第13話 強襲されたガルディア(その5)
ゼオンの持っていた二振りの剣のうち、一つは、歪な形状をしていた。墨色の柄に、藍色の宝玉がはめこまれ、巴状になった鍔がつけられている。そこから、鋭利な刃が伸び、マナの力を受けて鈍く光っていた。
かつてマックスの持っていた閃光の剣と、瓜二つであったが、閃光の剣は、大理石のように白く、赤い宝玉がはめ込まれていた。
「そんな、マックスと同じような剣をなぜあいつが…」
アンナは目を見開いて、暗黒の剣を見ていた。
「これでわかったろう、私こそ、閃光の剣をもつにふさわしいと。」
ゼオンは無感情にそう言った。
「ケニー!」
「わかっているよ、姉さん!」
バリオス姉弟が、再び剣を構え、そして、ゼオンに向かっていった。
「いかん!」
オーブは魔道の書を開き、防御呪文使う準備をした。
「よかろう、お前たちに暗黒の剣の力の一端を見せてやろう。」
そう言うと、ゼオンは、暗黒の剣を大きく振るった。
すると、強力な冷気が出て、バリオス姉弟を吹き飛ばした。とっさに使ったオーブの防御呪文で、2人はどうにか助かった。
一方、ティオは、杖にマナを込めて魔法障壁を作り出し、アンナを守った。
「ティオ!大丈夫?」
アンナは心配そうに、声をかけた。
「大丈夫です。女王様。」
ティオはそう言ったが、冷気が強力すぎて、杖を握りしめていた手が弱冠冷凍やけどを負ってしまった。
オーブは戸惑いつつも、敵の攻撃を鋭く分析していた。
「この魔法、明らかに女王様と同じ氷雪魔法の力…否、先ほど女王様が放った魔法そのもの!もしや、暗黒の剣とは…」
「気づいたかオーブ、流石はクルセイダーズの軍師をしていただけのことはある。そう、暗黒の剣とは、閃光の剣とは真逆の力を持っている。すなわち、敵の魔法の力を吸収してしまうのだ。」
「なんだと!」
ゼオンの言葉に、オーブは驚愕した。彼の知識でも、そんな魔法の道具は聞いたことがないからだ。
「ええい、ならば、三方向から、今一度接近戦で仕留めてくれるわ!」
そう言って、ウォルフ将軍はブロードソードを抜き、バリオス姉弟もそれぞれ剣を構えて、ゼオンに向かっていった。
「愚かな…まだ、私とお前たちの差がわかっていないようだな!」
そう言って、自分に襲い掛かってきた三人を、まとめてなぎ倒した。三人は「守りの指輪」という、護符を持っていたために命は助かったが、体はボロボロであった。
ゼオンは、暗黒の剣を収納すると、徐々にアンナに近づいてきた。ティオは彼女を守るべく、ゼオンに立ちはだかった。
「駄目よ、ティオ!逃げなさい!!」
アンナの言葉に耳を貸さず、ティオは呪文で火の玉を作り出して、ゼオンに攻撃したが、ゼオンは片手で火の玉をはじき、ティオを殴り飛ばした。ティオは脇に飛ばされて、そのまま気を失ってしまった。
「オーブよ、余計な真似をするな、さもなくば、そこにいる女王を真っ先に切り殺してくれる。
全員に治癒魔法と補助魔法を使おうとしたオーブを牽制するように、ゼオンは言った。
「わたしを殺したければ、殺しなさい、だが、閃光の剣は決して渡さない。いつか、マックスがあの剣を手にして、お前たちのような蛮族を滅ぼしてくれるわ!!」
アンナの言葉を聞いたゼオンは、急に歩くのをやめた。
「これほどの無知とは、愚かさを通り越して、哀れすら覚える。」
「なんですって?」
「お前たちの頼みとしているマックスは、この私が殺したよ。」
ゼオンの言葉に、その場にいた全員が凍り付いた。アンナに至っては奈落に突き落とされたような感覚を覚えた。
「う、うそよ!マックスが殺されただなんて!!」
アンナは今聞いた事実を打ち消すかのように言った。
「事実だ、ここにいる全員の力を合わせたより、はるかに強大な力を持っていたがな、閃光の剣を持って行かなかったのが災いしたようだ。」
聞いていたオーブも驚きを隠せなかった。バリオス姉弟のうち、姉のメーヴェは目を伏せ、小声で「マックス…」とつぶやいた。
ケニーは、怒りで体を奮い立たせ、トゥーハンデットソードを手にして、立ち上がった。
「うそだ!あのマックスさんが、お前なんかに負けるわけがない!」
「事実だ。ここにいる全員の力を合わさった以上の実力を持っていたがな。」
