第4話 蹂躙のはじまり

「待って。誰か来た」


 私がロッテ姉さんの思い出話を聞いていると、微弱な魔力の気配を感じた。警戒しつつ外に出ると、知った顔があった。


「エルディ! どうしたのよ? そんなボロボロの格好で……」


 幼馴染にして近衛騎士団員、エルディ・イーゼルベルクだった。いつものギラついた高濃度の魔力は感じられない。そもそも、底抜けに明るいエルディが憔悴しきっているところなど、見たことがない。


「まずい……王城が襲われた。国王陛下も亡くなられた。このままだとこの国も……」


「襲われたって……あんたたちがいたのになんで……」


 ラシド王国の近衛騎士団は格闘・剣術・魔術ともに随一の実力者が集う集団だ。ましてエルディは、飛び道具除けの加護も持っている。簡単にやられるとは思えない。


「いや、逆に考えて、エレナ。エルディは飛び道具除けの加護を持っていたからこそ、一人だだけ生き残れたのかもしれない」


 ロッテ姉さんがそう指摘する。


 エルディの方はというと、姉さんが帰ってきていることに驚く余裕すらないようだ。


「いかに魔法で強化した矢を使ったとしても、それは不可能では?」


「地球にはね、弓矢なんかより強力な銃火器が存在するのよ。それこそ、持ち運び可能なサイズの大砲とか」


 大砲以上の火力を持つ魔法はあるが、そんな武器はこの世界に存在しない。だとすると、騎士団員の高い魔術スキルでも防げなかったことに、納得がいく。


「あぁ、そんな感じだった。火薬が爆発するような音はしていたよ。ただ、あまりにも速すぎて誰も防げなかった」


「この国の守護天使アラキエル様が黙ってないはず。賊が王城にのさばれば、すぐに退治してくれるはずよ」


 十二守護聖は、人間の限界を超えた存在だ。それでも負けるようなら、この国は終わりだ。


「俺はアラキエル様を呼んだよ。でも、奴らに消された」


「消された? 一体どんな手を使ったの?」


 私は驚きのあまり、追加で質問してしまう。


「分からない……分からないんだ」


 エルディはその場にうずくまってしまった。


「エレナ、もう休ませてあげよう。ほらエルディ、着替えて横になりなさい。エレナの結界で、ここは安全だから」


 ロッテ姉さんに介抱されるエルディを、私は呆然と見送ることしかできなかった。

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