第8話 鬼となりて旅立つ

「ヒィィィィィィィィィ!!」


「お、鬼ィィィィッィ!!」


マゴハチとトメが振り返った俺の顔を見るなり、恐怖で顔色を変えて絶叫した。

鬼?

一体どういうことだと、首を傾げる俺。

二人の反応は尋常なものではない。

周りを見渡してみたが、俺の他にそれらしき者はいない。

では俺に何かあったのかと刀身に自分の顔を映してみた。


すると、二人が恐怖した理由がわかった。

額に二本の角が生え、瞳の白目の部分が黒く染まっていたのだ。

歯も鋭くとがり、特に犬歯は牙のような形になっている。

確かにこれは天ツ国で古くから恐れられる伝説の異形「鬼」の姿そのものだ。

なぜこのような面相になったのかと驚く俺だったが、ふとこの世界へと渡ってくる前に聞いたあの意思のような声が思いだされた。



この刻印ある限り、逃げきることは叶わぬと知れ……



時渡りの最後に聞こえた、恐らくは魔神王の声。

刻印という意味が先ほどまで理解できなかったが、この異形の姿が刻印なのだろうか。

あのモズグルはこの時代では現れるはずがない魔神。

それが突然現われ、それを倒した俺は異形の姿へと変わった。

あまりにも異常な状況に対し、情報がまったく不足している。

何を判断するにしても分からないことだらけだが、一つだけはっきりしていることがあった。

可能なかぎり早く俺が目の前の二人から離れることだ。

俺に魔神王のいう「刻印」が施されているかどうかはまだわからない。

しかしその可能性がある以上、俺がこのまま近くにいてはまた別の魔神がいつ現れてもおかしくない状況だ。


「驚かせてすまなかった。このまま立ち去る故、心配しないでほしい」


「「……」」


「世話になった」


礼を述べたせいだろうか、沈黙したままではあるが二人の表情から少しだけ恐怖の色が和らいだように見えた。

本当はこのあたり道などいろいろ尋ねたいことがあるが、彼らの気持ちを考えればそれは無茶というものだ。

俺は踵を返し、この場から離れることにした。

さてどこに向かうべきだろうか。

とりあえず火陸国の彪雅村には行きたい。

俺とキッカの生まれ故郷だ。

魔神によって滅ぼされてしまった村ではあるが、今ならまだ無事のはずだし何よりキッカを一目見ておきたい。

まだ三つになったぐらいだろうが、やはり彼女が無事にいることを確認したいのだ。

俺がイクサビトになった理由は、彼女を守りたい、ただそれだけだったのだから。

あの時代では叶わぬ願いとなってしまったが、この時代こそはこの願いを叶えたいのだ。


「あ、あの……!」


後ろからトメが声をかけてきた。

振り返ると彼女が立ち上がり俺に頭を下げお辞儀をしている姿があった。

「た、助けてくれてありがとう……!」

民の感謝の声を聞くのは久しぶりだ。

魔神王に追い詰められていた頃はもはや皆絶望しきっていて、どんなに救っても民から反応がないことがザラだった。

忘れかけていた感謝の言葉を聞くと、胸に熱い重いがこみあげてくる。

俺は手を上げてそれに答えた。


「ああ……。達者でな!」


ロクに知識のない時代の天ツ国に放り出され、仲間であるイクサビトも今はいない。

厳しい状況であることに変わりはないが、少なくともあの時代のような絶望はこの世界にまだない。

平和な時代に現れるはずのない魔神の出現にイクサビトの力を使用した俺に表れた変化。

このような謎に満ちた状況で、果たして俺に何ができるのか全く分からない。

しかしキッカは自分を犠牲にしてまで俺を、俺たちをこの時代に送ってくれた。

であれば願いに応えるしかあるまい。

俺は決意を固めて過去の天ツ国を歩み出した。

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破滅からの再スタート 幼馴染を救うため過去へと転生する 人を捨て鬼をなろうと俺は魔を斬る 曲威綱重 @magaitsunashige

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