あの子と僕のスタート

こなひじきβ

あの子と僕のスタート

 何かを始める時、必ず何かが終わりを迎える。


「初めまして、これからよろしくね」

「……うん、よろしく」

 

 新しい人付き合いが始まれば、一人で過ごしていた時間が終わる。新しい遊びを始めれば、これまでの自分にとっての遊びの概念が終わる。


「君、けん玉上手いんだ! 凄いね!」

「そ、そうかな……?」


 自分のやってきた事が認められ始めたら、ただ自己満足でやって満たされる行為が終わる。自信がつき始めたら、自信の無い僕に終わりを告げる。


「も、もう門限だから帰らなきゃ……」

「えー? いいじゃん! ちょっとぐらい平気だって!」


 約束を破り始めちゃったら、真面目だった自分が終わってしまう。不安だったけど、君が連れ出してくれた時間はとても楽しかった。



「――お友達には、もう会えなくなってしまったの。あの子はちゃんと歩道を歩いていたのに……」


 

 あまりにも突然だった。僕の世界を広げてくれた彼との時間が、終わってしまった。どうしてだろう、何も始めていないのに。……始まったのは、孤独に戻ってしまったという永遠にも感じられる虚無。


「嫌だよ……寂しい……苦しい……」


 始まらない。何も始まらない。この呟きも、あの子にはもう届かない。うずくまっていてもあの子との時間は既に終わってしまっている。始まりはいつも明るいものだって、あの子は教えてくれたのに。


「……お腹……空いたな」


 どの位時間が経ったのだろう。何も考えられない時間を打ち切って、僕の思考が巡り出した。


「自分で始めなきゃ、何も変わらない……君は、それを教えてくれていたの?」


 始めるためには、何かを終わらせる必要がある。もう閉じこもるのは終わりにしなきゃ。彼は始めることの良さを教えてくれた。あの子が僕に教えてくれた事を、このまま無駄に終わらせる訳にはいかない。


「もう、前を向かなくちゃ」

 

 だから僕は、漸く、初めて自分の力でスタートを切った。

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あの子と僕のスタート こなひじきβ @konahijiki-b

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