ヨタカとハヤブサ

まきまき

第1話 はじまり。

 社会の歯車。とか、金持ちの奴隷。とか、――そういう、フツーに生きている人間をバカにしたりするお話をたくさん見てきたからだろうか。そういう考えがしみついてしまったかもしれない。

 でもさぁ、フツーに生きてるのがダメとかそう言う話をしてるんじゃなくて……。何を言いたいのか分からなくなってきた。

 結局私はバカで、バカな自分を正しいって思いたいだけなのかもしれない。


「小宮山、もう上がってええで」

「あー……締めもやりますよ?」

「マジで? たすかるわ」


 結局、ファミレスで適当に深夜まで働いている時点で。私だって歯車じゃないか。フツーよりも下の、バカみたいな――バカにしてたやつより、お金も、心も。ずっとずっと貧しくなっちゃった気がする。

 寒くて高い空の下。白い息を吐きながら、停めた原付に腰かけて煙草に火をつける。吸い込んだ煙が沁みたり――しない。そんなセンチメンタルな人間ではないのだ。


「さっさと風呂入ろ……」


 家賃七万。ちょっと高いと思う。でも、バイトを複数掛け持ちしていれば。タダのフリーターでも、ぎりぎり生活はできるのである。できるだけ。コンビニでちょっと高いなと思いながら買ったり、スーパーで安いものを買い集めて適当にいためたり煮込んだりするだけの生活。

 夢も希望もないのは、生活のせいじゃない。私のせいだ。


 お金を持っている私の生活を想像しても――似たような暮らしをしている。きっと、限度ギリギリまでつまらない金の使い方をして、悔いるだけ。

 私の暮らしは、全然話にならない。私という人間に中身が無いから。――どこに居ても、駄目な奴な気がする。


 マンションのエントランスに、ガキが座り込んでいた。こんなに寒い日に、家出とか。いじめとかだろうか。

 寒いのに大変だが、ガキにはガキの世界がある。私には何をするつもりもない。余裕もない。知ったことか。


 開錠して、エントランスから中に入ろうとして――ガキが、私の方を見た。


「小宮山よだか――であってる?」

「なんやお前……私にお前みたいなガキはいない」


 ガキは、私を見据えてフンと笑った。むかつくガキだ。関わり合いにならないほうがいいかもしれない。私は踵を返して、家に入ろうとして。


「まて! 用事があるに決まってるだろ! スマホに連絡きてるだろ!?」

「ん……あぁ、バ先に忘れた」


 明日も行くんだから別にいいだろ。


「このままだと死ぬから言うけど。今日から私、お前の家で暮らすことになったから」


 あー。


「しゃあないな、さっさと入るか」


 嫌な予感しかしない。

 

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