二丁青葉の没落

 二千花の声を聞いた作務衣の二人は、構えて居た薙刀の切っ先を下げ、さらに一歩引く。


「何らかのアクション、と言われてもな……。つまりは俺達を見た二千花さんの裁量一つで、青葉執行役員の派閥全員のクビが飛ぶ、と……?」

「二丁の旦那、さすがにこれはマズいです。旦那の下にいる人数と言えば、知ってる範囲だけでも一〇〇人ははるかに超えるんですよ!?」


 あきらかに動揺する二人に、青葉栄真は少々腹を立てた様子で声をかける。

 

「役員ならともかくも、簡単に一般社員をクビになどできるものかよ。――いずれ、この場で殺してしまえばクビの心配など無くなる」


 いかにも雑な彼の言に、今まで従順だった作務衣の二人が抗議の声を上げる。


「物産本社からの、移動や出向の命令にはさすがに逆らえないですよ?」

「青葉小路本家から睨まれたとあっては、グループ全体を敵に回すようなものだ」


 ――カラーン、カラカラ。

 作務衣の二人は、薙刀を手放すとさらに一歩下がる。


「あんた達はその状況を打破せんが為に、ツキタマサマを呼び出す話に乗ったんだろうがっ! 何を今さら……」

「そう言いますがね? だいたい総本家が直接、ここに乗り込んできて。しかも自分でツキタマサマの降臨を潰す。なんてのは想定外でしょ。あからさまに」

「二丁の家とその取り巻きの我らはここまで、と言うことなのでは? 我々の自業自得ならばそれはどうなろうと納得もするが、部下までを巻き込んで迷惑をかけるわけには……」


 ――だからこそ!

 栄真は懐から拳銃を取り出して、そのまま銃口を二千花に向ける。


「ここで二千花アイツを間違いなく殺さねばならんのだ!」


 既に右手のシグザウエルが栄真の旨を照準していたガイトだったが、引き金に力を込めるその瞬間に、影が滑り込んできたのをみて銃を引く。

「……和沙かずさ、だと? なんだ、あの疾さ」

 同じく気が付いた栄真が銃を向けて振り払おうとするが、むしろするすると間合いを詰め一気に肉薄する。


「足裁き一つでここまで変わるか……」

 確かに足裁きをやり直せ、と言ったのはガイトなのだが。

 エリーナや千弦の動きを見て、歩法の動きまで加わっている。


「合気に歩法が加わったら。これはもう、護身術じゃなくて殺人術だろ……。見稽古なんて言葉は聞くが、まさか本当にやるヤツが居るとは」 

 彼女もまたツキタマサマの巫女の一人。

 かすかに残った彼女等の残滓でガイトを絶句させるような、人知を越える動きを見せていた。



「人を殺して良いのは、殺される覚悟のある者のみ……! あなたにその覚悟はない!」 

「ガキが、聞いた風な口を……」

「そしてヤルときは、殺す気で……! ――破っ」


 栄真の正面で姿を消すように姿勢を低くした和沙は、教科書通りの正拳突きを繰り出す。


「一体、……お前ら、は」


 拳銃を取り落として、突かれた腹を抱え膝から崩れ落ちるスーツの男。

 その手前でゆっくりと姿勢を高くする少女が。ガイトをふり返って拳をあげてみせる。

 そのあげた右手にはスティンガーが握られていた。


「ヤルじゃん、和沙!」

「……性格が歪んだら、俺のせいかもしれんな」  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る