神様が目を瞑る夜

 夕焼けの残滓も消えかかった住宅地。

 イヤホンで電話をしながら歩いていると思しき男性の影。


 ――まぁ、そうならそれは、いったん俺の方で調べてみるんで。

 ――ところで例の件、調査は進んだんすか? ウキシマは関係が無いんでしょうけど。

 ――スグリもカネハチもロジカルシンクも会社自体は関係無い? ……よかった。

 ――それ、なんかのカタチで、早めにアイツらに伝えてやってくれないかな?

 ――気にしてるだろうし。

 ――それから、……いや、待った。明日、こっちからかけ直します。いったん切るぜ?


 目的地である自身のアパートの前。

 帽子を目深に被り、ジャンパーのポケットに手を突っ込んで。短めのスカートの女性が立っているのを見つけたガイトは、スマホとイヤホンを無造作にポケットへと突っ込む。


「……こんなところで何してる、エリーナ」

「またね、って言ったもん。――もう使ってないかも、と思ったけど、ダメもと・・・・できてみた。ニオイが新しかったから、帰ってくるかも。と思って待ってた」


 帽子を取ると、ほの暗い中でも薄茶色の髪と、青みがかった瞳が映える白い顔。

 

「俺には近づくなといったはずだ。……連れてきたときに認知障害をかけたはずなのに、どうやってここを特定した?」

「それで具体的な場所がわかんなかったんだね。でもここまできたら、うっすらガイトさんのニオイが残っていたのでハッキリ思い出した。まだ使ってるんだな、って」


「はぁ。……いいか? 一応言っておくが、男の部屋にお前が自分から訪ねてきたんだぞ? わかってんのか?」

「もちろん。ここまで来てなにも無し。コーヒーだけ飲まされてタクシー呼ばれるとか。そんなんだったらさ。……いくら私だって、今日は本気で傷ついちゃうから」


「そう言う言い方をするな。……俺が期待しちゃったらどうすんだよ」


「そこはむしろ私の方が……って。えーと、期待って言ったらちょっとアレだけど、もちろん覚悟はしてきたし、それなりに用意もしてきた。だから、うん、私が期待してきた。って言っちゃう……。お手入れだって、その、してきたんだから。……それに、今夜一晩だけ。みたいなことになっても、それはなにも文句言わない。約束する」


「お前なぁ、……都合良すぎてかえって疑わしいわ。――それに、前にも言ったけどバレたら俺が捕まって……」

「私の現住所だと淫行条例は年齢制限だけだった。……とは言え、ここがどうなってるか、高校生がアウトになるか? なんて知らないけど」


「それはそれ、話はあとだ。いずれ立ち話で突っ立って時間を浪費する、なんてのが一番バカらしい。それこそコーヒーくらいいれてやる。先ずは入れ」

 


 1Kのアパート、そのドアが二人分の影を飲み込んで。閉まる。

 それを見ぬフリをするかのように、そらの月に雲がかかった。

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神喰らいの男 ~インチキ拝み屋、お供はJK!? 現代日本で鬼退治!!~ 弐逸 玖 @kyu_niitu

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