第12話 強襲されたガルディア(その4)
ガルディア王城は、謎の軍勢に強襲され、激しい攻防を繰り広げられていた。その最中、紫のドラゴンに乗った一人の剣士が、城に降りた。
剣士はワインレッドのマントを纏い、白い鎧の上から、紫のチュニックを着ていた。そして、悪霊のような不気味な仮面に覆われており、その素顔はわからなかった。
剣士と同席している、ブラウニーの大僧正(ハイ・プリースト)は、参謀であるようで、探索魔法を使って城を探ると、剣士に報告した。
「やはり例の剣は、残念ながら探知できません。魔法で巧妙に隠されているのではないかと、マックスと懇意であった女王が所持しているのなら、彼女は広間にいます。」
「わかった。結界を張って、ここで待て」
と剣士は言った。彼は、この軍の指揮官であった。
剣士は、迷わずに広間の方に向かった。
途中で、女王を守護するパラディンや大戦士、大魔導士が現れて、仮面の剣士を攻撃したが、あっという間に切り殺されてしまった。
やがて、剣士は大広間の扉を切り裂いて、中に入った。
「何者だ?」
玉座から立ち上がったアンナが声をかけた。傍に控えているティオ、そしてオーブと、ドワーフの戦士隊を束ねるウォルフ将軍、そして、バリオス将軍の実子で、パラディンであるメーヴェとケニーの二人も、この無粋な侵入者を睨みつけてきた。
「我が名は、ゼオン。彼の兵団「鉄の蹄」の指揮官だ。」
仮面をつけた剣士は、そう名乗った。
「何故、この国を蹂躙し、民たちを辱めた。」
アンナは静かな怒りを込めて、ゼオンに問うた。
「我が目的はただ一つ、あの英雄マックスウェルが所持していたという、閃光の剣をもらい受けるためだ。」
「閃光の剣が目的だと?貴様は剣一つのために、これほど悲惨な事態を招いたというのか!」
アンナが激昂すると、ゼオンはクククと、含み笑いをした。
「あの剣の真価を知れば、国の一つや二つ等、軽く吹き飛ぶぞ。マックスはそんなこともお前たちに教えていなかったのか?」
ゼオンの言葉に、アンナ、オーブ、メーヴェ、ケニーの四人は、微かに動揺した。彼はどうやら、マックスについて知っているようであった。記憶を失くし、過去の経歴が一切わからないあの男のことを。
「マックスは剣と人の命を天秤にかけるような男ではない!そして、貴様のやったことは、最早、剣一つで済まされることではない!」
アンナの言葉に反応して、メーヴェとケニーは、ゼオンの前に立ちはだかった。
「ガルディア王軍、パラディン、メーヴェ・バリオス!」
メーヴェは名を名乗ると、金色の髪を軽く振って、レイピアを構えた。メーヴェは背が高く、彫りの深い顔立ちをした美女だが、並みの男よりはるかに優れた剣士である。
「同じく、ケニー・バリオス!」
ケニーもまた名乗ると、トゥーハンデッドソードを構えた。彼は、茶色の髪をした、精悍で引き締まった体つきの若者である。そして、メーヴェとケニーの二人は、姉弟であった。
「二人そろえば、マックスとほぼ互角の力を持つバリオス姉弟。あの二人なら、あの不埒者をやってくれますぞ。」
ウォルフ将軍はそう言ったが、オーブは思慮深げに黙っていた。
アンナは、思念のみで、メーヴェとケニーに言葉を送った。
―いいですか、2人とも、5分だけでもいい、時間を稼いでください。あの男は、私の攻撃呪文でしとめます。
―はい、女王様。
メーヴェとケニーの二人は、心の中で返事をした。
「いくぞ、ケニー。」
「はい、姉さん。」
バリオス姉弟は、2人揃って、ゼオンに攻撃を仕掛けた。メーヴェはレイピアを使って、素早く突きを繰り出し、ケニーは、見た目に合わぬ膂力で大剣を振った。
刺突用のイメージの強いレイピアであるが、実際は切れ味が鋭く、そこそこ重量もあるので、斬撃も繰り出すことができる。
メーヴェは突きだけでなく、斬撃も加えて、ゼオンの動きを牽制した。そして、ある程度、敵の動きが制限されていくと、ケニーはトゥーハンデッドソードでゼオンを斬りつけようとした。
元はケンタウロスが使っていたと言われているトゥーハンデッドソードは、ヒューマノイドの剣士の中でも、力自慢の者が好んで使っていた。ドワーフは力があっても、身長が足りないため、使いづらいのだ。
長大な大剣が、ゼオンに振り下ろされたが、ゼオンは、ロングソードを抜刀して、これを防いだ。その間にメーヴェのレイピアが、ゼオンに素早く突きつけてきたが、ゼオンはもう一つのロングソードでレイピアをはじいた。
とっさに、姉弟は間合いをとり、用心しながら、連携してゼオンに攻撃していったが、ゼオンは二人の攻撃を巧みに対応していった。
「何と、あの二人の猛攻も、ものともせぬとは…」
ウォルフ将軍は驚いた。
「単に力が強いだけではありません、力に優れるケニーの一撃を技で交わし、技に長けるメーヴェの攻撃は力づくではじいています。相手の性質を見極めているようです。」
と、オーブは言った。
「奴はそれほどの力量か!」
「ええ、そして、女王様もお気づきのようです。それゆえ、あの方の最大の攻撃呪文で、仕留めるつもりです。」
「第四段階の氷雪魔法か。」
ウォルフ将軍の言葉に、オーブは頷いた。
アンナは、緊張した面持ちでアンナを見守っているティオをよそに、一心にルーンの言葉を唱えて、マナを研ぎ澄ましていた。
攻撃呪文は、概ね、四段階に分けられる。一段階目は、魔法核と呼ばれる、マナで造られた球体型の精霊を作り出して、敵にぶつけるもので、第二段階は、より大きくなった魔法核で、魔法現象を作り出すこと、三段階目は、三つの魔法核を作り出し、四段階目で、精霊獣を作り出すというものである。
アンナのマナが高まってくると同時に、オーブは魔道の書を握りしめて、いつでも使えるようにしていた。
オーブは、あの、ゼオンと言う男から、なにか測りしてない何かを感じていたのだ。
やがて、アンナはマナを充填すると、魔力で杖を宙に浮かせ、水平に停止させてゼオンに狙いをつけた。
「二人とも!下がって!」
アンナの言葉に、メーヴェとケニーは飛びのくと、アンナは強力な魔力を込めて、六つの氷雪の魔法核を作り出した。魔法核は二重らせん状に動き、巨大なヤクのような形状となって、ゼオンに襲い掛かった。
「やったか?」
ウォルフ将軍が言うと、オーブは「いえ、何か様子が変です」と言った。
すると、ゼオンは片方のロングソードを使って氷雪のヤクの突撃を防いでいた。そして、ヤクはゼオンのロングソードに吸い込まれていった。
よく見ると、ゼオンのロングソードは、幻影魔法でカモフラージュしており、別の形状のしていた。
「あれは!」
オーブは思わず叫んでいた。色は、黒曜石のような漆黒で、青い宝玉がはめこまれていたが、紛れもなく、マックスが持っていた閃光の剣と同じ形状をしていた。
やがて、ゼオンの持つ剣は、完全に、アンナの魔法を吸収してしまった。
「姉さん!」
「ああ、あれはマックスの持っていた剣と似ている…」
バリオス姉弟も思わず呆然となった。
「そうだ、この剣こそ、マックスの閃光の剣と対をなす剣。暗黒の剣とでも呼ぼうか。」
とゼオンは言った。
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