終結
「全員、その場から動くな!」
ガイト達が入って来た“正規の入り口”から初老の男を先頭に数人の人影。
先頭の男は掲げた右手に身分証のようなものを掲げている。
そしてそれはうずくまっていた栄真も見た。
「……!? どういう、ことだ」
「外部の人間が入ってくる、だと?」
「旦那、まだ結界が残ってるって……」
「そこの三人。銃刀法違反の現行犯だ! 19時27分、緊急逮捕! ……確保しろっ!」
右手を下ろしながら身分証を、――パタン、と閉めると同時。
初老の男の後ろに居た全員が、一気に屋上に散らばる。
初老の男はそのまま真っ直ぐ栄真の元へ。
「あのガキの右手のは、……良いのか」
「スティンガー、なぁ。危ねぇのは確かだが、アレは少なくとも銃刀法には抵触しねぇンだわ。それに、あんな華奢な女の子が持ってたって、凶器にならんだろ? ……よしんば凶器だったとしても、だ」
――さぁ、立て!
作務衣の二人は無抵抗で手錠を受け、そのまま階段室へと連れられていく。
「お前さんがグロックを持ってた事実が無くなるとでも? ――連れてけ」
「は! ……さぁ、自分で立って歩け!」
「うっ、ぐぅっ、俺は、あのガキに、腹を突かれた、んだぞ……」
「もちろん話は聞くが、今のあんたには関係がねぇ、っつてんだよ。――時間がない。行け」
栄真もまた、手錠を填められ。そのまま階段室のスチールのドアへと消える。
「サカキさん、現場に出てくるなんて珍しいな」
「こんなおっかねぇ現場に出るつもりなんか、ハナから無かったっつーんだよ!」
サカキと呼ばれた男性は、ポケットに手を突っ込みつつガイトに振り向く。
「ガイトさん、警察にも知り合いが居たの……?」
「あぁ、この人は警察じゃないぞ。オオヌサさんの上司だ」
「じゃあ、あの人達は……」
「警察署ではないところに連れて行かれる、それは間違いがない」
「オオヌサ君の上司だぁ? こっちはとっくに役職定年だっつーの、元上司だよ」
「今も名刺は部長じゃないすか」
「肩書きは部長だが部下はいねぇ、なんなら系統上はオオヌサ君の部下だ」
「……定年。オカルト関連は、歳を取るごとにどんどん強くなる感じなんじゃ」
「こう言うお仕事でも役職定年とか、あるんですのね……」
「オオヌサ氏、名前しか知らんが、どれだけスゴい人なのだ?」
――屋上だから良いよな?
そう言いながらサカキが胸ポケットをまさぐって、タバコを取り出し火をつける。
「しかし、サカキさんが自分で出張ってくるたぁねぇ」
「ふぅ――。オオヌサ君もガイトも、お前らからは年寄りに対する経緯ってものを感じねぇ、っつーんだよ。……今日に関しては、オオヌサ君が自分で来るつもりだったらしいが。ついさっき、急ぎで一件入ってな。アイツは今夜徹夜だろうぜ、ざまぁみろだ!」
「どのみちついてねぇな。――しかし、オオヌサさんが自分で? ここに?」
「こいつぁお前が考えてるより、デカいヤマだってこった、ここ暫くで一番闇も深けぇしな。……カセドラルやソサエティもこっちの一挙手一投足を注視してる。それになにより財界がガッチリ絡んでやがる。誰も行かずに終わり。なんてわけねぇだろ。だから休みだってのに俺が呼び出された、ってぇわけだ。――エマっ!」
「はい!」
ナメクジを意に介さず、無造作に投げ捨てながら薙刀を見分していたスーツの女性。
彼女がその場で立ち上がり、気をつけの姿勢になる。
「黒い方のミニバンでお嬢さん方全員を自宅まで送ってくれ、住所は端末に入ってるな? 俺はガイトの使ってたクルマで帰る」
「かしこまりました」
彼女はそう返事をした次の瞬間にはもう、万弓を横抱きにかかえてエリーナの隣に居た。
「お話は聞いてます。みなさん、よく頑張りましたね。もう怖いことは無いですよ? ……ご自宅までお送りします、私についてきて下さい」
女性は、万弓を抱きかかえたままスチール製のドアに向かって歩き。
四人も背後のガイトを気にしながら彼女に続く。
「おい、エマ!」
「なんでしょう、ガイトさん」
「相変わらず感情ってのがないな、お前は。……その抱えてる子、約三寸の神の印を“身体の中心に持ってる。意味はわかるな? 早急に処置をして欲しいんだ、できれば女性に」
「了解です。すぐに処置を行います」
――神の印、って……
突然ガイトの隣にエリーナが現れる。
「三寸って、9cmくらいでしょ?」
「神様がへそを曲げる可能性があるから、そう言う意味では処女のままだと思うぞ?」
「そう言う問題ではなくない? その、
「そんなことより、だ。――あんまりオカルトに寄るな、ってついさっきいったのに、歩法かよ」
「階段降りたら、もう使えないでしょ? 今ので最後。……えーと、その。もう、ガイトさんとは、会えない?」
「俺に会う、ってことはオカルトに近づくってことだ。これで最後、ってことになるな」
「でも、まだ御礼もちゃんと……」
「ここまで見ててわかったと思うが。俺の仕事は現場で直接礼を言われるような、そう言う性質ではないからな、お前が気に病むことはない。――エマが困ってる、もう行け」
「あの、じゃあ。……バイバイ。またね、ガイトさん」
そう言うとエリーナは、今度は小走りで仲間の元へと戻る。
「あぁ、オカルトには近づくなよ? ……元気でな」
スーツ姿の女性に率いられたセーラー服を着た少女の一団が、入り口に吸い込まれ。消えた。
「相変わらずもてるじゃねぇか」
「ガキにもててもな。……それに今回についてはあからさまな吊り橋効果だろ」
「そっちじゃねぇよ。……またやりやがったな? お前のように詳細にはわからんが、新しい色が増えてんぞ。また神を取り込みやがったのかよ」
「見えてんのかよ、そっちの方が怖ぇよ。……それに俺が拝む八百万の神に野良の神様が一柱増えただけ、向こうさんもその辺は納得してんだから、それで良いンだろ?」
「ドンだけ加護を増やすつもりだ。伯爵が言うGodEater、意外とそのままなのかもな」
「無償じゃないんだぜ? こっちは面倒をみる神様が増えて、てんてこ舞いだっての」
「神喰らいの男、まさか現在の本邦に、こんなろくでもないヤツが居るとはな」
「全部たまたまだ、――行こうぜ? 送ってくれるんだろ?」
「俺に運転させる気か? 全く敬老精神が足りねぇよ、お前らはよ!」
ガイト達が扉をくぐり、スチールのドアが閉まると。
あとには水を張った水田と、そこに静かに映る月だけが残された。
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