魔王がマメ過ぎる!!
猫寝
第1話
異世界転生ってのは、現実が不幸だった人間に与えられたご褒美みたいなもんだと思っている。
だってそうだろう?
もう三十歳もとっくに超えているのに、彼女どころか友達もいない、仕事もない、ただ無駄に酸素と食料を消費するだけのクソみたいな人生が、トラックに轢かれて終わりじゃあ、何のために生きてたんだよ、って話だ。
だから、この異世界に勇者として転生した時には、それはそれは小躍りしたもんよ!
しかも、最初からすげぇ強い!!俺TUEEE!!だっけ?そういうアレだ!!
その力で軽くモンスターを倒そうもんなら、可愛い村娘が「勇者様素敵ー!」なんて言って抱き着いてきて、そりゃもう心臓の音が16連射より速くなって全身が真っ赤になるくらい体温が上昇するっていう童貞らしい反応を見せたりしたもんです。
こりゃあもう転生人生はバラ色ですわーー!!
………と、思っていたのに――――
「ど、どちら様ですか?」
僕は、目の前に雷鳴と共に突然現れた、自分の3倍はあろうかという巨躯を持つただならぬオーラをまとった大きな怪物に話しかける。
「貴様が勇者か……我は―――魔王である」
―――――なんでいきなり魔王出てくんの!?
まだ最初の町から6歩しか歩いてないんですけど!!エンカウントぶっこわれてんのか!!
「さっそくだが、死ね」
「いや、ちょっ……待って…」
そんな間の抜けた言葉を最後に、僕の勇者生活は終わりをつけだ。
空は雲一つない晴天で、今後への希望を感じさせるような大きな太陽がまぶしい、転生から二日目の昼の出来事だった―――――。
「いや死んだんですけど!?」
死んだ人間が自分が死んだことを声に出して訴えるのも不思議な話だが、真っ黒い空間に浮かんだ女神と話してる時点でもう常識なんてどこへやらだ。
「いやぁビックリしたわよね。フィギュアのスカートの中を覗きたいなぁと思ってちょっと目を離したら、もう死んでんだもん。笑った笑った」
「どこにツッコむべきか迷うセリフだな!」
とりあえず笑ってる場合か。
フィギュアのパンツに関しては、まあ……許す!あるよね、見たくなることも!
真っ暗い空間の一角に、うっすらと和室みたいなのが見えるので、普段はあそこに居るのだろう、そしてそこに美少女フィギュアがあるのだろう。
「それより、なんでいきなり魔王が出てくるんですか?そんなの聞いたことあります?」
「ん?あー、あの世界の魔王くんは凄いマメなのよねー。常に神経を尖らせて世界中を監視して、勇者になりそうなものが生まれたり、育ったり、転生してきたりすると、すぐ見つけて自分から殺しに行くの」
「威厳どこに置いてきた!魔王の威厳!!でーんと椅子に座って勇者を待てい!!」
「そうやって待ってた結果、長い時間をかけて少しずつ確実に成長した勇者によって倒されるのが魔王の負けパターンじゃない?普通に考えたら、まだ弱いうちに自分で倒しちゃった方が確実だと思うけど?」
「いやまあ……そりゃそうですけど」
「あんたも考えたことあるでしょ?RPGとかで、最初の町の周りは弱い敵ばっかりで、こっちの成長に合わせるみたいに敵が強くなってくの、だいぶ都合良いなーって」
「………そんな元も子も無いこと言います…?」
その通りなんですけども。
「そういう意味では、合理主義なのよね、あの世界の魔王くんは。一番確実で一番早い方法を選んでるんだから」
RPGやファンタジーのお約束をガンガン理屈でぶち壊していくこの女の人が、どうやら転生を司る女神なのだそうだ。
まあ金髪に白い服で羽生えてて浮かんでるので、女神に間違いないだろう。ベタな外見だが、実際そうなのだから仕方ない。
それはともかく……
「あの、理屈はわかったので、あそことは別の世界に転生させてもらえません?」
さすがに、いきなり魔王はやってられない。
「あ、無理無理、他はもう埋まってるから。優良物件はすぐ埋まっちゃうんだよねー」
「不動産屋かよ」
「まあ似たようなもんだよ。みんな嫌がるんだよねあの世界」
そりゃまあそうでしょうね!
「そこを何とか僕も違う世界に……」
「うるさいなぁ。30過ぎての転生なのに、世界選べる立場か!」
再就職とかの時に凄い言われそうなセリフ!!!若さか!!ここでも若さが求められるのか!!いやまあ……そりゃそうだろうけども!!
