第2話 打ち上げ

 「学園祭!」


 カルロが果実水が並々注がれたコップを掲げる。私も同じように果実水が入ったコップを掲げ、


 「おっつー!」

 「おつかれ~!」


 ガチンとコップをぶつけあった。そして二人で果実水を一気にあおる。


 「うんめぇ~!!」

 「あ゛~、生き返る~」


 広げたピクニックシートの上に寝転べば、黒より青い、だけど青より黒い、そんな色の夜空が視界いっぱいに広がる。砂粒のように夜空にこぼれた星がきれいで、見てるだけで疲れた体が癒されていく。

 てか後夜祭の音楽うるせ~! カルロと思う存分はしゃぎたいから結構学園から離れたところにいるのに、ドンドコシャンシャンうるせぇ~!! 雰囲気台無しじゃん! まじちょっとは考えろし!


 「ねぇ~、音楽うるさくない? こっちも負けないぐらいばか騒ぎしようよ」

 「シャルル、花火やろうぜ」

 「私の話聞いてた? 全然聞いてないよね?」


 たしかにそれはばか騒ぎだけれども。私の問いにカルロは答えず、持ってきたバックからぼろぼろと花火を出してきた。


 「爆竹も持ってきた!」


 それ、学園祭でフリアクラブが売ってたやつでは? たしか音が色んな楽器の音に鳴るとかだったような……。なにそれ、めっちゃ面白そうじゃん!


 「おっ、いいねぇ。私マッチ持ってるよ」


 クラスの出し物が綿菓子だったので、ちょうど制服のポケットに入れていた。勢いよく起き上がった私はポケットを漁り、マッチ箱を取り出す。


 「炎魔法でよくね? さすがにそれぐらいは使えるだろ」

 「そこらへんの木が燃えてもいいなら魔法にするけど」


 明かり代わりに火を灯すようにはなれたけど、花火や爆竹の導火線へ火をつけるような丁寧な魔法は使えない。それに手のひらに乗った火の上で着火されるなんて、たまったもんじゃない。火花とか音にびっくりして、魔法が絶対に暴発するのは私だってわかる。


 「マッチ最高! マッチ最強!」


 どうやら渾身の脅しは通じたようだ。カルロは私から受け取ったマッチを天高く掲げてそう言う。最高ってなんだよ、最強ってなんの中で一番強いんだし。


 「んで~、どれから始める?」


 カルロが放り投げた花火と爆竹を広い集めて、花火と爆竹の山に分ける。一つ一つ丁寧に並べると、二つは同じぐらいの数があった――ではなく、花火のほうが圧倒的に多かった。たぶん最初は花火だけの予定だったけど、爆竹が売られているのに知って急遽爆竹も追加したのだろう。言ってくれたら私も爆竹買ったんだけどな。


 「んなもん、まとめて片っ端から!」 

 「アイアイ!」


 カルロがそう言ったので、私は敬礼をしながら返事をする。


 「ファイアー!」

 「ヤー!」


 カルロが花火と爆竹にどんどんマッチの火を着けていく。花火と爆竹がぴゅ~と音を立てながら、次々空へと打ち上がる。花火は普通の花火だったけぉ、爆竹はやっぱりフリアクラブが売ってたやつだった。爆竹の音はピアノの音だったり、トランペットだったり、バイオリンだったり、フルートだったりと様々な楽器の音を鳴らして爆発する。


 「行けーっ。行け、行け、行けー! そこだ! ぶちかませ!」


 私は興奮気味に拳を振り回す。


 「これで、最後だぁ!」


 カルロが最後の特大花火に着火した。こ~りゃ、でかい花火があがるぞ~! やば、めっちゃ打ち上げって感じする。

 感極まった私たちは、お互いを労うように肩を組んだ。


 「学園祭……」

 「万ッ歳……!」


 勢いよく上昇していく花火をじーんとした気持ちで二人で見ていると、垂直に飛んでいたはずの花火が、今度は勢いよく右に曲がった。そしてさっきよりもスピードを増して飛び、近くの建物に突っ込んだ。衝撃の瞬間に息を飲んでいると、花火がつっこんだ建物が、鼓膜が割れるんじゃないかも思うぐらいの音の爆発音がした。ドガン! バン! みたいな。


 「ぎゃ!」

 「ぶぇ!」


爆風に吹き飛ばされた私とカルロは、肩を組んだまま地面に大の字になる。


 「いちぃ~。シャルル、怪我してねぇか?」

 「頭ぶつけたけど大丈夫。でもぐわんぐわんしてる」


 先に起き上がったカルロが、私の手を引いて私が立ち上がるのを手助けしてくれた。汚れてしまった制服を手で払えば、ちょっとはきれいになる。


 「で、さっきの花火、どうなったの? 建物の中入っちゃって、音がしたけど」

 「えーっと、あ――」


 あそこ、とカルロが建物を指差すと、花火が入っていった建物が大きな爆発音を立てながら大炎上していた。その様子に、私たちは言葉を失う。


「火事だ! 火薬庫が燃えてる!」


 遠くから慌てたような声でそう言っているのが聞こえた。 

 火薬庫?! 私がカルロのほうを見ると、カルロも私のほうを見ていた。


 「え、まっ、待ってそれはまずい!」

 「やばいやばいやばいやばい。バレたらやばい、今度こそ退学だって」


 今まで園芸部が育てている木の実を食べ尽くしたり、噴水で水遊びをして噴水周りを水でびちゃびちゃにしたりとやりたい放題していた私たちだが、運がいいのか今まで一度もこれらがバレたことはなかった。まあ、バレてもそんなやばいもんじゃないし。だけど今回は違う。これはバレたらやばい。退学一直線すぎる。


 「どうしよ?! どうしよ?!!」

 「消火活動手伝うべきか?」

 「行ったら行ったで怪しまれない? 私たちそんなキャラじゃないじゃん!」

 「えっ……じゃあ、どするん?」

 「……」

 「……」


 どうしよう、なんも思い付かない。それはカルロも同じなようで、私たちは無言でお互いを見つめ合う。体感で一時間経った頃、建物からまた大きな爆破音がして、屋根部分がぶっとんだ。……え、やばない?

 カルロが口を大きく開け、私もつられるように口が開いていく。


 「うぁああっ!」

 「ぎゃああああ! 逃げる、逃げるぞ!」


 私とカルロは手を繋いで、叫びながら校舎のほうへと走っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マヂア=マジーク・モンド=モーンド しろた @shirotasun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