ケニーの悲痛な叫びに対し、ゼオンはまるで煩わしいものを追い払うかのように、そっけなく言った。
「だが、閃光の剣を持っていなかったのが災いしたようだ。おかげで要らぬ手間が増えた。」
ケニーはゼオン言葉を聞くと、怒りの雄叫びをあげて、ゼオンに突進していった。怒りで頭に血が上っているにも関わらず、ケニーは鋭い攻撃を繰り出したが、ゼオンはそれをすべてかわしていった。
「なかなかやるな、部下にほしいくらいだ。」
そう言いつつも、ゼオンはケニーの剣撃をさばき、腹部を強打して、叩きのめした。
「弟から離れる!」
ケニーのピンチを見て、メーヴェはゼオンにレイピアを突き付けたが、ゼオンは瞬時にかわし、逆にメーヴェを蹴り飛ばした。
二人を打ちのめしたゼオンは、再びアンナに近づいていった。
「閃光の剣はどこだ!」
そう言ってゼオンは、アンナの胸倉をつかみ上げた。
「誰が、あなたなんかに…」
アンナがゼオンの仮面を睨みつけて言うと、ゼオンはアンナの腹部を強打した。
思わず、うずくまってしまったアンナに、ゼオンは再度聞いた。
「閃光の剣はどこだ?」
ゼオンの言葉は穏やかであったが、返答次第では、ここにいるすべての者を殺しかねないような殺意が籠っていた。
それでもアンナは、尚も黙り続けていると、ゼオンは彼女を蹴飛ばそうとした。すると、ウォルフ将軍がたまりかねたように叫んだ。
「やめろ!閃光の剣は、この城のどこにもない!!別の場所に保管されているのだ!!」
「だめです!将軍!あの剣を、この男に渡すわけには…」
「しかし、このままではあなた様の命が!」
アンナが叫ぶと、ウォルフ将軍は弁解するように言った。
ゼオンは、しばらく考え事をしているように黙りこくっていた。すると、どこからか、含み笑いが聞こえ、赤いフードつきのマントに、白い仮面をつけた奇妙な人物が現れた。
よく見ると、それは魔法で作られた幻影であった。
「ごきげんよう!ゼオン殿。」
どの幻影は、ゼオンに挨拶をした。
「何か用か?レッドラム。」
ゼオンは、その幻影に聞いた。
「寺院を襲撃したところ、こちらに閃光の剣がありましたよ。」
と言って、布に包まれた剣状のものを、ゼオンに見せた。
「やはり、そちらにあったか。」
二人のやり取りをみて、アンナは悔しそうに歯噛みをした。
「避難した住人を人質に取ったら、素直に渡してくれましたよ。さて、用済みになった人質は、どうしますか?消します?」
とレッドラムはゼオンに伺った。
「捨ておけ。」
ゼオンはそっけなく言った。
「おおせのままに。」
そう言うと、レッドラムの幻影は消えていった。
「命拾いをしたな、ガルディアの女王よ、それでは我々は退散する。」
そう言って、ゼオンは立ち去ろうとしたが、ケニーが再び立ち上がった。
「待て!その剣はマックスさんのものだ!」
「今は、私のものだ。」
ゼオンはそっけなく言うと、ケニーは再び剣を構えた。その様を見て、ゼオンも剣を構えたが、そこへ何者かが、大広間に現れた。
「父さん…」
それは、ケニーとメーヴェの父、バリオス将軍だった。
「お前たち、無事か?」
バリオス将軍は己の子供達に、声をかけると、床にうずくまっているアンナを見て、全てを察し、ゼオンを睨みつけた。
「この痴れ者が!」
そう言って、バリオス将軍は、剣を抜いてゼオンに突撃していった。
「いけません!バリオス将軍!」
オーブがバリオス将軍へ制止の声をあげた。すると、ゼオンは再び暗黒の剣を手にした。
「よかろう、貴様に見せてやる。暗黒の剣の真の力をな。」
そう言うと、暗黒の剣を大きく振った。すると剣は、不気味な黒い霧か煙のようなものを出し、バリオス将軍を包み込んだ。
「父さん!!」「父上!」
ケニーとメーヴェが叫ぶと、黒い霧がなくなり、同時にバリオス将軍は糸の切れた人形のように倒れてしまった。
オーブがバリオス姉弟とともに、バリオス元へ駆け付けたが、彼はすでに息を引き取っていた。
「ではさらばだ、ガルディアの者たちよ。」
ゼオンは、そう言うと、転移魔法(リターン)を使って、城から立ち去った。
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