第5話 動き出す姉妹
「にしても、相当強固な結界を張っているのね」
ロッテ姉さんは感心したように周りを見回す。エルディは安心したのか眠ってしまったようだ。
「10年ぶりだから、こんなに強い魔力を浴びるのは懐かしいわ」
「一応、私の工房には特許技術もたくさんあるから、二重の結界が張ってある。物理攻撃と魔術攻撃に対するものをね。両方とも、もし破られたら、護衛用のゴーレムが侵入者を排除するわ」
「なら安心ね」
「とりあえずは。アラキエル様をも消したっていう攻撃に対抗できるかは、分からないけど」
私は思わずため息をついた。
アラキエル様は、人でありながら神の使徒にまで上り詰めた存在。文字通り人智を超えた存在なのだ。それを消し去るとは、敵の実力は未知数だ。
だが、たとえまぐれで倒せたとしても、同格以上の存在が残り十一人いる。仮にロッテ姉さんの言う通り、異世界人の侵略だとしても、食い止められるはずだ。
「地球人の侵略だとしたら、早急に手を打たないといけない。でも私、地球の人たちがそんな残虐なことをするとは思えないのよね」
ロッテ姉さんは、苦しげな表情で語った。向こうで出会った人に、相当思い入れがあるのだろう。
「姉さんから見て、地球は倫理観高めだったの?」
「少なくとも私の関わった人たちは、皆優しかったわよ。私の召喚が期待外れだと分かっても、就労支援してくれたし、差別されることもなかった」
とはいえ、向こうの世界にもいろいろな人がいるはず。悪辣な手で侵略を企む者もいるだろう。
「ロッテ姉さんの知識が役立ったりしないかな? 向こうではどんなことをしていたの?」
「私はね、向こうで公認会計士という資格をとって、コンサルティングファームで働いていたのよ。向こうの世界は金勘定や帳簿の整備が進んでいてね。要は適切に帳簿が書かれているかチェックしたり、商会の経営改善を行ったりしていたわ」
戦闘には役立たなそうなスキルだ。
でも、異世界人がこっちの資源を目当てに侵略しているのだとしたら、役立つのではないか? 相手は何も、大量虐殺がしたくて王城を攻めたのではないはず。経済的に利得があるから侵略しているに決まっている。
ならば、王座が空位となり、近衛騎士団も壊滅した今、私たちにしかできないこともありそうだ。
「ロッテ姉さん」
「なに?」
「私たち、王選に出ましょう」
私はそんな提案をしてみた。
空位が長く続くわけがない。必ず、次代の王を選ぶ手続きが行われるはずだからだ。
ダンヴェール姉妹、異世界会社合併に挑む 川崎俊介 @viceminister
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