第3話 地球からの侵略者

 一方、ラシド王国王城では。


「困りましたねぇ、我々は土地の権利を売ってほしいと言っているだけなのです。代価は言い値で払うというのに、受け入れて頂けませんかねぇ?」


 武器商人の綾垣竜樹は、国王エルデレイト4世にそんな要求をしていた。否。数多の傭兵を引き連れた彼の言葉は、脅迫に等しかった。


「ローデシア地方の湖畔は、賢竜ヒュドールとの誓約で不可侵の聖域となっている。明け渡すわけには……」


「もういい。竜などと下らん世迷言をほざくようでは、話にならんな。この原住民ごときが」


 竜樹は拳銃を取り出し、国王を撃ち殺した。


「貴様ッ、国王陛下になんてことを……!」


 すぐさま近衛騎士が斬りかかるが、傭兵たちが次々と射殺していく。王座の間は一瞬にして地獄と化した。


「原住民と交渉するだけ無駄だったな。最初からこうしていれば良かった」


 転がる死体を前に、竜樹は無慈悲な侮蔑の言葉を吐いた。


「そうだよなぁ? ルリア?」


「仰る通りですね。価値観・倫理観・法律体系が違う以上、交渉は無意味です」


 不定形のスライムが死体を全て呑み込み、人間の姿に変身した。


「ただ一つ、訂正があります。この世界にドラゴンは実在します。賢竜ヒュドールも、いずれは殺処分すべきかと」


 人間の女性の姿をとったそのモンスターは、無感情に述べた。


「そうだな。この世界の伝説・伝承などいちいち検証してられない。さっさと実力で黙らせなければ、先行者利益は上げられないからな」


「えぇ、ただ、生き残りがいるようですね」


 ルリアは触手を射出し、生き残っていた近衛騎士を拘束した。


「メッセンジャーとして逃がす手もある。食い殺すなよ?」


「貴様、こんなことをして済むとでも思っているのか? 十二守護聖の一角、天使アラキエル様が天罰を下すぞ!」


「ハハッ、竜の次は天使か。大したファンタジー世界だよ。ここは。では呼んでみろ。天使様とやらを」


 次の瞬間、王座の間は閃光に包まれた。


「エルディ・イーゼルベルクどの。よくぞ耐えました。ここからは私が」


 有翼の天使が降り立っていた。黄金の魔力を纏う彼女は、瞬く間にルリアの触手を切り落とした。


「ルリア、こいつが天使で間違いないか?」


 竜樹は拳銃を連射しながら問う。


「そうでしょうね。銃弾も通らないようですし」


 実際、黄金の魔力によって悉く銃弾は弾かれていた。


「そうか。では別の方法を試さねばならんな。例えば、これとか」


 竜樹がルリアの身体に手を突っ込むと、一振りの宝剣が出てきた。


「【ヤシュルの剣】。神殺しの剣と名高いようだが、そんな伝説が本当か、試したくなった」


 竜樹が宝剣を振るうと、天使アラキエルの剣は折られ、翼は斬り落とされた。


「ぐっ」


「ハハッ、こりゃあいい。天使様といえど神をも殺す武器には耐えられんか」


「ただで済むと思うな。天上魔法【神罰執行】」


 高密度の魔力が集束していく。


「大技が来るようだが、耐えられるか? ルリア?」


「不可能です。【神罰執行】はこの世界に存在する全生物に対して有効な即死攻撃。当たれば必ず死にます」


「おっと、もう詰んでるってことか?」


 神罰の閃光は、竜樹の眼前にまで迫る。


「えぇ、ただ一つ、抜け道があります。【ゲートオープン】」


 地球へのゲートを開く魔法が発動する。【神罰執行】は間一髪のところで静止していた。


「天使の魔法は【あの世界】でのみ有効なもの。世界の外、つまり一瞬でも地球に戻れば、届きません」


 竜樹の周辺には魔法陣が展開され、地球の草原が顕現していた。つまり、竜樹は【そこだけ地球】な状態を作り出してもらったのだ。


「こりゃあいいな」


「はい。そして、これは攻撃にも転用可能です」


 ルリアが魔力を込めると、ゲートの範囲は拡張され、天使をも呑み込んだ。


「な、これは……」


「天使とは世界に紐づいた存在。いわば世界の部品そのもの。地球に移動させようとすれば、当然無理が生じる」


 ガリガリとアラキエルの身体は削られていく。この世界から動けないという制約と、地球に転移したという状況が、競合を起こしていた。その結果、起こるのは。


「いわば、エラーを起こして消滅するわけです」


 アラキエルの身体は、光の粒となって消え去った。


「さすがだ、ルリア・サブライム。お前を雇って正解だった」


「痛み入ります。私どもは最弱種として嬲られてきましたから、天使を消す程度、一切の迷いはございません」


 冷徹にそう言い放つルリアを、竜樹は頼もしいと感じていた。

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