第3話 魔法試験
「それでは次はルイ・フォルディエン!」
担当教師がルイの名前を呼ぶと、ルイはすっと立ち上がり魔法試験の的を見つめた。
「雷よ、矢となり的を射れ」
瞬間、パチパチッと音が鳴り、それは矢の形へと変化するとまっすぐに的へと放たれた。
クラスメイトたちからおぉ~と小さな歓声が上がる。
ルイは表情を崩さぬまま腰を下ろした。
さすがこの国の第二王子、魔法の中でも難しいとされる雷の魔法をさも簡単に操っている。
しかし物語の主人公、ユリア・アントワリーネはさらに高レベルとされる光魔法を操るらしい。
ユリアの名前が呼ばれ、その可愛らしい少女は立ち上がる。
「光よ、かの的を撃ちたまえ」
それはどこからか集まり、眩い光を放ちながら、まるでスローモーションかのようにも見えたが、一瞬で的の中心を消し去ってしまった。
これが魔法成績主席の力・・・。
つかの間の静寂のあと、先ほどより大きな歓声に場は包まれる。
魔法はどれだけ個人が所有している魔力に意味を持たせられるかでその大きさが変わる。意味、とはイメージや想像、想い、、これは実ははっきりとはわかっていないらしい。
ただ、読書をしながら片手間で空いたバケツに「水を満たせ」と唱えるのと、ものすごく喉が渇いたときにコップに「水を満たせ」と唱えるのでは、その水量や速さも変わってくる、ということらしい。
そもそも個人が所有している魔力量というのは、せいぜい風呂桶を満たし、それを人肌より少し高い温度に温めることができる程度なのだ。
「リエリン・アルフォルグ」
教師の言葉で我にかえる。
はい、と返事をし、15mほど離れた的を見つめる。
的、それを射る強い、強い矢ー
「鋭い矢よ、的を射ろ!」
ふわっと目の前に矢が浮かび上がる。
それは前世でもせいぜい漫画ぐらいでしかお目にかかったことのない、弓道の矢のようであった。
しかしその先端は炎で燃えていた。
カーーーーンッ
という小気味のいい音が鳴り響くと、一瞬の静寂の後、
小さくボッと音を立て、的は一瞬のうちに黒い炭へと姿を変え、灰になり、パラパラと風に吹かれている。
厚さ30㎝はあったであろう的が、一瞬のうちに姿を消した。
「え、えーと、、」
おそらく一番混乱していたのは、見るからに動揺していたこれまで幾人もの魔法試験を受け持ってきた教師でもなければ、どう反応したらいいかわからずぽかんとしたクラスメイト達でもなく、私自身だった。
誰かが「す、すげえ!」という声を上げるとつられて歓声が上がる。
そりゃそうだろう。
私はもちろん昔からある程度魔法が使えたものの、例えば魔法試験で出される魔法耐性の付与された的を跡形もなく消し去るほど優秀ではない。
そうであれば、ユリアを抜かし魔法成績主席としてこの学園に入学していただろうから。
しかし、それは前世の記憶が蘇るまでのことだ。
私自身、この突然身体に湧いて出るような魔力を、まだうまく使いこなせていないのだ。
授業終了を告げるチャイムが鳴ると、それぞれ教室へ戻り、後日成績結果が貼り出されると説明を受けた。
今日は入学して最初の授業ということもあり、いわゆる実力テストのようなもので、座学試験、魔法試験のみ行い帰寮となる。
さて、帰ろうかと席を立ちあがると見慣れた姿がこちらに近づいてくる。
「あのっ、私、ユリア・アントワリーネっていうの!よろしくね!アルフォルグ・・・さん」
「・・・よろしくね、アントワリーネさん」
思わぬ主人公からの接触で、きっとつくった笑顔がは引きつっていることだろう。
「あの私、魔法開発師を目指してて・・・一応魔法成績だけは、主席合格してて・・・えっと・・・それで・・・」
ええ、もちろん知っていますとも。何なら好きな食べ物、家族構成、得意な魔法に苦手なものまで。
「あの、さっきの魔法試験でアルフォルグさんが使った魔法、よかったら詳しく教えてくれないかな!?」
・・・え?
漫画にそんな展開あったか?
いや、そもそも漫画では私アルフォルグは的を水で濡らす程度の魔法しか使っていなかった。
そうだ、だから展開が変わったのか・・・?
しかし主人公との接触はできるだけ避けたいところだ。
なぜなら彼女は私が悪役令嬢となってしまう原因そのものなのだから。
正統派ヒロインを目指します! サーモン青木 @rrre-0
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