第11話 強襲されたガルディア(その3)

 ゴルドと名乗ったその老人は、かつては魔戦士(アクロバティックな動きで戦う特殊兵)として、英雄マックスと共に戦った男であった。


 客たちは、皆、呆気に取られていた。何しろ、ゴルドと言えば、真っ昼間からパブで飲んだくれて、周囲にぐだを巻いていた困り者の老人として、有名であったからだ。


 「あのじいさん、本当にクルセイダーズの一員だったのか。」


 客の一人が、驚いて言った。


 「勇気のある奴は、ワシと共に来い!それ以外の者は、安全な場所に行くんだ!」


 ゴルドは、パブにいる冒険屋たちに言った。


 一方、町の中では、大戦士であるダグが、部下たちと共に奮闘していた。彼は、ドワーフの戦士部隊と、ヒューマノイドの兵士で築き上げたドラゴンコイルという、盾を並べた防御陣を組んで、敵の弓兵士の弓から防いでいた。


 しかし、騎士たちの投げつけた、爆薬が仕掛けられたスピア(投げ槍)によって崩されてしまう。


 爆破で後方に飛ばされたダグに、ケンタウロスの騎士は、間髪入れずに踏み込んで、彼を前足で踏みつけようとした。


 しかし、ダグは近くにあった盾を広いあげて、ケンタウロスの蹴撃を防ぐと、ドワーフならではの剛力で、ケンタウロスを押し返した。


 「この、チビのドワーフめが!」


 ケンタウロスは、そう言って、今度はランスで串刺しにしようとするが、何者かが背中を斬りつけてきたため、そのまま倒れてしまう。


 「ゴルドさん!!」


 ダグは、ケンタウロスを倒した、その老人に声をかけた。


 「ダグ!体がなまったか!」


 ゴルドは、高らかに言った。


 すると、四方から、ケンタウロスの騎士が集まってきた。


 「行くぞ、ダグ!お前は地上から、ワシは敵の頭上からじゃ!!」


 「はい!」


 二人のドワーフは、ケンタウロスの騎士たちに、果敢に飛び掛かっていった。ゴルドは、壁を蹴って、四方八方に飛び回り、ケンタウロスを上から奇襲をかけ、ダグは、ゴルドに気をとられている騎士たちを、真正面から突進した。


 二人の猛攻に、さしものケンタウロス達も、徐々に押されていった。


 一方、別の街でも、ケンタウロスの騎士達と、リザードマンの戦士による、混成部隊によって、襲撃され、兵士たちは押されていた。


 すると、彼らの頭上から、ローランドグリフォンにまたがった、壮年のヒューマノイドが現れた。トゥーハンデッドソードを持ち、指揮官の鎧をまとったパラディンである。


 「あのパラディンの顔、出で立ち、もしかして、あのマックスの師、バリオスか!!」


 騎士の一人が言った。


 「打ち取れ!手柄にするのだ!」


 騎士たちは、そう叫んで、バリオスに突撃していった。しかし、バリオスは、落ち着いた表情で、剣を掲げると、自分に突撃していった、騎士とリザードマンをあっという間に切り殺した。


 「バリオス将軍!」


 部下の兵士が声をかけた。


 「見たか!ケンタウロスやリザードマンといえど、決して無敵ではない、脚部や脇腹など、奴らにも弱点はある。」


 バリオスは兵士たちに鼓舞した。


 「もはや、これは決闘ではない!戦である!地の利を生かし、敵を不意打ちしてでも討ち取るのだ!!」


 バリオスの言葉に、兵士たちは活気づいた。バリオスは、グリフォンにまたがると、町中を駆け巡り、指揮を執った。その一方で、頭の中にマックスのことがよぎった。


 ―こうした時に、お前がいてくれればな、マックス殿。


 一方、王宮では、アンナは、かつての魔導士の衣装に着替え、周囲に指令を下していた。


 「地下施設がこれ以上収容できないのなら、寺院へ避難をうながしなさい!弓兵士達は、火砲を使ってでも城の護りを!魔導士の攻撃呪文は全面解禁とします!」


 一方、城の周囲には、蒸気機関の戦車が迫り、火砲を使って、城を攻撃してきた。ガルディア王城は、魔法によって、強力な結界が張り巡らされているが、それでも、戦闘経験の浅い弓兵士は、目の前で爆発する榴弾に肝をつぶし、中には怯えて、縮こまる者もいた。


 かつてのクルセイダーズの一員であった、ブラウニーのボウマスターであるハンスは、爆薬のついた矢を、敵の戦車に向かって正確に狙い撃つと、怯える弓兵士に向かって叫んだ。


 「少しずつでもいい!!できる限り弓を構えて、敵を撃つんだ!さもなければ、死ぬのは我々だけではないぞ!」


 ハンスの言葉に促されて、若年の弓兵士達は、どうにか闘志を奮い立てた。


 城の内部では、魔導士達が、防衛のための結界を張り、そして索敵魔術を使って、状況を監視していた。


 すると、魔法結界に異常を探知した。


 「大魔導士(マスターメイジ)様!こちらの結界のマナが徐々に浸食されてきています。」


 「なんだと!」


 「敵軍の魔導士並びに僧兵と思われる部隊から、こちらの魔法防壁にマナを浸食させる呪文を唱えている模様です!」


 「弓兵士、そしてグリフォンライダー隊に通達して、敵の魔導士、僧兵に攻撃させよ!」


 「残念ながら、弓兵士達も、ライダー隊も、敵の攻撃を受けて、戦力に余裕がありません!それと、敵のドワーフたちによる工兵部隊により、結界がもろくなった部分から、外壁を破壊されて、敵が侵入してきています!!」


 部下の魔導士達の報告を聞いた、マスターメイジは、演算予測魔法(オラクル)を使い、情報の解析をした。


 そして、通信魔法を使って、参謀官であるオーブに連絡をした。魔法で映し出された四角い幻像に、竜のような顔をしたオーブが何事かと応対した。


 「オーブ様、オラクルを使った解析により、この城の魔法防壁は、あと30分と持ちません。城内での白兵戦を行い、魔法防壁は地下の避難所のみに集中するべきと思われます。」


 マスターメイジの報告を聞いたオーブは、緊張した面持ちになった。


 「わかった、こちらのオラクル班も同じ予測をしたところだ、これより白兵戦に展開する。」


 オーブはそう言うと、魔法通信で、場内にいる兵士たちに、魔法防壁は避難所に集中させ、白兵戦をおこなうことを伝えた。


 城内では、王宮の侍女たちが、肩にアンナの使い魔であるアレックスを乗せたメイド長の導きで、避難所に向かっていた。すると、壁が急に壊され、ドワーフの工兵部隊が侵入してきた。


 敵の強襲におそれおののく侍女たちの中、何者かが、目くらましをした。カーバンクルのアレックスが、魔力でドワーフの目をくらませたのだ。その隙をついて、メイド長は、ショートソードでドワーフの体を突き刺した。


 「急ぎなさい!」


 メイド長は、怯える侍女たちを叱咤した。そして、近くに寄ってきたアレックスに「ありがとう」と言うと、再びアレックスを肩に乗せた。


 その頃、敵軍の中に紫のドラゴンにまたがった者が、場内に進入した。その者は、仮面を被っており、二振りの剣を持っていた。

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