第14話 強襲されたガルディア(その6)

 ふとティオが目を覚ますと、マントを脱がされ、束ねていた後ろ髪がほどかれていることに気づいた。そして、周囲が異様なほどざわめいており、しばらくあたりを見渡すと、城の地下にある避難施設にいることに気づいた。


 「あ、起きたのね。」


 傍にいた何者かが、ティオに声をかけた。サラという、髪の長いピクシー族の少女で、寺院出身の医務官であった。


 彼女はアンナ女王の専属の治療師(ヒーラー)であったが、事態が収拾された後、多くの人の治療をする必要があるとアンナに判断され、避難していたのだ。


 現在、避難所は、臨時の救護施設となり、場内のけが人が何人も運ばれており、寺院から派遣されている僧侶や治療師がけが人を治療していた。


 「大丈夫?無理しちゃだめよ。」


 サラは心配そうに言った。


 「サラ…ちゃん、わたし、どうしてここに…」


 ティオはそうつぶやくと、瞬時に自分の身に起きたことが思い出されていった。


 「そうだ!女王様は?」


 声をだすと、胸に痛みが走って、軽く顔をしかめた。治癒魔法を受けても、すぐに痛みが引くわけではない。


 「落ち着いて!女王様は無事だよ!ただ…あまり状態が良くなくて、ご本人も、重症患者の方を優先させなさいって、寺院から派遣された治療師を、他の方に回しているから、治るのに時間がかかりそう。」


 サラの言葉を聞いて、ティオはすっかりしょげてしまった。


 「私のせいだ…女王様をお守りしなければならないのに…」


 「不可抗力だよ、あのゼオンという剣士、すごく強かったんでしょ。パラディンの人たちだって、ぜんぜんかなわなかったっていうし…」


 サラが必死ではげましたが、ティオの心は晴れなかった。そこへ、「すいません、ウチの妹がここにいるって聞いたんですけれども」という声が聞こえた。姉のディアナだった。


 「お姉ちゃんだ。」


 ティオのつぶやきを聞いて、サラが「ティオのお姉さんですか?」と声の主に聞くと、ディアナがこちらに向かってきた。


 「それじゃ、あたし、他に用があるから、あんまり気を落としちゃだめだよ。」

 

 サラはそう言うと、ティオは「うん、ありがとう」と言った。そして、彼女と入れ替わるように、ディアナがやってきた。


 「ティオ…大丈夫?」


 「うん、お姉ちゃんは?」


 「まあ、ちょうど運よく、遺跡探索に行ってたから…と言いたいけれども、あそこでもちょっとね。」


 「何かあったの?」


 「まあ、おいおい話すわよ。今は、体を治すことに専念しなさい。」


 ディアナは母親が娘を諭すような感じで言った。


 ディアナは47歳、ティオは18歳、ピクシー族は200年の寿命を持つため、時折、親と子ほどの年の差のある兄弟姉妹がいることがある。


 そのため、この二人は、時折親子のような間柄になることがある。


 一方、ロウは、ダグとともに、ハンスの元を訪れていた。彼も、臨時の救護施設にある担架に寝かされていた。彼は、逃げ遅れそうになった部下を庇って、けがを負ってしまったのだ。


 そのため、近くには、しょげた顔をした部下たちがいた。


 「ハンス隊長、すいません。俺らのせいで。」


 「いいんだよ、みんな無事でよかった。」


 ハンスは褐色の顔を少しひきつらせながら言った。治療師から回復呪文を受けてはいるが、大勢の治療をしなければならないので、応急手当のみに限定されており、回復するには、時間がかかる。


 「痛いのは嫌だって言っていたお前が、人を庇ってけがをしちまうなんてな…」


 ダグが静かに言った。


 「今だって嫌だよ、でもさ、あいつらを見ていたら、戦いに震えていた俺を、必死で励ましてくれたマックスのことを思い出しちまってさ…いてもたってもいられなくなっちまった。」

 

 ハンスはそう言った。


 「それより、ゴルドさんのことだけれども…」


 ハンスがダグに聞くと、ダグは沈鬱な表情を浮かべた。


 「ああ、あの人は何ともないけれども、娘さんがなあ…」


 ゴルドは、あの後、家族の元に向かって行ったが、娘が敵軍に殺されていたのだ。婿と孫娘はどうにか無事であったが、普段、家族とも一緒におらず、酒ばかり飲んでいたこともあり、ゴルドの後悔は計り知れなかった。


 「このゴルド、どれだけ酒浸りになっていようとも、一度戦場に戻れば、誰よりも勇猛に戦って見せると…そう思っていたのに、最後の最後で、大事なものを失ってしまったわ…」


 そう言って、ゴルドは娘の遺体も見ることさえできず、壁に寄りかかって涙を流していた。


 「爺さんの娘さんだけじゃねえ、ケニーとメーヴェの親父、バリオス将軍まで殺されちまったっていうぜ。」


 ロウは、いつになく沈鬱な表情で言った。


 「あの人に勝てるなんて、マックスくらいなもんだぞ、何者なんだよ、ゼオンってやつは?」


 ダグは険しい表情で聞いた。


 「さあな、おれが知りたいくらいだよ。」


 ロウは肩を落として、考え込むように言った。


 「後で、バリオスさんの遺体に、祈りの言葉をささげなきゃな。」


 ロウはそうつぶやいた。


 「不良僧侶だったお前にしちゃ、愁傷だな。」


 とダグは言った。


 「剣を教えてくれた人だからな。あの人から教わんなきゃ、おれは剣士に転職できなかったよ。」


 ロウは、この後、バリオス姉弟の元に行き、将軍の遺体を前に、魂を弔うための祈りの言葉を捧げた。


 一方、町の壁に、血文字で何かが書かれていた。多くの人に周知させるためなのか、壁いっぱいに大きく書かれ、見つけた者によるとこのように記載されていた。


 「我々は、コロッサス教団」


 

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シャイニングクルセイダーズ 蔵無 @ZOME

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