ!」

「あらららら、それ差別したい人の常套句ですね。もちろん区別が必要な場面はたくさんあります。何でもかんでも平等だとか受け入れるべきとかそんなのは間違ってますよ。でも、差別の正当化の為に持ち出される区別は、僕は嫌いですね」

 みんな本当は解っているのだ。差別が悪い事だって。

 それでも、したくて仕方ないから、自分のやっていることは差別ではないと別の言葉に置き換える。

 不思議ですね、人間は。悪い事だと分かっているのにそれを止められないのだから。

 って、心の中まで魔族の立場でものを考え出している自分が居るな。

「う、うるさいわね!こうなったら……!」

「こうなったら……なんだというのだ?」

 玉座に座っていた魔王様が立ち上がり、女神を威圧する。

「こやつを殺すか?それとも我を殺すか?……出来ぬのだろう?そんなことが出来るのなら、そなたが最初から我に挑めばいいのだからな」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……」

 またしても図星を突かれて先ほどよりさらに顔を真っ赤にしつつ歯ぎしりをする女神。

「う、うるさい!!あんたたちなんて神様が出てきたらひとたまりもないんだからね!!」

「だったら連れてくるがいい、その神とやらを。平和を願いながら自分では手を下さず、勇者のような弱い立場の者に実務は丸投げしてるような神が、本当にこの世界を平和に出来ると思うのならな」

「少なくとも、僕らは僕らで幸せな世界を作り上げてみせますよ。完璧には難しいかもしれないけれど、戦争状態であり続けるよりも人々が幸福で満たされる世の中をね!」

 僕ら二人の言葉に、女神は何か言い帰そうと口をパクパクさせるが……何も思い浮かばなかったのか最終的に

「ばーかばーか!あんたたちなんかにそんな大層なこと出来るわけ無いでしょ!!勝手にしなさいよ!!」

 と捨てセリフを残して去っていった……小者だなぁ……。

 僕と魔王は顔を見合わせて呆れるように笑った後、どちらからともなく手を差し出して力強く握手をした。

「僕らの力で、この世界を完全に支配しましょう。誰もが満足できる世界に!」

「うむ、、その為には尽力を惜しまんぞ……なにせ我は――――マメ、だからのぅ!!うははははは!!」


 そうして始まった僕らの「世界征服」は、そこから3年後に国民の幸福度アンケートで90%以上の国民が幸福だと答えるまでに成熟し始めたのだが――――


 そのタイミングで、魔族による支配で世界が平和で幸福になっては神のメンツが保てない的な理由で攻め込んできた天界との戦争が始まってしまうのは……また、別の話。


「この世界を平和にしたいんじゃなかったのかよ!!全く、声高に平和を叫ぶやつはこれだからな!!!」


 勇者の嘆きが、天を埋め尽くす白い羽の戦士たちに届いたのかどうかは、定かではない―――――。


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魔王がマメ過ぎる!! 猫寝 @byousin

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