こういうのってメインは十代ですもんね!
「じゃ、そういうことなんで、二回目いってらっしゃーい。世界に平和を取り戻すのよ!」
「え?いや、ちょっ……待って…」
何の準備も整わないまま、僕は再び転生した――――
・二回目
「ふふふふ、流石だな勇者。一度その身を滅ぼしてやったというのに、また蘇るとは……それでこそ勇者である」
また同じ世界に降り立った自分の目の前に、すぐ魔王が来た。二時間で来た。早いな。
「しかし、勇者の力を持っているものを生かしておくわけにはいかぬ……なんどでも滅ぼしてくれるわ!!」
挨拶もそこそこに、魔王は殺意を剥き出しにしてナイフのような爪を向けてきた。
「―――――いきなりか、でも……やったろうじゃん!!」
さすがにこちらも、何回も黙って殺されてはたまらない。!
とりあえず一回、全力で戦う!!!
こちとら俺TUEEEEみたいなアレだぞ!!
やればできる!たぶん!
これが僕の、100%だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!
「負けたやん」
エセ関西弁が出るくらいそれはもう完全に負けた。
「そりゃまあね。いくら俺TUEEEE的転生だとしても、初期状態で魔王倒せるほどにはパワーバランス壊れてないよあの世界は」
再びの女神。口の端にチョコがついてる。
と言うか、なんなら左手にチョコ持ってる。
美味しそうですね!
「倒せないって……じゃあ、どうすりゃいいんですか?」
「そんなん知らんよ。そっちで考えてよ、良い大人なんだから」
ぐぬ……そう言われりゃあそうだけど、そんな判断力と決断力があったら30過ぎまで無職やってねぇぞ、という謎の自負もある。
いや、全く自慢できないが。
「じゃあはい、もっかい行ってらっしゃい。世界に平和を取り戻すのよ!」
「まてまて、早い早い!さっき死んだばっかりなのにそん――――」
抗議は最後まで言えずに途切れた。
ってか、なんだよ「世界に平和を取り戻すのよ!」って決めセリフ!シンプル過ぎるだろ!!
・三回目
「いや、三回目ーーー!!!」
すぐ魔王が来たけど、怒ってる。そりゃそうだ。
「なんなの!?昨日倒したばっかなのに、なんで戻ってくるの!?」
なんかこう、アンガールズ田中さんが「やーまーねー!」って言ってる時みたいな動きでジタバタ手足を動かしながら怒ってる魔王。
手足が長いからなんか雰囲気似てるな。
ってか、昨日の今日なのか。申し訳ないなそれは。
「あの、一つ提案なのですが、よろしいでしょうか?」
大人の交渉術を試してみる。
「なんだよ!」
めっちゃキレてますやん……威厳威厳、魔王の威厳。
「実はですね、僕も望んで勇者やってるわけではないのです」
「は?なにそれ?」
「いや、だからですね、僕も…」
「こっちは必死なんですけどー!!魔王として、部下たちに充実した生活を与えるために、必死で勇者倒したりどっかの国滅ぼしたりしてるんですけどー!なのにそっちは本気じゃないんですかー!?ふざけんな!!」
あ、ダメだこれ。冷静さを失ってる。交渉なんて出来るわけない。
こうなったら、これしかないな……。
「じゃあ、とりあえず今回は殺してください」
「なんだと…?」
「その代わり、次に会うときは、冷静に話しを聞いてください。おそらくこのままでは、永遠に同じことの繰り返しですよ。それは僕にとってもあなたにとっても、望む展開ではないハズです」
「貴様、どういうつもりだ……何を企んでいる…?」
おっと、僕の言うことがあまりにも予想外だったので、少し冷静さを取り戻したようだ。
「話、聞いて貰えますか……?」
「よし、その女神ぶっ殺そう!」
「ま、魔王様ーー!!」
わかってくれたのですね、全ての元凶があの女神だとわかってくれたのですね!!
「……で、その女神のいる場所にはどうやったら行けるのだ?」
「え?それはその――――……死んだら……ですかね?」
「ダメじゃん」
「ダメですね……」
「他に方法は無いのか?」
「いや……僕も自分の意思で行ったり来たりしてるわけじゃなくて、向こうに勝手にやられてるのでなんとも……」
「そうか……」
二人して、最初の街を出てすぐの道端に座り込んで思考を巡らせる。
どうすればこの不毛なループから抜け出せるのか……。
「――――あっ、そうだ。魔王様、こういうのどうですか……?」
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